神経ハイジャック

神経ハイジャック―もしも「注意力」が奪われたら 単行本(ソフトカバー) – 2016/6/21、マット・リヒテル (著)

今年24冊目書評。

ユタ州で19歳の青年が道路中央まで車を出してしまい、正面からきた車に乗っていた二人を殺してしまう。青年は自分に何が起きたのすら理解できないまま呆然としており、裁判においてもずっとハイドロプレーニング現象のせいだと主張をし続ける。しかし、執念深く迫った捜査関係者が見つけ出したのは、事件の直前に青年は携帯から恋人に向けて11通のメールを送っていたことだった。

本書は僕たちが皆ついついやってしまう「ながらスマホ」の恐ろしさを描いたノンフィクション作品だ。ピュリッツァー賞を受賞したマット・リヒテルは丹念な調査を経ていかにスマホが僕たちの脳に影響を与えているのか(例えばスマホ上であれ他人とのやりとりは脳にドーパミンをもたらす)を描き出す。携帯電話で話をしながら運転する時の事故確率は飲酒運転時よりも高いだけでなく、スマホでメッセージを送ろうものであればそのリスクはさらに跳ね上がる。僕たちの脳は二つのことを同時に処理するようにはできていない。だから、恋人とのメールに夢中だった容疑者の青年も自分に何が起こったのかを全く記憶すらできていなかった。

本書は学術書ではなく、物語として(いささか長すぎるが)この事件の全貌を描いている点に特徴がある。物語であることの利点は、ながらスマホの恐ろしさを理屈でなく感情に訴えかける点だ。本書を読んだら、ながらスマホはできなくなるだろう。




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