安倍政権のレビュー

安倍政権はとても不思議な政権だった。片方で保守が喜ぶアジェンダを掲げつつ、もう片方では極めて現実的な経済・外交政策(例えば対中関係)を取ってきていたからだ。

そして、それこそがこの政権が長く続いた理由だったのだと思う。

日本の大票田(たぶん)は、保守、リベラル、経済の三軸で、どれか一つだけだと政権を続けられない。日本の場合難しいのが、保守路線を堅持すると近隣諸国との関係悪化を招き経済が停滞するし、リベラル路線も労働流動化などの点で経済成長と対立する。経済のみだと、保守・リベラルともに大騒ぎする。それが、この国で構造的に長期政権を続けにくい構造的な理由なのだと思う。

安倍政権は、保守と経済の間のバランスのとり方が極めて上手だった。そして、政権の中には福祉に熱心な人もいて、リベラル層の支持も一定数取り付けてきた。そして、選挙をしかけるタイミングも極めて上手だった。メディア対策も巧みだった。

政権が長く続いたことで、海外諸国はきちんと協議のテーブルについてくれたし、外交での成果は出た。また、この期間の経済は、それ以前の10年よりは好調だった。ただ、一番気になっているのはその経済の分配がどうなっているかであり、貧困率・子どもの貧困率については、統計を待つほかない。 

(スタートアップの倒産率は事業開始時期の経済状況に大きく影響される。多くのスタートアップにとっては、現政権の8年間は僥倖ともいえる期間だったと思う。今後、ただでさえ不透明だった事業状況の不確実性が更に大きくなるだろう。COVID-19の経済へのインパクト、今は交通・小売・サービス業で顕在化しているけれど、今後は製造業等でも表面化してくる。その時に、政権や日銀がこれまでの路線を維持しないと決めた場合、ものすごい逆回転がかかる可能性がある。)

 

一方で、レガシーもあると思う。一番大きなものは、公文書についての信頼を損なわせるような事件がいくつか起きたこと。公文書は国の極めて大切な歴史なので、その正確性の担保と厳重な保管は国家の根幹をなすと思っている。それがないと、未来の人たちが過去から学ぶことができなくなってしまう。

もう一つ、これは個人的にはまだ判断がつきかねているのは、2014年に行われた内閣人事局の設置。これによってトップ官僚600人の人事権を官邸が持つようになり、官僚機構が一気に官邸寄りになった。中央銀行の独立性もあやしくなった。直近では検察の独立性すらも危うくみえた。若手でやる気あふれる官僚たちの一部が、変わってしまった職場に対して嫌気がさしている、という話も時々聞く。

官僚機構や中央銀行がどれくらい政治とバランスを保つのかは、今後も議論されていくべきだと個人的には思っている。実際、以前においては官僚機構が強すぎた気も個人的にはしている。

 

いずれにせよ、この国で8年弱も政権運営をするのは大変なことだったと思う。何としてでも達成したかったアジェンダを完遂できないまま退くことの無念は相当なものだろう。お疲れ様でした。まずは静養を。


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