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『函の悪戯』(超短編小説/400字)



菊地正春様

先週は誘って頂きありがとうございました。お蕎麦、大変美味しかったです。繊細な蕎麦の香りとサクサクの天ぷら。正春さんに連れていって頂けなければ、あの名店に出会えなかったと思います。同時にお店がそこにあったから正春さんと一緒に蕎麦を食べることができたということですね。今度信州に来られるのはいつになりますか?


「何これ? お父さん宛の手紙みたいだけど・・・」
「えっ何?」

   母はその古い便せんを見た瞬間、さっと私から奪い取った。そして読まずにエプロンのポケットにしまい込んだ。まずいものでも見てしまったのだろうか。

   父が他界して半年。やっと遺品を整理する気になった母と私は、父の書斎の本棚を片付けていた。古い国語辞典の函の隙間からそれは飛び出したのだ。

「ねえ、その手紙、お母さんが昔書いたんでしょ?ふふっ」
「・・・他の女よ」

   母は表情も変えずに本をビニール紐で括っていた。

(了)


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