誰かの卒業式

graduation
アルファベットの文字が並ぶ
校門にアーチのように飾られている
手作り感があって誰が作ったのかは知らない
私はそれを高々と見上げる

卒業

まるでここが頂上だと言わんばかりの仰々しさ
盛大に迎えて盛大に追い出そうという感じ
この校門をくぐるのも今日で最後かもしれない
そう思うとこのラインにはっきりとした境界線めいたものを感じる
一歩足を踏み入れると別世界
学校とは一種のおとぎの国のような場所なのかもしれない

下駄箱で靴を履き替える
たぶんこれも今日で最後
帰りには上履きを忘れないように持って帰らないといけない
そのとき何故か式年遷宮のイメージが浮かぶ
キレイさっぱり煤を払う

もう私たちの時代は終わったんだ

教室のドアを開けると中にはある程度の人数は揃っている
いつものようにおはようと軽く挨拶を交わす
ソワソワした雰囲気
まるでいつもと同じ朝を演じているかのような違和感
お互いがお互いの顔色を窺っているような緊張感
卒業というキーワードが憚られるような
みんなが甲高い声と笑顔で他愛もない会話をしている
私はその空気に耐えかねてトイレに避難する

水道の水で手をゴシゴシ洗う
ポケットからハンカチを出して丁寧に拭く
鏡に自分の顔を映す
右目が少し充血しているように赤い

まさか

泣いているように見えはしないだろうか

この私が

みんなに見られたくない
こんな安っぽい感情で涙を流したと思われたくない
卒業という大袈裟な言葉に惑わされているだけだ
昨日とは違う、今日とは違う日々がやってくるというだけのこと
ただそれだけのこと

鏡を見つめる
私は泣かない
後悔しないように
graduationの門をくぐるまでは

「さよなら」

私は声には出さずに唇の動きだけでそう呟きながら充血した右目を閉じてウインクしてみせる

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タヒニ

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