東京大学2017物理 大問1

※この記事は、書籍化する前の一次原稿です。

1(1)

バネが一番伸び切った瞬間を考えよう。
この時、速さは0になっているので、運動エネルギーは0である。
ということは位置エネルギーがバネのエネルギーに全て添加されていることになる。
その時の$${{x}}$$座標を$${{x_0}}$$とすると

$${{Mgx_0 = \frac{1}{2}kx_0^2}}$$

となる。
両辺を2倍して

$${{2Mgx_0 = kx_0^2 }}$$

これは数学でも一緒だが、変数で割るときは必ずその変数が0でないことを確認する。バネが伸び切った時の$${x_0}$$は0ではないことは明らかなので、両辺を$${{x_0}}$$で割ると

$${{2Mg = kx_0}}$$

よって、

$${{x_0 = \frac{2Mg}{k} }}$$

となる。

1 (2)

ニュートン力学の全ては

$${{F = ma }}$$

に集約される。エネルギー保存則であれ、運動量保存則であれ、高校物理の力学で出てくる法則は全てこれから証明可能である。
これは数学でいう公理や定義のようなものだと思えば良い。
数多の実験を繰り返した結果、こういう結果になって、それを数学的表現でまとめなおしたものがニュートン力学なのだ。

つまり、何があろうと、力は、質量と加速度の積なのだと覚えておこう。

言い換えると、

$${{ a = \frac{F}{m}}}$$
であり、力を質量で割ったものが加速度になるわけだ。

こう考えるとこの問題はものすごく簡単になる。

変位が$${{x}}$$の時にかかっている力は、

重力が$${{Mg}}$$、バネが引っ張る力が$${{-kx}}$$であり、それ以外に力はかかっていない。

つまり、

$${{ F = Mg - kx }}$$

である。

先ほど述べたように、「力を質量で割ったものが加速度」な訳だから、加速度を$${{a}}$$とすると、

$${{ a = g - \frac{kx}{M}}}$$

である。これを文章中の形式に変換していけば良いわけだ。

すると、

$${{a = -\frac{k}{M} (x - \frac{Mg}{k} ) }}$$

という形になる。


2(1)

この問題を考えるときに、何を対象に運動方程式を立てるか、というセンスを磨くことが物理で点数が取れるかどうかの分かれ目の一つだと言えるだろう。

運動方程式が立てやすいのは、力や速度が一定のものに注目することである。

ここで積み木1だけで運動方程式を立ててしまった人はもう少しセンスを磨き直す必要がある。

おそらく、そういう人は、紐の張力が一定だという思い込みが原因である。
身近な例に置き換えてみよう。

重い荷物に紐をつけて引っ張って運ぶときに、最初はグッと力を込めないと動き出さないだろう。
一旦動き出したら、あとは動摩擦と同じ力で引っ張り続ければ良いので楽なものだ。

この問題では張力が一定であることを示すものは何一つ存在しない。

なので、張力を考えて運動方程式を立ててみよう。
まずは積み木1の場合、$${{x}}$$方向の運動方程式は、その時の張力をSとした場合、

$${{ (積み木1にかかる力) F = S - \frac{x}{3L}μ'Mg }}$$

である。
さて、張力を求めようか…と考える必要はない。紐が弛まない以上、同じ張力が積み木2にもかかっているわけだから、積み木2の方は斜面に並行な方向で運動方程式を立てると

$${{(積み木2にかかる力)F = Mg sinθ - S}}$$

ここで、力学で一番大事な式、力学の世界では神の式と言ってもいい基本式を思い出してみよう。
そう、

$${{F = ma}}$$
である。何があろうとも、力は、質量と加速度の積なのだ。
つまり、この問題での積み木1個にかかる力$${{F}}$$は何があろうとも$${{Ma}}$$に置き換えることが可能なのである。
この問題では紐が弛まない以上、積み木1も積み木2も加速度は一定なので、

$${{ Ma = S - \frac{x}{3L}μ'Mg }}$$
$${{ Ma = Mg sinθ - S }}$$

こうすれば、この2式を足すことで、よくわからない張力の存在を消すことができる。すると、

$${{2Ma = - \frac{x}{3L}μ'Mg  + Mg sinθ }}$$

$${{ a = \frac{x}{6L}μ'g  + \frac{g sinθ}{ 2} }}$$

となり、あとは問題文の形式に書き換えていけば

$${{ a = \frac{μ'g }{6L}(x - \frac{3L sinθ}{μ'}) }}$$

となる。


2(2)
さて、困った。
これまで時間というパラメーターが一切出てこなかったのに、急に時間が問われている。これまでとは別の視点で考えていかなくてはならない。

ここで理解しなくてはならないのが、なぜ先ほどから

$${{ a = □(x-□)}}$$
の形に置き換えたか、ということだ。

もっとシンプルな式で表現できるのになぜ、こんな形式にしたのだろう。

ここに東京大学の慈愛に満ちたやさしさが出ている。

この形式の式の意味するところは、
$${{x}}$$の値が大きくなると、加速度も大きくなるということだ。

ここで、高校物理の範囲で大事なことを言葉にしておこう。

・運動量保存則は、外部からの力がない場合に成立する。
・エネルギー保存則は外部からの力が一定(定数)である場合に成立する。

ということは、外部からの力が一定でないこの場合においてはもはや運動量保存則もエネルギー保存則も成立せずにお手上げである。

ただし、それは一般的なxy平面で考えた場合であり、軸の取り方によっては一見力が一定に見えなくとも実は力が一定と考えられる運動が例外的に存在する。

それが円運動、もしくは単振動である。

単振動は振動する方向では、座標によってバネの力が異なり、力が一定のようには見えない。
しかし、数学でいう虚数軸のようなものがあると考えると、実は円運動していて、円の中心に向かって一定の力がかかっていると捉えると良い。

我々が見ることができるのは実軸だけなので、結果として単振動していると考えてみよう。

ここで、単振動の基本に立ち返ろう。

単振動の運動方程式はバネ定数を$${{k}}$$とすると

$${{F = -k(x-x_0)}}$$
という感じで表すのが一般的である。そして、力は何があろうとも質量と加速度の積なので、
$${{Ma = -k(x-x_0)}}$$
$${{ a = -\frac{k}{M}(x-x_0) }}$$・・・①
となる。

つまり、この形式の形になる以上、この問題の運動も単振動と言えるわけである。

$${{ω = \sqrt{\frac{k}{M}} }}$$
とすれば、
$${{ a = -ω^2(x-x_0)}}$$
となり、この$${{ω}}$$が角速度(角振動数)となるのは高校の教科書で述べられている通りであるので、なぜそうなるかがわからない人は教科書を読んで復習しよう。(結構複雑なお話になるので、この式は最悪丸暗記でも構わないです)

各速度とは1秒間に何rad回転するか、というお話なので、周期をTとすると、
$${{2π = ωT}}$$
であり、
$${{T = \frac{2π}{ω}}}$$

さて、この問題に戻るとしよう。
この問題で求めるのは「積み木が動き始めてから静止するまでの時間」である。
つまり単振動でいうと、1周期の半分なので、
$${{\frac{T}{2} = = \frac{π}{ω}}}$$
を求めれば良いことになる。
ここで、各速度ωは
$${{ a = -\frac{k}{M}(x-x_0) }}$$・・・①
この式の$${{(x-x_0)}}$$の係数の絶対値を平方根にしたものだった。

つまり、(1)の答えから
$${{ω = \sqrt{\frac{μ'g}{6L}} }}$$
となり、
$${{\frac{T}{2} = π{\sqrt{\frac{6L}{μ'g}} }}}$$

と求められる。

2(3)
(2)が上のような理屈でちゃんと解けていれば簡単な問題となる。
(1)の答えから、振動の中心は
$${{\frac{3L sinθ}{μ'}}}$$
なので、振幅は
$${{\frac{6L sinθ}{μ'}}}$$
である。
これが$${{3L}}$$と等しいと言っているわけだから、
$${{3L = \frac{6L sinθ}{μ'}}}$$
より、
$${{μ' = 2 sinθ}}$$
と表せる。

3(1)
引き抜く棒の上と下に静止摩擦がかかる。
静止摩擦は移動方向と垂直方向にかかる力に比例する。
そのため、引き抜く積み木の上には
$${{2μ_1Mg}}$$
積み木の下には
$${{3μ_2Mg}}$$
の静止摩擦がかかることになる。
であればその合計が答えになるので、$${{μ_1=μ_2}}$$であることを考えると
$${{5μ_1Mg}}$$もしくは$${{5μ_2Mg}}$$が答えになる。

(2)
前問の状態で物体が動き出した時に引っ張る力は
$${{F = 2μ_1Mg + 3μ_2Mg }}$$
である。

ここで間違いがちなのが、一番下のものだけを引き抜ける条件を考えてしまうことであろう。

図1−6の積み方であれば真ん中の積み木の上面と下面の静止摩擦を考えた場合、下面の方が大きいので、必ず一緒に引き抜かれることになる。

考えなくてはならないのは、一番上の段まで動いてしまう条件である。

…以降現在執筆中です。近いうちに追記します。









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