セカンドハーフ通信 第81話 高輪のオアシス
高輪のオアシス
港区高輪にだいぶ前から通っている店がある。丁寧に調理された旬のものを出してくれる和食の店だ。オーナーは仮にTさんとする。Tさんとは、客と店主というよりは、長い付き合いの友人といった関係だ。
Tさんの店はちょっと変わっている。店はほぼ常連の客ばかりだ。普段は照明も暗く、客がくるとひっそりと店を始める。そんな雰囲気なので、じっくり話もできる。店はTさん1人で切り盛りしている。
料理は基本的にお任せのみで、自動的にでてくる。客は酒を決めればよい。Tさんは漁師でもある。店の合間に時々漁に出る。そして次の日には彼が釣ってきた魚が料理にでてくる。
どちらかというとTさんの見た目はごついタイプだが、彼の料理はとても繊細だ。手間を惜しまず、化学調味料なども使わない。うまい!というと、うれしそうにはにかむ。本当に料理が好きなのだろう。
Tさんは人生経験も豊富だ。昔は銀座のクラブで黒服をやっていたとか、水産関係の会社でサラリーマンもしていたようだ。彼には霊能力があり、その道でも仕事をしている。様々な経験を経て、酸いも甘いも知っている人だ。
Tさんとの会話は楽しい。ズバリズバリと意見を言う。どちらかというと毒舌家のTさんであるが、実は心の優しい人だ。文句を言いながらも色々な人の話に耳を傾ける。
この店は東京のオアシスでもある。私もそろそろTさんの店にも行きたくなってきた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?