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なぜ資料作成にこだわるのか

本来は仕事の話マガジンの話だろうけれども、ちょっと思うことを。

五常の仕事でいまも将来もずっと苦労し続けることの一つはファンドレイジングだ。民間セクターの世界銀行をつくるとしたら数千億円単位でファンドレイジングする必要があって、2030年まではずっと苦労し続けるのだと思う(それを一緒にやってくれるIR担当役員を絶賛募集しています)。

もし五常の資金調達の難易度が他のスタートアップより高いのだとしたら(実際は分からない)、その一因にはそもそも投資家らにとって馴染みがないというのがある。ITや技術系の会社への投資事例はかなり積み上がっているので、大抵の会社に対してその事業の目利きをしてお金を出せる投資家がいる。しかし、多くの日本人は途上国を訪問したこともないし、ましてやマイクロファイナンスの現場を見たこともない。

調達環境が好ましくないのは所与の条件なので、それを乗り越えて資金調達をしていかないといけない。だからこそ、この3年半、どうやったら自分の仕事をうまく伝えられるのかをずっと考えて努力・実践してきた(工数でいうと、おそらく仕事時間の5%くらい)。モルスタ時代に、「早く・正確に」を目標にエクセルをずっといじっていたのと似ている。

僕は幸い文章を書くのは上手な方なので(英語はもっぱら訓練中)、力を割いたのがチャートを分かりやすく美しく作れるようになること。投資銀行や戦略コンサルとかには、資料の枚数を稼ぐためにどうでもいいようなチャートを混ぜたりする人がいるのだけど、あれは大企業だから許される贅沢だと思う。過不足ないスライドを作ることから逃げてはいけない。

資料作り改善のために具体的にやったことといえば、世界中のよく出来たレポートや会社紹介資料、グラフィックデザインの本などを見てはそれがどう優れているのかを自分なりに理解し、真似るべきことがあれば真似もして、既存資料を更新し続けること。残念ながら「この一冊で全部解決」という本には出会えなかったので、良さげな本はとにかく読んだ。なお、今になって感じることだけど、多くの日本語本においてはそもそも作例が微妙なのでオススメできない。例外的に「外資系コンサルのスライド作成術」はいい本だった。他に良かった本を二冊挙げると、The Visual Display of Quantitative Information と、How toも良かった。前者は数量のビジュアル化についてはバイブルのような一冊であり、後者はペンタグラムのパートナーであるMichael Bierutの本。ある程度基本が身についた人向け。

写真を本格的に始めたのも3年半前で、それも写真が撮れることによって、僕が普段目にしている世界を、先進国にいる人々にも伝えられるようにしたいと思ったから。本もたくさん読んだ。会社のロゴは佐藤卓さんに作ってもらったのだけど、それもグラフィックデザインを大切にする会社になりたいという願いを込めてのことだった。

まだまだ完璧には遠いのだけど、こんな感じで3年半も一生懸命にやっていると、より分かりやすい資料をより早く作れるように少しずつ進歩してくる。会社紹介資料は見せられないけど、例えば先日共有した社会的養護の資料なんかは、LIPのフォーラムの2日前の週末に一気呵成に作ったものだ。当然ながら図を書いて考える能力が上がっているので、現場での経営支援においてもよりグラフィックを用いたコミュニケーションがしやすくなってきた(ホワイトボードを使った議論の整理とか)。よって、資料をきれいに作る努力というのは、実は単なる資料のお化粧の話ではなく、物事をよりクリアに分析するための努力に他ならない側面がある。

そうやって自分の目がよくなってくると、世の中にある資料の分かりやすさと美しさに対してよりクリティカルになっていく。昨日古巣であるモルスタの四半期レポートがアラムナイに送られてきたので久々に見たら、昔はきれいに思えていた資料が、今は「せっかくロゴを一流デザイナーに作ってもらったんだからArialはやめたほうがいいのでは」とか「最初のページのヘッダーなんとかならないかな」とか一目見て感じるようになってきた(文章はさすがに平易で分かりやすいけど、"As of 31 Dec 2017"が3つの連続するセンテンスの一番前に来るのとかも微妙)。それは成長の証でもあって、今後もずっとこのサイクルが続いていくのだろうと期待している。

もちろん資金調達に正解なんてないし、超絶見にくい・醜い資料でも僕より遥かに高いパフォーマンスをあげる人はいるのだろう。また、社会事業や金融セクターで働くヒトの多くがグラフィックデザインに驚くほどに無頓着なのは知っている。だけど僕は、直接目で見られない、かつ吹けば飛ぶようなベンチャーの事業においては、可能な限り分かりやすい資料を作って認識のギャップを乗り越え、可能な限り美しい資料を作って「ちゃんとしている組織である」という認識を持ってもらうことが非常に重要なのじゃないかと思っている。それが正しいかどうか分かるのは随分先の話なのだろう。今は、自分が信じるベストな努力配分をし続けるだけだ。


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