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中国雑感

前にベルリンで参加したグローバル・ガバナンスに関するフェローシッププログラムで、今回は中国にきている。もう中国人のフェローたちとも仲良くなって、北京の色々な場所に案内してもらったり、現地の公園をランニングしたりしながら、沢山の話ができた(なお、ここ数日の北京は見事な快晴で、空気もとてもきれい)。現地の専門家たちの話を聞きながらだいぶ考えがまとまったので、ちょっと書いておこう。

個人的にずっと感じてきたことは、文化大革命とその後の諸々の収集がついて、鄧小平が中国の舵取りをするようになってからは、中国の外交政策は常に非常に合理的だということだ。領土問題ひとつとっても、あきらかに全ての国(特にアメリカ)が妥協せざるを得ないことが分かるような現在の状況になってから、紛争を起こしている。詰碁や詰将棋をやっているような、極めて合理的な打ち手を常に打ってきている。国家首班の感情や個人の進退への影響などによって国の政策が左右されているような感じが全くしない。その意味で、政治における老練さでいえば、明らかにアジアで群を抜いている。

そんな感想をぶつけてみたら、多くの人がしてくれた反応は、「そりゃそうだ。特に外交政策においては、中国の政治において一貫している思想はプラグマティズムだからだ」というものだった。これは完全に我が意を得たり、という回答だった。老練さというのは大国の歴史が生み出すのだろうか。

こういったやりとりをしながら、中国が外交政策において今何を考えているのかがかなり明瞭に理解できた気がする。特に日本という文脈から大きな点を二つ挙げるとすれば、次のようになる。

第一に、中国が今後30年間で目指しているのは、パックス・シノ-アメリカーナのようなものだろうということだ。つい最近までの、アメリカのもとでの秩序と平和(パックス・アメリカーナ)でなく、中国とアメリカの下での秩序と平和を目指す。中国の現在の立ち位置を考えれば、これ以上の合理的な戦略はないだろう。

第二に、日本が思っているほどに中国は日本を相手にしていないということだ。相手にしていないというと言い過ぎだけど、どちらかというと、このパックス・シノ-アメリカーナの下での有力な隣国、といった位置づけでしかない。実際問題として、アメリカとディールさえ組めれば、日本はなんとでもなると思っているし、それはその通りだと思う。

この国はまだまだ前進し続けて、その影響力はこれまで以上に世界が無視できないものになっていくだろう。日本では、中国崩壊論がひがみや希望的観測とともになされているけど、そんな感じは全くしない(ところで、なぜ海外情勢に詳しいとされる日本人は、現地でまともなネットワークを築いていない人がこうも多いんだろう、とある人が言っていた)。

事大主義とかそういうのでは全くなく、国としての勢い、政策立案における老練さ、トップレベルの人材の層の厚さ、どれをとっても、日本がこんな国と事を構えようということがそもそも間違っているということがほぼ確信となった。国内で政策立案をしている人がそれを冷静に分析したうえで、どうやって良い関係を築けばよいか真剣に考えていることを心から祈っている(その上で敢えて強硬姿勢をとるのはまあ理解できる)。だけど、なぜか日本では彼我の戦力差に目をつぶり、無謀な闘いを挑むことがあるので、心配だったりする。


最後に、本業に近いところの感想を。こういう国家資本主義がものすごい勢いで勢力を強めるなかで、強国のバックアップなしに、ほぼ根無し草同様の状態で世界随一の会社を作るのって、本当に大変なんだろうなあ、とすこしションボリした。もちろん、人生なんてものは、配られたカードでいかにうまくプレーするかだから、一喜一憂するのも馬鹿らしいのだけれど。



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