FinTech革命

今年12冊目。日経BPムック「FinTech革命」

専門分野に関する雑誌はあまり買わない。というのも、媒体そのものの性質として、雑誌は広く浅くものを知るためにあって、深くものごとを掘り下げない場合が多いからだ。それでも興味がある分野なので、丸善でこの雑誌がどんと並んでいたのでどんなものかと思って買ってみた。

構造としては、(1)既存の金融システムを活用しながら、インターフェース分野を便利にすることによって伸びてきたFinTech企業らの話、(2)ビットコインの話(これはいわゆるFinTechと違うものなので個人的には別に分けたい)、(3)危機感を抱いて様々な取り組みを抱いている金融機関のお話に大別されている。

既存のFinTechがどういった分野で活用されているのか、最近話題のブロックチェーン技術がどういったものであるのかをビジュアルとともに分かりやすく理解するためにはちょうどよい入門編だろう。また、海外では日本よりはるかに大きな事業規模の会社があり、それらがずらっと並んでいるのもよい。興味を持った人は、これら企業のウェブサイトに行って調べるのが一番だろう。

冒頭のKabbageの記事にものすごい既視感を覚えた。5年前に「ソーシャルファイナンス革命」を書いた時には、「SNSでの振る舞い、ネット化された経済活動と連携させた資金調達の仕組み」を未来の姿として描いていた。本書で紹介されているKabbageはまさにこの予想通りの事業をしている。

でも、別に自分の予想が当たったことを誇るつもりにもならない。なぜなら、いわゆるFinTechと呼ばれている事業の多くは金融の世界に住んでいる人間にとっては当然の進化の形であって、特段に新しいものという印象を受けることがないからだ。確かに世の中は便利なものになるし、意義は大いにあるのだけれども、「なるほどこれはすごい」と僕が思ったものはブロックチェーン技術以外にはない(今のところ)。

そして、この雑誌を読みながら、なんで自分が今の仕事をしているのかを確認することになった。起業をするに際して色んなアイデアがあったのに結局僕が途上国で仕事をすることにしたのは、僕にとっては誰のどういう課題を解決するのかが一番大切だったからだ。深刻な機会の不平等を解消すること以上に大切なことはなくて、世の中を便利な場所にすることには情熱を燃やすことができないなと思ったのだった。そのことは、自分のお客さんたちを見るたびに痛感することでもある。どんなに疲れていてやる気が削がれている時であっても、お客さんであるおばちゃんたちの笑顔を見ると「よし頑張ろう」という気持ちになる。

だから、今までに金融アクセスから阻害されていた人々の生活に変化をもたらすために必要な技術革新は真剣に追いかけている。最近いつも考えているのは、どうやったら資本コストが15%の国で、現在30%であるマイクロクレジットの金利を10%未満にまで下げられるかだ。先進国と違って様々なインフラが整っていない途上国での技術革新はちょっと色合いが違うものになっていくのだろう。頑張りたい。


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