シナリオ思考1

中国天津でピーター・シュワルツの話を聞いて、将来のシナリオを描くのはなんと面白いものかと思ったのはもう2年前のこと。爾来、彼の著書である”The art of the long view”をはじめとして、シナリオについての本はいくつか読んでみたものの、大抵の本はシナリオがどういうものであるかについては書いているが、実際にシナリオをつくろうとするときに手元に置いておくような参考書はほとんど見つからなかった。

幸いなことに、今回参加しているGlobal Governance Futures 2025では、チーム別で2025年のシナリオを基にした政策提言書を出すのがタスクになっていて、シナリオの作り方をプロから学んで実際にやることができる(シナリオ作りをテーマにしたPhDがあるとは、世の中は広い)。ちなみに、僕が所属しているタスクチームはインターネットガバナンス。

おそらく、シナリオ思考は、仮説思考、論理思考、デザイン思考、システム思考と並んで、ハマると相当な威力を発揮するものになると思う。多分、僕は今後仕事で時々これを使うことになるのだろう。6月のベルリン、10月の東京・北京のセッションを通じて、シナリオをどうやって作るのかが、ようやく具体的に分かったので備忘録として書いておきたい。


ステップ1.
まずはテーマと期間を決める。テーマは例えば、「2025年のインターネットガバナンスの様相」といったくらいのものでよい。期間はある程度長めが良い。というのもシナリオを書く意味の一つは、事が起こってから対処しては遅いことについて備えるためのものだからだ。明日一日のスケジュールのシナリオを作ってもよいが、それはよほど準備することが大切な一日に限られるだろう。

ステップ2.
その期間において、重要な影響を与えると思われる要因を書けるだけ書く。可能な限り幅広い分野について、思いつく限り書くこと。異なるバックグラウンドを有する人々で集まったチームでやるのが望ましい。また、このタイミングでは専門家インタビューなども行い、最低限外すべきでない要因についてはしっかりとおさえておく。インターネットガバナンスでいえば、「インターネットインフラの統合・分離」、「リーマンショック同様の産業全体に影響をおよぼすIT企業の破綻」、「当該分野における米中関係」、「モノのインターネット化」といったものがずらずらと並ぶ。

ステップ3.
書きだした要因のうち、シナリオの主要因とするものを選別する。選別基準は、「テーマに対するインパクト」と、「その要因がどうなるかについての不確実性の高さ」の二軸。インパクトが大きくても、不確実性が低いものは単なるトレンドなので、後で言及することはあっても、とりあえずは省く。例えば、「モノのインターネット」はトレンドなので外す。優先順位をつけて10から15くらいの要因を残す。

ステップ4.
残した要因について、2つから3つくらいの「状態予測」を書く。例えば、「米中関係」であれば、「これまで以上に親密になる」、「これまで以上に険悪になる」、「現状維持」といったようにするし、「インターネットインフラ」であれば、「世界的に一つのインフラが利用されるようになる」、「国によっては独自のインフラを利用するようになる」、「国ごとにバラバラのインフラを利用するようになる」といったふうに。それぞれの状態予測については、主観確率をつけておいてもよい。

ステップ5.
要因毎に作成した状態予測間の因果関係を定める。例えば、「米中関係」と「インターネットインフラ」であれば、合計18種類の組み合わせについて因果関係を決める。決め方は「起こりやすくなる」「影響はないor分からない」「むしろ起こりにくくなる」といった感じに決める。具体的には次の通り。

(1)米中関係がインターネットインフラに与える影響
・これまで以上に親密になる→一つのインフラになる:起こりやすくなる
・これまで以上に親密になる→国によっては独自のインフラになる:わからない
・これまで以上に親密になる→バラバラのインフラになる:むしろ起こりにくくなる
・これまで通り×インフラ3状態
・悪化する×インフラ3状態
→9通り。

(2)インターネットインフラの状態が米中関係に与える影響
→これも同様に9通り。

この「起こりやすい」、「起こりにくい」、「分からない・中立である」は数値化しておく。その方が後の操作が便利だから。1,0、−1でもよいし、さらに「起こりやすくなる」を「かなり起こりやすくなる」「起こりやすくなる」に分け、「起こりにくくなる」を「かなり起こりにくくなる」と「起こりにくくなる」に分け、2,1,0,ー1,ー2と点をつけてもよい。

この作業が相当にきつい。2要因に3状態だけだとしても18通りの因果関係を特定しないといけない。10要因を選別して、各要因に状態が3つあるとすると、因果関係を特定しないといけない数は(10×10−10)×9で810通りになる。15要因だと1890だ。

しかしながら、ここをサボると碌な結果がでないので、根気よく因果関係の特定を行う。


ステップ6.
上までが終わると、「各要因について、矛盾なく生じる状態の組み合わせ」を組み上げることができるようになる。手作業でやるとしんどいが、特殊なソフトを使う程度のものでもないので、ExcelのVBAで組み上げるか、少し面倒でも関数を作るなどして作ることができる。(このシナリオの組み合わせを計算するだけのプログラムが数百万円単位で売られているらしいが、明らかにボッタクリだと思う)

この「矛盾ない状態の組み合わせ」がシナリオの根幹となる。ここからは、この状態の組み合わせから、将来予想図がどのようなものになっているのかを書き出せるものを選び出す。全ての状態についてきちんと述べるようにすること。可能な限り鮮明な予想図を書ける組み合わせを選択すること。シナリオはいくら納得いけるものであっても、鮮明でないと読み手にインパクトを与えることができないためだ。


ステップ7.
将来予想図が出来たら、その将来予想図が現在からどのような経路をたどって成立するのかを描く。いうなれば「将来の歴史」を書き出すことになるわけだ。

数ある要因のうち、何を一番大きな歴史のドライバーにするのかは、ステップ5で行った因果関係特定においてつけられた数値の大きさを判断材料にする。影響を与える程度が大きいもの、かつ、影響を受ける程度が大きいものは「ゲーム・チェンジャー」とよばれる、もっとも重要な要因となる。これを中心に据えて、未来の歴史を書き出すことになる。

未来の歴史は、可能な限り具体的に書くこと。思いつきでもよいので固有名詞を書き、各イベント(状態)が生じる時期も明確に記載し、未来の歴史年表が矛盾ないストーリーになるようにする。イメージは未来について扱う映画の始まりの数十分のような感じだ(というか、SF映画は大抵シナリオをつくって書かれている)。

ここまでがこの期間にやってきたこと。で、シナリオを書いた後に何をするかはまた1月にデリーに行った後に書くことにしよう。




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