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【個人的メモ】M→P、それともY→M?

※飽くまで教科書レベルの考察です。

数量方程式


「インフレはいつ、いかなる場合も、貨幣的な現象である」であると言ったのはミルトン・フリードマンであるが、この発言の背景には、彼が復活させた貨幣数量説がある。貨幣数量説をあらわす数量方程式はアーヴィン・フィッシャーによる交換法定式がもっとも有名だろう。

MV=PT
(M:マネーサプライ、V:貨幣の流通速度、P:一般物価水準、T:取引量)

取引量Tの代わりに、実質産出量を示すYを用いた数量方程式がもっとも多く使われる。

MV=PY

PYは名目産出量(名目GDP)を示す。この式の両辺をVで割った式は、貨幣の需給一致条件であり、Mは名目貨幣供給量であり、PY/Vは名目貨幣需要量である。

数量方程式は長期の理論

数量方程式は、長期を対象とする。主流派経済学における長期とは、貨幣的な要因は排除されている長い期間であり、名目変数と実質変数を区別する必要がなく、すべての経済変数は実質値で測られる。長期では、貨幣が経済に対して中立であり、経済に実質的な影響を与えないとする

Mの変化がVやTの値には何らか影響を及ぼさず、Pと同一割合で変化させるだけであり、「貨幣は物価水準のみを決定する」という古典派の考え方を、「古典派の二分法」と呼ぶ。主流派経済学においては、古典派の二分法が内包されている。

数量方程式について、主流派とポストケインジアンとの間では、その因果関係の解釈に齟齬がある。

主流派の解釈

まず、主流派の解釈においては次の前提条件が置かれている。

  1. 貨幣流通速度は一定

  2. マネーサプライは外生的に決定される。

  3. 長期において、実質産出量は生産要素と生産関数という供給側によって決まる。

貨幣流通速度を一定と見なすのは、主流派とポストケインジアンで共通している。主流派において、生産量Yの変化率ΔYは長期では生産要素の成長と技術進歩に依存するので外生変数とみなすことができ、生産の変化率も一定であるとみなせる。また、マネーサプライは中央銀行が決定して、完全にコントロールできるとしている。

従って貨幣数量説は、マネーサプライを管理する中央銀行がインフレ率に関しても最終的なコントロール能力を持っていると主張するのである。中央銀行がマネーサプライを安定に保っていれば、物価水準は安定する。中央銀行がマネーサプライを急速に拡大させれば、物価水準も急速に高騰してしまう。

(グレゴリー・マンキュー『マクロ経済学Ⅰ 入門編[第4版], P.154) )

主流派では、数量方程式にM→Pという左から右への因果関係を見出している。

因果関係が左から右

ポストケインジアンの解釈

次に、ポストケインジアンの数量方程式の解釈では以下の前提条件が置かれている。

  1. 貨幣流通速度は一定

  2. 価格はコスト・プラス・プライシングによって決定される。

  3. マネーサプライは内生的に決定される。

  4. 実質産出量は有効需要によって決まる。

ポストケインジアンにおける価格設定は、コストプラス・プライシング(単位費用に利益を加える価格設定方法)に基づく。コストプラス・プライシングの手続きは、マークアップ・プライシング、標準コスト・プライシング、目標利益プライシングなどがあるが、共通して以下の式のように表せる。ポストケインジアンが想定する市場は主に不完全競争市場であり、そこでの価格は完全競争市場に比べればずっと硬直的である。生産者は中間財の過去の価格と労働の賃金である貨幣費用に慣習的なマークアップを付加する。

マークアップ価格形成

主流派のおいて実質産出量は長期では供給側によって決定されるが、ポストケインジアンの間では、短期においても長期においても有効需要によって決定され、供給が需要によって調整されるから、Yは可変変数である。

ポストケインジアンにおいては、マネーサプライは内生的に供給される。具体的には、在庫と資本投資が増加するときに民間企業の銀行からの借入需要が増大する。借入需要の増加は銀行による民間企業への融資を増やして、結果としてマネーサプライが増える。

貨幣流通速度Vは一定、価格Pは硬直的でほぼ一定、マネーサプライは主に実質産出量Yの変化によって内生的に決まるので、数量方程式の因果関係は、主流派の解釈とは逆に右から左へと向かう。

因果関係が左から右

数量方程式MV=PY、M→Pと読むか?Y→Mと読むか?
あなたなら、どっち?

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参考文献

齊藤誠、岩本康志、太田聰一、柴田章久『マクロ経済学 新版』(有菱閣)
グレゴリー・マンキュー『マクロ経済学Ⅰ入門篇[第4版] (東洋経済新報社)
福田慎一、照山博司『マクロ経済学入門 第5版』(有菱閣)
ジョン・スミシン『インフレーション』(J.E.キング編「ポスト・ケインズ派の経済理論」多賀出版)
ジェームズ・K・ガルブレイス、ウィリアム・A・ダリティJr
『現代マクロ経済学』(TBSブリタニカ)


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