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「ドキュメント宇宙飛行士選抜試験」よりーその③【求められるバックグラウンド】

”「ドキュメント宇宙飛行士選抜試験」よりーそのX”と題した一連の記事は、
「ドキュメント宇宙飛行士選抜試験」という2008年の選抜試験について綿密に取材し、丁寧にまとめられた書籍を元に、
宇宙飛行士を目指している人間の一人として、知っているようで知らない、宇宙飛行士について勉強していくための足掛かりである。

・第1回:こちら(宇宙飛行士になるリスク)

・第2回:こちら(選抜試験の流れ)

前回は、前線で活躍しながらも宇宙に行きたい気持ちをどうしても諦めきれない人たちが挑む「宇宙飛行士選抜試験」の流れ(書類提出~二次試験)についてまとめた。
今回は、時代ごとに求められる宇宙飛行士の人材像とその背景についてまとめている。

ー最初の宇宙飛行士は「研究者」

今から35年前の1985年、日本で初めて宇宙飛行士の募集が行われた。
人類が初めて宇宙へ行ってから24年後のことだ。

採用の目的は優秀な「研究者」の確保にあった。
当時求められていたのは、宇宙で科学実験を確実に行える研究者としてのバックグラウンドだった。

当時の日本人はまだまだゲスト扱いだったので、スペースシャトルの操縦などに関わることは出来ず、「Payload Specialist搭乗科学技術者)」と呼ばれる「研究」に専任した要員を求められていた。
スペースシャトルシステムの運用に関わる訓練は受けないが、搭乗するミッションの実験内容については大変詳しい知識を持ち、飛行目的の実験をするのが任務だ。

そのため、科学者や研究者の中から選ばれることになる。

(ファンファンJAXAより)

そこで、日本から選ばれた優秀な研究者というのが、
・毛利衛さん
・向井(内藤)千秋さん
・土井隆雄さん
の3人だった。

3人のバックグラウンドの特徴は以下。

・毛利衛さん

北海道大学 工学部 助教
専門は核融合科学・真空材料表面科学
・向井千秋さん
慶応義塾大学 医学部外科学教室 医師
専門は外科
・土井隆雄さん

NASA ルイス研究センター(現グレン研究所) 研究員(Ph.D;Post Doctorの略で任期付き研究員のこと)
専門は航空宇宙工学

毛利さんは、採用から7年後の1992年にスペースシャトル「エンデバー号」で日本人宇宙飛行士で初じめて宇宙へ旅立った。
その2年後の1994年に向井さんが、アジア人女性初めて宇宙飛行士として宇宙へ向かった。

2人は当初の予定通り宇宙実験を行い地球へ帰還した。
(2人とも2回の宇宙飛行を経験している)

しかし、土井さんは2人とは同じように研究者として宇宙へ行くことはできなかった。
1986年のスペースシャトル「チャレンジャー号」の爆発事故が原因だ。
これにより、研究者の搭乗員の空きが減ってしまった。

そこで土井さんは「Mission Specialist(運用搭乗技術者)」という資格を取ることにした。
(実は毛利さんも2度目の飛行の際はこの資格を取得している)

ミッションスペシャリストは、スペースシャトルの全システムについての知識を持ち、スペースシャトルのシステム運用を行うほか、ロボットアームの操作、船外活動を実施することができる。

※ミッションスペシャリストは技術者的な仕事も多く、科学的な仕事が減ってしまう、また何よりペイロードスペシャリストは専門的な知識が必要な実験も行えるため、向井さんはこの資格を取ることはなかったようだ。

土井さんは無事に資格を取得し、採用から12年後の1997年「コロンビア号」で初めて宇宙飛行を行った。

ー「宇宙飛行士=技術者」の時代

2回目の募集は1992年に行われた。

このときの採用のテーマはミッションスペシャリストにふさわしい優秀な「技術者」の確保。

その背景には、当時「国際宇宙ステーションISS;International Space Station」の建設に向けた準備が本格的に進んでいて日本もこれに加わることが決まっており、確実に建設を行える技術者が必要だったからだ。

そこで採用されたのが若田 光一さんだ。

・若田さん
日本航空(JAL)の整備士
担当業務は
学生時代の専門は航空宇宙工学

28歳という日本で最年少の若さで採用された。
若田さんは技術者としての高い技量、独学で磨いた英語、温厚なキャラクターなどをを採用後間もなくNASAに高く評価された。
そして採用から4年後の1996年(日本人最速!)「エンデバー号」で宇宙飛行を行った。

若田さんは合計4度の宇宙飛行を経験している。今までの飛行での主な業績は以下だ。
1回目:日本とアメリカの人工衛星の放出と回収
2回目:日本人として初めてISS建設に参加
3回目:ISSでの長期滞在ミッション/「きぼう」の船外実験プラットフォームの組み立て完成
4回目:日本人初となるISS船長に就任。計4回の宇宙滞在時間日本最長(347日08時間33分)

そして今はJAXAの理事として、日本の有人宇宙開発の指揮を執っている。

また、2022年頃に5回目の宇宙飛行を行うことが発表されている!!


同じく、ミッションスペシャリストにふさわしい優秀な「技術者」の確保をテーマとして年に行われた3回目の募集では、

野口 聡一さんが宇宙飛行士候補者として選ばれた。

・野口さん
石川県播磨工業(現IHI)のエンジニア
担当業務はジェットエンジンの設計
学生時代の専門は航空宇宙工学

空中分解事故(コロンビア号空中分解事故)が起こり、その原因調査で停止していたシャトル計画の復帰第一号が、野口さんの1回目のフライトとなった。

野口さんは現在ISSに滞在中で、今回が4回目のフライトになる。

※ちなみに今回の打ち上げのポイントは、初めて民間の企業が作った宇宙船でISSへ向かうことだ。
知っている人も多いと思うが、イーロン・マスクがCEOのSpace Xの「Dragon Space Ship」だ。前回 月にテスト飛行で既に2人がDragonでISSへの宇宙飛行を行ったが、今回は本番のフライトとなる。
野口さんは「コロンビア号」といい、今回の「Dragon」といい人類の有人宇宙開発のイベントに好かれているようだ。

ー「宇宙飛行士=長期滞在者」の時代へ

4回目の募集は1000年代最後の年、1999年に行われた。
テーマは変わり、「宇宙で3か月以上、長期滞在できる宇宙飛行士」の採用。

当時、1998年に始まったISSの建設が順調に行われると見込まれていたためだが、実際には予定の2006年には間に合わず、2010年にようやく完成した。

4回目の募集では以下の3名が選ばれた。

・山崎 直子さん
宇宙開発事業団NASDA (現JAXA)のエンジニア
担当業務は「きぼう」の開発・設計
学生時代の専門は航空宇宙工学
・星出 彰彦さん
宇宙開発事業団NASDA (現JAXA)のエンジニア
担当業務はH-Ⅱロケットの開発・宇宙飛行士の技術支援
学生時代の専門は航空宇宙工学
・古川 聡さん
東京大学医学部附属病院の医師
専門は消火器外科

テーマはISS向けに変わったものの、上述のようにISSはまだ完成していなかったISSを完成させるため、即戦力としてISS、「きぼう」で活躍できる人物、そしてISSでの長期滞在を見据え、宇宙実験が行える人物を考えたうえでの人選だろう。

ーなぜ新しい日本人宇宙飛行士が必要か

これまでの4回の募集で宇宙飛行士になったのは計8人。
だが、高齢化やそれに伴う病気のリスク、日々の生活の中で事故に遭う可能性などの問題点がある。
さらに、2008年6月に遂に、日本の宇宙実験施設「きぼう」がISSに取り付けられたことで、日本人が定期的に宇宙飛行できるようになった。

そういった背景を考えると、現状のメンバーだけでは足りないという判断に至り、第5回目が満を持して行われた!

ー「船長になれる逸材」を探せ

第5回目の試験のテーマは、「ISSの船長となれるような人物」の採用だった。

今までの経験から、どのような人物が相応しいのかがわかり、ISSに日本の実験棟「きぼう」も取り付けられたことから、日本もただ乗り込むだけでは満足できなくなっていたのだ。

参考図書「ドキュメント宇宙飛行士選抜試験」の進み方では、この時点では誰が採用されたか明かされていないのだが、このnoteでは先に示しておきたい。以下の3人が選ばれた。

・大西 卓哉さん
全日本空輸株式会社(ANA)のパイロット
担当は副操縦士
学生時代の専門は航空宇宙工学
・油井 亀美也さん
防衛省航空幕僚監部のパイロット
担当はテストパイロット
防衛大学卒業後は航空自衛隊に入隊
・金井 則茂さん
自衛隊呉病院の医師
専門は潜水医学

3人とも既にISSでの1回目の宇宙飛行(いずれも長期滞在ミッション)を終え、今はそれぞれの場所で活躍している。

油井さんは、JAXA宇宙飛行士グループ長に就任し日本の宇宙飛行士業務を取りまとめている。大西さんは、管制官としてつくば宇宙センターで軌道上の飛行士のサポートをしている。金井さんはNASAヒューストンで管制官としてサポートをしている。

ー月・火星探査新時代に向けて

そして、2021年、待望の第6回目の募集が行われる。

今回は初めて1年も前から告知が行われている。
これは今までにはなかったことであり、優秀な人材を確保したいので準備期間を取らせるため早めに行ったのではないかという考察もある。

現在の有人宇宙開発は月・火星探査に焦点が当てられている。
当面の目標は2024年の有人月面探査だ。

これはNASA主導の「アルテミス計画」という計画の一部で、最初は女性、次に男性が降り立つことが明言されている。

キーワードは「」「女性」。

現在日本の宇宙飛行士には女性がいないため、間違いなく女性は2人以上選ばれるだろう。
バックアップを考えると、3人いた方がいいかもしれない。

また、月関係の研究者が選ばれるのではないかという考察をされている方もいた。


私は、今までの募集のテーマ「優秀な研究者」「優秀なエンジニア」「長期滞在者」「船長になれる器」すべてに当てはまるような人物が選ばれると思う。
月というのは新しいフロンティアで、実際に月面に降り立ち探索や基地の建設を行う人、これから建設されていく月周回軌道ステーション「Gateway」の建設や実験などこれまで以上に多様な人物が必要となるだろう。

今までの日本の宇宙飛行士の特徴を簡単に図にまとめてみた。

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今までに選ばれた人たちは皆、自分のバックグラウンドを活かして宇宙での業務に貢献している。
私たちも、宇宙に行って何がしたいか、そのために自分が今やっておくことは何か、また、自分が経験してきたことで宇宙で貢献できることは何か考えながら目の前のことに取り組んでいこう。

<参考>

・ドキュメント-宇宙飛行士選抜試験- 大鐘良一・小原 健右 著

・宇宙から帰ってきた日本人 稲泉 連 著

・宇宙飛行 行ってみてわかったこと、伝えたいこと 若田 光一 著

・JAXA 宇宙飛行士プロフィール
https://iss.jaxa.jp/astro/

・ファンファンJAXA HP
http://fanfun.jaxa.jp/faq/detail/167.html

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