好きなことしか本気になれない(仕事にできない)

本書にもあるように、いま20〜40代の人たちは、何らかの病気や事故がなくあと20年くらい生きられると、たぶん100歳以上まで生きる。それと同時に、いまある普通の仕事はなくなっていく。僕たちはたぶん60年くらいは働いていることになる。

そんなこれからの世界では、自分が得意で好きなことをして生きていないと辛すぎる。「好きなことをして生きていこうぜ!」というような紋切り型の主張をしているわけではない。単なる状況判断として言っている。好きなことをして生きていかないで60年も働いたら、精神が途中でおかしくなってしまうんじゃないだろうか。

こういうことを書くと「でも、給料を我慢料として生きている人たちもいるし、私もこうやって苦しくてもやっているのに」というような反論がくるかもしれない。確かにその苦しみも分かるのだけど(僕もいろんなバイトをした)、たぶん残り40年とかスパンだとそのスタイルは精神衛生以上の意味でも辛くなる。というのも、辛い仕事には辛いなりの「プレミアム」がついていて、それこそ機械にさせたほうが皆ハッピーだよね、という人たちがきっと出てくるからだ。高度経済成長期は終わってしまったので、我慢を続けた先にいいことは多分あまりない。

大勢の人が安寧な生活から放り出される日がくる。それは3年とか5年後じゃないかもしれないけど、今のトレンドを見ている限り蓋然性が高い。だとしたら、今から準備をするしかない。同じテーマについて書かれた本に「僕は君たちに武器を配りたい」があるけど、本書は南さんらしい語りと優しさからこのテーマについて書いている。「僕武器」よりは実践的なのが著者らしい。

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著者である南章行さん(僕たちは「あきさん」とよんでいる)に会ったのはもう10年前になる。秋葉原で開催されていたブラストビートとLiving in Peaceの意見交換飲み会だったはずだ。彼はものすごい勢いで自分の仕事とNPOについてまくし立てた(10年経った今も、語ると止まらない)。当時の僕はただただその言葉量に圧倒されていた記憶がある。今でも2010年に毎週のように遊んでいたのは懐かしい。

一緒によく遊んでいたとしても分からないこともあるわけで、あの時期にあきさんがこういう状況だったんだなというのが今更ながら知ることができて、友人としてはそれもありがたかった(話に聞いていたA鬼軍曹の話も面白かった)。

そんなあきさんが起業した頃のことはとてもよく覚えている。3.11があり、皆が自分の生き方について改めて考えさせられている時期に、彼は起業した。共同創業メンバーは二人とも僕の友人でもあった。

ココナラ(当時の社名はウェルセルフ)の創業時期で強く覚えていることがある。

PEファンド業界の人々(ファンドの人とか弁護士さんとか会計士さんとか)での飲み会があり、そこにあきさんも参加していた。会社はまだ開始間もない頃だったし、事業もピボットしていた頃だったので、とても辛い時期だったと思うんだけど、その飲み会で参加した人がニヤニヤ冷笑しながら「あれ、まだプロトタイプも出てないの?」とあきさんに聞いていた。あきさんがどういう顔をしていたのかは覚えていない。僕は彼の顔を見られなかった。

そういう苦しい時期だったのだけど、創業者三人と目黒で安いホルモン焼き屋に入ってご飯を食べたことがある。あきさんが元々いた世界の人たちの冷ややかな目線なんて全く気にしていないかのように、三人は今の事業と夢を語っていた。それを見て僕は何故か感極まって「皆さんの会社、きっとうまくいくと思いました」みたいな話をした記憶がある。(あれは一体何年前だろうか・・・)

ベンチャーって「もうだめかもな」と思うことの連続だ。でも、僕の見聞きする限りでいうと、100くらいの「もうだめかも」案件のうち、95件くらいは、全力で取り組めばなんとかなる。一部のトントン拍子で成功するベンチャーを除くとたいていのベンチャーは困難の連続で、それを切り抜けられるかどうかはメンバーたちの想いの強さにかかっている。それは、心から好きでもない仕事を、単にスキルがあるから・頭がいいから・お金が儲かるから・プロだからという理由でやるだけだと出来ないことかもしれない。

今だから僕も白状すると、最初ココナラのサービスを見ていたとき、これをどうやって成長させ利益が出る事業にするのか僕には想像がつかなかった。マネタイズ難易度はベンチャー別に異なるのだけど、僕の個人的な意見ではココナラのそれはかなり高いんじゃないかなと思っていた。でも彼らはやり抜いてきた。Hats off. すごいことだ。

そんなあきさんがどういう思いで今の仕事をしているのか、本書を読めば、彼を知らない人でも感じることができる。本書で紹介されているいくつかの考え方や実践のヒントよりも、本書の半分以上を占めている南章行の人生から学べることが多いんだと思う。

ちなみに、あきさんの真骨頂は喋りなので、本書を100冊くらい買って講演会とか呼んだらいいと思う。参加者何人かの人生はきっと変ると思う。かくいう僕の人生も、あきさんがいなかったら、今とは少し違ったものになっていたと思う。

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