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『熱』

肩も上がらぬほど

小さく ささやかな 寝息

時にふと 途切れ

あなたは 天上に行くような顔をする

「 私がわかるか?」

あなたの意識を 呼び戻そうと

そのたびに

「 笑わせんじゃねぇ」

深い呼吸を取り戻す

時に 脈はなだらかになり

時に 脈は平坦な 波形を示す

その度に声をかける

「 私がわかるか?」

熱に消耗した

かすかな あなたの寝息

目を離すと 途絶えてしまいそうな

小さな小さな

途切れ途切れの 緩やかな呼吸

声をかけるたび

「 笑わせんじゃねぇ」

あなたはそう言って

ずっと握りっぱなしの手を 握り返す

指先に わずかに力を入れて

固く握る 私の手を

「 大丈夫だ」と

合図 でもするように

長い長い時間

何も見逃さないように

ただあなたの顔ばかり

ただあなたの顔ばかりを

どうかそんな 健気な顔で

遠くへ行きそうに 眠らないでくれ

いつもの

苦虫を噛み潰したような

利かん坊な顔をして 眠ってくれ

あなたの寝顔が

あんまりにも安らかに

毒っ気が抜けて そんなに健気だと

私は泣いてしまうじゃないか

天上へ行くような

悟りきった 寝顔 なんか

あんまりにも静かな

素直な寝顔 なんか

どうか二度としないでくれ

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