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映画「牛久」レビュー

映画「牛久」レビュー

日本は極めて同質性が高い国だからなのか、同じコミュニティの中にいる人、あきらかにお客さんである人に対してはとてもホスピタリティにあふれている。物価も先進国としては安いので、旅行で訪れる国としては最高の国の一つだろう。

一方で、システムから外れた人に対しては、日本人が相手であっても冷酷になる。それは「おもてなし」の国である日本のB面で、現代版の村八分のようだ。児童相談所の中にある一時保護所において

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「イカゲーム」の売る力

何かと話題のイカゲームを観てみた。確かによくできていて、合計時間の450分くらいが一瞬で過ぎる。

ただ、日本にここ20年くらい住んでいた人であれば、テーマに新奇性があまりないと感じると思う。本作品は、カイジとバトル・ロワイアルを足して2で割りながら、当時よりもさらに悪化した格差拡大の要素を加えたようなものになっている。「パラサイト」や「万引き家族」と通じるテーマだ。

だけど、カイジもバトル・ロ

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起業のすすめ

起業家が起業について本を書くのは勇気がいることだ。文章術について本を書くのが怖いのに似ている。「じゃあお前の事業(文章)はどうなんだ」という声が常に聞こえてくるからだ。しかも、佐々木さんは最近起業をしたばかりで、本書の出版時点において起業家として成果をあげたわけでもない。

NewsPicksは時に「サラリーマン」の感情を逆なでするような企画を組んでいたけれども、佐々木さん自身は企画に酔わない冷静

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サステナブル資本主義

著者の村上さんとは以前にお話をしたことがあり、とても聡明な人だ。その村上さんの初の著書を頂いたので読んでみた。タイトルの、The Sustainable of Capitalismってあまり見ない英語表現だけど、本のいくつかにも同様に書かれていて誤植ではないと思うのだけれども、どういう意味なのだろう。(Sustainable Capitalismならわかる)

ちょっと前にインパクト投資についての

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S, M, L, XL+

現代建築界の世界的なロックスターといえば、レム・コールハース。そのコールハースについては、建築と同じくらい本が大切だと言われている。日本語版がやけに安いなと思ったら、原著とは全く別物で(原著は1300ページの図版付きの巨大書物)、原著の重要エッセイを翻訳し、最近の講演録やエッセイを付け加えたもの。翻訳作業に10年以上かかるうちに、グダグダになったのだろうと想像する。

都市計画は不可能であるという

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積読をゼロにする方法

積読は二重の意味でコストが高い。そもそも読まない本代がもったいないし、一度積読されてしまった本を読み始めようとするのは、実際に本を買うより難しいからだ。

本屋さんと出版社には申し訳ないけれども、この問題は下記の方法で解決できる。

1. 自分が同時に読む本の数を決める:僕の場合は専門書1、小説1、その他でだいたい3つくらい。特定の分野について調べ物をしているときは、例外的に10くらいになったりも

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Cas9

ちょっと前くらいから、「いま自分が学生なら何の分野を学ぶか」という質問に対する答えは、バイオサイエンスだと言っている。ゲノムがデジタルで描写できるようになったこと、計算機の演算能力が極めて高くなりアルゴリズム開発も容易になったこと、遺伝子操作をできる技術がある程度確立されたことによって、この領域で起きる変化は極めて大きくなると想像されるからだ。

アナログでしか存在しなかった情報がデジタルデータに

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小説「Pachinko」

仕事で関わる人たち数人から「テジュン、Pachinkoって小説知ってるか?オバマも推薦してたけど、ぜひ感想を聞かせてほしい」と言われてずっと読みたい本リストに入っていたこの本、ようやく読み終えた。

僕が読んだのは英語版だけど、日本語版の翻訳もとてもよくできているらしい。

久しぶりに、読後に感想文をさっと書けない本に出会った気がする。Korean Americanである著者が膨大な労力をかけて書

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家族類型や教育格差から見る世界

読書会でエマニュエル・トッドの本をいくつか読んだ。
・大分断 教育がもたらす新たな階級化社会
・エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層

彼の本は英語圏ではほとんど出版されていないし、出版されたものもあまり読まれていないようだ。そして、なぜか日本語圏ではとても注目されていて、しかも日本人読者向けの本まで書いている模様。そういうことをするインセンティブは普通の知識人・思想家には存在しないので、形

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夜を彷徨う

翁長知事が勝利した知事選あたりから、沖縄とのつながりが少しずつできるようになってきた(当時、相当に悩み抜きながらポリタスへの寄稿も一つした)。

そして、また一つ本を頂いたので、それを読んだ。先日紹介した、「沖縄から貧困がなくならない本当の理由」のような構造的な問題叙述の本ではなく、ルポタージュ形式の本。身体を売る、麻薬を売る、暴力にはしる子どもたちの様子が描かれている。

最近は多くの地方新聞社

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アメリカの世紀と日本

日本の現代史、特に太平洋戦争から戦後にかけての本については、アメリカ人研究者が書いた本のほうが読み応えがあるものが多い。若干客観的に見られるということもさておき、日本の戦後はアメリカによって形作られたものであるし、資料へのアクセスがしやすいとういのも一因なのだろう。

Japan in the Americal Century(日本語タイトルはいかにも日本での読者向けに翻訳された感がある)は、ジョ

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自分の世界に対する態度が、世界の見え方を決めている

先日読んだHumankind:A Hopeful History(まだ翻訳は出ていない)がとても良い本だったので、ちょっと書いてみる。

人間はそもそも社会的な動物であり、協力するようにできている。だからこそホモ・サピエンスは他のヒトと違って氷河期を生き残ることができた。災害が起きたときなども、多くの人々は極めて協力的になる。東日本に当時いた人であれば、震災時に大勢の人が助けあったことを覚えている

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沖縄から貧困がなくならない本当の理由

翁長さんが知事になった沖縄知事選挙について書こうと決めたときに、何も知らなかった僕に沖縄を教えてくれたのが樋口さんだった。

タイトルは「沖縄」とあるし、実際にそうなのだけど、これは程度差はあれど日本全体にも言えることだと思っている。著者は、沖縄から貧困が無くならない理由は、下記のような構造によるものだと喝破する。

・大勢の人たちが現状維持を望み、現状を変えようと声を挙げる人たちがやんわりと周辺

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近代家族の成立と終焉(新版)

上野千鶴子さんの論文集。学者が本気で書いたものを読むのには時間がかかる。読み始めてから終わるのに3週間かかった。

1990年代前半に書かれた論文が大部分を占めているが、その主張は今でもほとんど色あせていない。それは著者の洞察力もさることながら、日本におけるジェンダー非対称が改善してこなかったことにも理由があるのだろう。

特に印象に残っている論文の一つは、「家族、積みすぎた方舟」だった。この論文

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