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現代建築界の世界的なロックスターといえば、レム・コールハース。そのコールハースについては、建築と同じくらい本が大切だと言われている。日本語版がやけに安いなと思ったら、原著とは全く別物で(原著は1300ページの図版付きの巨大書物)、原著の重要エッセイを翻訳し、最近の講演録やエッセイを付け加えたもの。翻訳作業に10年以上かかるうちに、グダグダになったのだろうと想像する。

都市計画は不可能であるというのが、20世紀の教訓の一つだった。センスある独裁者が統治者になれば別だけれども、その可能性が極めて低い現代において、都市計画はことごとく失敗してきた(日本にも散在している「〇〇ニュータウン」を想像するとよい)。そして、現代において、都市は無秩序に広がっていく。更にグローバリゼーションと相まり、ジェネリックで混沌としたものになっていく。

そんなジェネリックな都市において、巨大な建物は、その都市を表象するものとなりうる。確かにそうで、東京という都市を考えたときに、人々が思い浮かべるのは昔からあるような町並みではなく、東京タワーなどの巨大な建物だ。その意味で、巨大な建物には、都市を全体としてとりまとめる役割すら果たしている。

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OMAの巨大建築には奇妙な形のものが多い。実際に見て強烈に記憶に残っているのは、北京のCCTV本社ビル。あるフェローシッププログラムで行ったので中にも通してもらい、この渡り廊下部分も歩いてみた。他にも記憶に残っているのはバンコクのMahanakhon(これはレム・コールハースの作品ではないけれども)。

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レム・コールハースは、本書で述べているような都市論をぶち上げたあとに、このような奇怪な建物を作ることを施主に納得させているのだろうなと想像する(本書は難解なので、どれだけの人が理解できているのかは不明だけれども、こういう説明は平易でないほうが人気が出ることが多い)。実際に、彼のつくったCCTV本社ビルは北京のアイコンとなった。CCTVビルが北京の街並みを代弁しているとは、僕にはとても思えないけれども。

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建ててもいないもののプランを提示してお金を集める建築家のプレゼンには、起業家も学ぶべきことが多いと思う。現在の世界の姿を解明し、自らの事業がその世界をどのように変革しうるのかを説く、ということだ。もちろん、浅薄な知恵でそういうことをやっても微妙なだけなので、準備は必要だろうけれども。

 

なお、本書には(日本語の訳書だから取り上げられたのだろうけれども)、コールハースの日本滞在記もある。いろんな国をまたいで仕事をしている人の観察眼はただただ面白い。どことなくロスト・イン・トランスレーションを思い出した。

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