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『不服』(超短編小説/400字)


「大きくなったねえ。こんなに小さかったのに」

   久しぶりに会う大人は子どもに向かって大概そう言う。一番わかりやすいのは身長だ。前に会った時からどれだけ身長が伸びたかで、声の大きさやトーンが変わったりする。

   今、日本有数の温泉郷にいる。いわゆる家族旅行だ。大学入学を機に家を出る娘を思って母が宿を予約した。

   その旅館に泊まるのは8年ぶりだった。前に来た時、私はまだ10歳だった。玄関先で迎えてくれた女将は、私たち家族のことを覚えていてくれたみたいで、笑顔100%であの台詞を言った。

「あら、大きくなったわねえ。こんなに小さかったのにねえ。うんうん。すっかり大人っぽくなっちゃって」

   女将の視線は母の方に向いていた。

   おい、20歳で私を産んだ母の見た目は若いけれど、たまに姉妹と間違われることはあるけれど、18歳の私が母の設定になるのだけは納得いかないぞ。

(了)



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