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ミャンマーのクーデターから1年

今日でミャンマーのクーデターから1年。それからの振り返りなどをちょっと書いておきたい。

そもそもなぜ起きたのか

民主化後二度目の総選挙で圧勝したNLDと、まだ権力をとどめておきたい軍部との交渉が決裂したことが原因。軍部の主張が民主主義の道理にかなっていないのは当然だとして、一方で政府側にもう少し交渉力があっても良かったのではないかと指摘する人もいる。

「こんなことを言うと皆に怒られるけど、軍部が非合理的なのは分かっているのだから、国民を守るためにするべきことは柔軟に交渉してクーデターを起こさないことだったよね」とのこと。

アウンサンスーチーさんらは、大々的な不服従運動をすることで軍部が参ると思ったのだろうか。もしそうだったとしたら、それは計算違いだった。

その後の治安について

僕がミャンマーに行けたのは5月になってからのこと。すでに大規模デモは収まったあとだった。入国審査などは物々しくなっていたし、一部の地域で反軍部の人々による警察への攻撃(射撃や爆発物放置など)が始まっていたけれども、命の危険を感じることはなかった。大抵の国には、行ってはいけない場所や無邪気に道端の写真を撮ると危ない場所がある。

クーデター以降に軍によって殺された人の数は1500人にのぼるし、今も焼き討ちされる村がある。ただ、ついつい忘れられているのは、アウンサンスーチーらのNLDが政権を握っていた時から、同じようなことがこの国では起きていたことだ。

ロヒンギャの大虐殺をはじめ、地方で武装蜂起をした少数民族を民衆もろとも虐殺することは、NLD政権下でも起きていた。軍部による政権奪取を正当化する理由はどこにもないけれども、民族紛争はこの国でずっと続いていたことだ。最近起きている地方での紛争の多くも、もともと起きていた民族紛争の延長線上で見るべきだ。

今後もこの国が大きな内戦に入る可能性は低い。軍部と反軍部の間の武力には途方もない差があるからだ。どこかの国が反軍部の人々に大量に武器を提供したとしても、反軍部の人々は利害関係の異なる民族集団からなっていて、その人たちが大同団結するのは極めて困難だと思う。

地方移動中、橋が反軍部勢力により爆破されて使えなくなったため、回り道をした


先日五常の現地法人の支店に爆弾が投げ込まれた。営業時間外のことなので誰も怪我はしていない。

投げ込んだのは反軍部側の人々だった。「国中でストライキをして、軍事政権下の国をコントロール不可能な状態にするべきなのに、仕事を続けるのはけしからん」というのが理由だそうだ。軍部が憎いのは想像できるけれども、普通のミャンマー人たちが生活するための経済活動を妨害することが正しいことなのだろうか。

反軍部の人々は道路に検問を設けるようになった。軍部がクーデター直後に全国に置いたものを模倣しているのだろう。現地の社員によると、ある程度統制がとれている軍部よりも、統制が取れておらず銃火器の扱いにも慣れていない反軍部の検問のほうが怖いとのことだった。

民主化後のクーデターは多くの人の期待を裏切ったことだし、国民の怒りは想像できる。だけど、今の反軍部勢力の人々が政権を取ったら物事はうまく運営されるのかというと、正直疑問だ。今のような行動が続くと、反軍部勢力に対する民衆の支持も失われていくのではないだろうか。

その後の経済について

現地に行ったときに感じたのは、ミャンマーは中国のようになったな、というものだった。言論の自由はなくなった。僕個人はそういう国に住むのは辛いと思うけれども、統制国家は世界にたくさんある。程度差はあれどシンガポールなどもそうだ。

市場は人で賑わう

一方で経済活動は続いていた。欧米の企業はミャンマーからの撤退を進めていたが、アジアの企業、具体的には日本・韓国・中国・タイ・ベトナム・インドなどからはそのような気配が見られなかった。大きな投資をした日本企業の多くは駐在員をミャンマーに戻している。ミャンマーが経済的に依存しているのはこれらアジア諸国であり、その企業らがとどまり続ける限り、経済は中期的には安定するのだと思う。

当時一番懸念していたのは室内でもマスクをしている人が極端に少なかったことで、これは大きなCovid感染に見舞われるなと予想していたら、その通りになった。

ミャンマーで大量に失業者が出ているのは、クーデターによる欧米企業撤退が理由ではなく、Covidによる長期間のロックダウンおよび(軍部政権が超長期間の「休日」をつくった)、サプライチェーンが一部麻痺し原油輸入などが困難になったことによるインフレが主な理由だ。現地の顧客らから聞かれた話を勘案するとそれが実情に近い。

これは世界中の途上国で起きていることであって、ミャンマーだけが例外ではない(先進国でも起きているけれども、セーフティネットがない途上国のほうが状況は深刻だ)。世界銀行らはCovidとそれに基づく世界的な経済停滞により5億人の人々が極度の貧困に陥ると予想している

なので、クーデターと経済停滞を紐付けるのはフェアではないと思う。クーデターのたびに経済が停滞するのなら、隣国のタイなんかはもっとひどいことになっているはずだ。

  
これからどうなるのか

正直なところ分からない。形式的にではあれまた選挙が行われ、政権が選ばれていくのだろう。

多くの人にとって、まずは食べていけることが一番大切なのだから、当面は経済成長を重視してほしいというのが個人的な願いだ。不服従運動一つとっても、一定期間が過ぎたあとにそれを続けていた人の多くは比較的経済的に余裕がある家庭の若者たちだった。

タイのように頻繁にクーデターが起きて民主政権が覆される国でも経済成長は実現できる。もちろん国の行く末はミャンマーの人たちが決めるべきことであって、現地で仕事をさせてもらっている僕たちはその方針に従うだけだけれども。

前にも同じようなことを書いたけれども、僕たちは民間セクターの世界銀行をつくって世界中の人に金融包摂を届けるために会社を始めたので、強制的に追い出されない限りこの国から撤退する予定はない。

今は大変な時期だけども、今日も大勢の普通の人たちが日々の生活のために仕事を続けている。金融サービスは重要な社会インフラの一つなので、仕事を続けるべきだと思う。

なお、マイクロファイナンスのパフォーマンスは内戦やクーデターが起きている国でもそんなに悪くならないことが多い。いまはCovidの影響が厳しく出ているけれども、それさえ落ち着けば、一定の利益も出せるのだろうと思っている。

粛々と働き続ける。

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