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【小ネタ】通貨発行益は額面ー製造コストではないよというお話

川波洋一・上川孝夫[編]『現代金融論』[新版] (有菱閣ブックス, 2016年)の第5章 管理通貨制と中央銀行(近廣昌志)より引用。

管理通貨制のもとでの銀行券は不換銀行券であるために、紙切れと銀行券の額面との間に価値の乖離が生じるとして、その差額を貨幣発行益(シニョリッジ)と定義する論者もみられるがそれは誤謬である。 額面と製造コストを貨幣発行益と認識できるのは本位貨幣制度のもとで金属貨幣や政府紙幣制度の場合であり、今日の1万円の日本銀行券の生産コストが約20円であるとしても、日本銀行にその差額である9080円の貨幣発行益が生じているとはいえない。日本銀行券の発券チャンネルは、民間銀行が日本銀行当座預金の一部を解約して日本銀行券を引き出すことに始まり、最終的には私たち個人や企業などの民間主体が民間銀行の預金の一部または全額を解約して、窓口やATMから日本銀行券を手にするルートであり、日本銀行が直接ヘリコプターから日本銀行券をばら撒くチャンネルではない。

民間銀行が日本銀行当座預金を解約して日本銀行券を手にする場合、日本銀行のバランスシートでは、負債である「当座預金」が減少し同じく負債である「発券銀行券」が増加し、負債と負債の勘定科目を入れ替えているにすぎないことから、発券銀行である日本銀行のバランスシートの大きさは変化しない

利益とは貸借対照表で算定されるものではなく損益計算書で求められるものであり、日本銀行の資産には有利子資産が多く、負債には利子が付かない発行銀行券や当座預金が中心であるから、中央銀行が管理通貨制度のもとで貨幣発行益を得るとすれば、中央銀行のバランスシート上の資産と負債の利ざやである。(P.84~P.85)


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