Building by ReBuilding

久しぶりの更新です。
修士課程に進学し、引き続き「資本主義と建築を仲裁する」ようなことを「廃棄物」を通してやっていきたいと思います。
今回は修士で行うプロジェクトの概要を書きます。覚え書きメモ程度の雑なやつです。

複雑な事態から

ここはぼくの実家です。
わりかし友達を招いているので、来たことがある人もいるかもしれません。小田急線の狛江駅から徒歩圏内にあります。6LDKのとても立派な一戸建てです。ぼくが生まれてすぐに建てたらしいです。築22年です。

そんな我が家を解体し、賃貸アパートを建てることになりました。
マジで悲しいです。家族の記憶はこの家とともにあったし、ぼくの成長もこの家とともにありました。ぼくはとてもこの家が好きで、3年前の夏には友人たちとともにウッドデッキを自作して、みんなでBBQをして遊んでました。そんな家が無くなります。

ぼくは我が家の7人目のメンバーとして、1995年に生まれました。
母方のおじいちゃん・おばあちゃん、お父さん・お母さん、それにお兄ちゃん・お姉ちゃん、そしてぼく、といった家族構成でした。子供達にはそれぞれ部屋があって、祖父母の主寝室、両親の主寝室をつくって、和室も入れて、となるとそれくらいの規模の家になるもんです。

ある日、お姉ちゃんが就職を機に家を離れました。
またある日、お兄ちゃんが就職を機に家を離れました。
そしてある日、おじいちゃんが亡くなりました。

そうこうして、この広い家に家族4人での暮らしを送ることになりました。かれこれこの規模での生活は5年目になります。
おばあちゃんは喜寿を迎え、お父さんも古希を迎えました。ぼくは気がつけば大学院生。母ももうアラ還間際です。

そうなってくると家の維持費とか、収入の減少とか、相変わらず学費がかかる息子とか、そういうのが影響して家計がピンチになる。そして築20年を超えたあたりから、家自体に補修が必要な箇所とかが出てきて、メンテナンスコストもかかる。父が死んだ時のことを考えると、相続するための税金もかかる。あと10年とか生きればぼくがその準備はできるかもしれないけど、もう明日何があるかわからないような年齢とも言える。そういう感じの終活の一貫、家計のことも考えて、我が家の整理して賃貸アパートにすることになったのです。

ぼくは全面反対しました。
が、考えてみると、学費も出してもらっているし、お金もなければ相続もできないわけだし、ぼくがこの家のメンテナンスをDIYでやるのも無理がある。そもそもリフォームするお金もない。

結局のところ、家族のことを考えると、最後は賛成するしかなかった。

幸いにも立地がいいこともあって、まぁ建てて人が入らないってことは無いだろうということなんですが、散々ぼくがディスっていた不動産投資的な建築を我が家が建てることになるわけです。
とても複雑な気持ち。ぼくはダブルスタンダードで生きていかなくてはならない。大袈裟かもしれないけど、十字架を背負って生きる気分です。
建築家として、自宅とどう向き合うかというのは、建築に対する態度に他ならないと思います。ぼくは庭のウッドデッキも自室のデスクも自分でつくってきた。一方で、これから我が家にショベルカーがやってきて、愛着の空間を見るも無惨に壊し、均質空間がちゃちゃっと作られる。それを容認して金を稼ぐわけだから、そりゃぼくの態度は批判されてしかるべきだと思う。
でも、それ以上に家族は大きい。

この複雑なリアリティは、決して我が家だけの問題ではないと思う。土地所有者は、その土地を使ってお金儲けをしようと思うのは、至極当然だ。お金があれば家計が潤って、それが自分や家族の豊かな生活に繋がってくる。それが格差を拡大している行為に他ならないとしても、その視点が家族の何よりも大事なわけはない。だからこそスクラップアンドビルトは半永久的に進んでいくし、それはもっとも経済的方法で行われていく。残念だけど、それが社会を流れる当然の力だし、そこをドラスティックに変えることなんて不可能だ。だからこそ、この事態から再び制作を始めることにしました。

建築がゴミに変わる瞬間

水道の水はシンクの底に接地した瞬間にゴミになる。髪の毛は頭皮から抜け落ちた瞬間に汚いゴミになる。建築は解体屋さんがショベルカーを一撃入れた瞬間にゴミになる。
おもしろいくらいに、とある点を境に価値のあるものから無価値なものへの転換がこの世では起こっている。

建設業が出している廃棄物の量は年間で約8076万トン(1)。もうイメージできない量で、なんて言っていいかわからないけど、スカイツリーに例えるなら約2000個分。1年間にスカイツリー2000個分の廃棄物が建設業から出ていると思うと、語彙力が低下して、すごいとしか言えない。
ちなみに目標として、このうちの95%をリサイクルしようというのが環境省の指針です(2)。リサイクル率が上昇している傾向は見られるけど、思えばこれは国の資料。公文書とか色々改竄しているやつらのデータを信じられるのかはわかりません。。。

やはりどんな物もいつかは破棄されることを考えれば、リサイクル率が100%に限りなく近づく未来を目指さなければならない。地球資源の有限性を考えれば至極当然の流れです。でも一方で、リサイクルが行われることが免罪符に、多量のゴミを出し続けていいのだろうか、という疑問がぼくには残る。天然材を使っていない限り、マイクロプラスチックのような、生態系に影響を及ぼすどころか人体への危害までが叫ばれるほどになるゴミ関連問題がいずれ次々と表出することでしょう。

そういう環境的背景を踏まえると、資源がゴミに変わる瞬間に注目する価値があると思う。ゴミになって廃棄物処理場業者が持っていくと、そこはもうリサイクルのブラックボックス。ここから先はオーガナイズされたシステムになっている。建築が作られるという大きなシステムとゴミが処理されるという大きなシステムの外接点がこそが「ゴミになる瞬間」です。そこにどんな建築的アプローチがありうるのか、それこそがぼくの今の興味です。

ゴミの魅力

学部のプロジェクト「路上の建築から学ぶ建築の可能性」で豊かなフィールドワークを経験してからというもの、ぼくはゴミの魅力に取り憑かれていると言っても過言ではないです。
ゴミの魅力はざっくり4つあると思っています。(投稿日現在)

1 一般的に無価値である
とても当たり前のことですが、最後まで誰かが無価値だと思うから、ゴミはゴミとして処理されます。持ち主が価値があると思ったら、捨てずに取っておくだろうし、売れるならメリカリで出品でもすればいい。本当に無価値で誰が何をしようと、元々の持ち主的にはどうだっていい。だからこそ、資源として持って来やすい。しかもゼロ円で。これってゴミの特徴だし、ぼくは魅力だと思っています。

2 大量に存在する
前章でも述べたとおり、建設業だけで8000万トンというよくわからん規模でゴミが出ています。ちなみに産業廃棄物全般で約3億8,703万トンで、またスカイツリーでいうと約9500個分です。やばいです。でもそれだけあるということは、何かしらの可能性があるということでもある。ポジティブにいうならばリソースがめちゃくちゃあるということ。これをぼくは魅力だと思っています。

3 環境問題と関係している
これは色々なところで言及されている通りで、ゴミ問題ってまさしく環境問題のひとつ。そして環境問題は21世紀の課題の多くを占めてくるものです。資源の枯渇や過剰搾取、地球温暖化などに真剣に取り組まないと、地球がダメになる。そういう世紀だと思います。これらにいつかは取り組まなきゃいけない、宿命的な側面が強い。緊迫性が高い課題と関係している領域だからこそ社会性が求められるし、大義がある。そういったところもゴミの魅力だと思っています。

4 誰かが使っていたものである
最後に。ゴミの全体量を減らすには、捨てないとか買わないとか、色々な意識が必要になってくるものだと思います。リサイクルのように高度に効率化をしていけばいい問題ではなく、意識改革が本質的には必要です。ぼくたち人間は、基本的に物に愛着を抱く感性を持っています。取っておく・捨てるといった選択肢以外のリユースを充実させることが、ゴミの全体量を減らすには重要なアクションだと思います。こういった歴史や記憶を継承する側面をゴミが持ち合わせているのも、魅力だと思っています。

これらをうまく繋ぎ合わせながら、システムを設計することができれば、ゴミの利活用に一歩踏み出せるのではないだろうか、と思ってます。

Building by ReBuilding

前置きが長くなりましたが、ここからがプロジェクトの中身です。まだまだ構想段階なものも多いので、全体的にふわっとしてます。

ざっくり言うと、自邸の解体とともに生じる廃棄物を用いて、再び建築を生み出します。住宅の解体を、全てをリセットしてしまうものにせずに、それらで誰かが住まうことのできる空間を生み出せないだろうか。住環境に恵まれない人(例えば路上生活者や災害によって住居を失った方など)が住まうための空間にできないだろうか。自分や家族の歴史を廃棄物とせずに継承できないだろうか。それらを設計手法や理論としてシステム化できないだろうか。こういった点への関心を持って取り組んでいくつもりです。

現在の予定では、今年の9月に我が家が解体され、10月からアパート新築工事が着工し、来年の2月に竣工といったスケジュールです。色々と納得はしてないけど、軽量鉄骨造です。なので工期は在来工法よりも短く、ただの2階建アパートだったら4ヶ月くらいで全部できちゃう。

とりあえず解体業者がショベルカーで解体する前に、できる限りぼく自身の手で解体を行います。ちゃんと解体したいなら大工に頼む必要がありますが、そこまでの我が家の予算がないのと、一般的ではなく論じにくいため、セルフリビルドできる範囲での活動にします。自邸の建設時、ぼくは乳幼児だったため、どういった感じで家が建てられたのか知りません。だから、どこに何があるかとか、図面以上の情報は正直なところ壊してみないとわからない。だけど、できる範囲でゴミになる寸前に、ぼくが「資源」として回収しようと思っています。

回収した資源は一時的に倉庫(多分トランクルーム)で保管します。
どうやら植栽も全部抜かれちゃうんですよね。小学生の時に登って遊んだ柿の木も、自分の部屋から見える綺麗な松の木も、秋を訪れを告げてくれる2本の紅葉の木も、料理をしながら覗けるキッチンの窓先のツツジの木も。施工に邪魔だから、全部抜かれちゃう。だから一時的に資源を保管する場所が敷地外に必要という感じです。

最後に何をどう施工するかですが、まだ何も決まってません。


一番自由度が高いのは、竣工後のアパートの庭部分にモデルハウスのようなものを施工すること。これは全部自分の意思決定で、材料と向き合いながらプロジェクトを進めることができます。仮説ですが、わかることとしては、どんな廃材がどう転用できるのか、という材料ベースの方法論は導け出せそうです。あとは、路上生活者の家くらいの規模になるので、そういった方々にお渡しすることはできるかもしれません。一方で、発展性がいまいちつかめません。他の人が自邸を取り壊す時に、それを有効活用するときにこのやり方が受け入れられないでしょう。リテラルな材料論・施工論というニュアンスが強そうです。


家族と建設会社の了承が得られれば、アパートの一室の内装を廃材で仕上げることも面白そう。内装工事は一番最後に行うものなので、スケジュール的にも無理はなさそうです。この場合、純粋に誰が住むのか、不動産価値が下がるだろ、というような心配があります。それに反論することができないです。廃材から美的価値を見出せる人はあまりいないと思うので、普通の入居者だとしたら嫌がりそう。だから家族が大反対すること間違いなしです。ただ、大きな空間が小さな空間として住居スケールに、しかもこれから長い歴史を再び生きる空間として転生するところはかなり面白いと思います。歴史の継承のようなニュアンスが強いでしょう。あと、一戸建てをワンルームにするという減築の考え方は聞いたことがないので斬新だと思います。


そこらへんの空き家や築年数の古いアパートの改修を行うこと。これはオーナーの了承が得られれば可能そう。だけど、了承を得るのは果てしなく難しそう。例えば、廃材リノベという設計方法を構築すれば、この世の建築同士を足し引きできることになります。人口減少、空き家増加などの問題に対して取り組める方法だとも思います。また上から2番目の構想と同じで、歴史的なニュアンスが入ってきたり、減築の新しい考え方にもなる。方法論研究以上のクライアントワークになる可能性が高いですが、そこのリアリティを廃材を通して経験できるのも面白いと思います。なのでそれに了承してくれそうなオーナーさんを募集しています。

ざっくりですが、以上のような3つの可能性を考えています。関係者との合意が取れるかどうか、というのが第一のハードルになるかと思うので、今はそれをちょっとやっています。

路上のリサーチで、ぼくは建設現場で出る廃棄物を用いて家を建てました。そこでわかったのは、その廃棄物は基本的に端材であるがために小さいということ。結局長い部材は解体屋さんから貰ったのです。これらの気づきから、より大きな空間をつくる場合は、施工現場よりも解体現場の方が良いという結論に至っています。

この解体から建築を建てるという取り組みにBuilding by ReBuildingという名前を与えます。これはアートワークでもあるし、本気で取り組むべき社会課題でもあるし、建築家としての意思表示でもあります。

最後には冊子化して、また再びまとめようと思っているので、乞うご期待。コメントやアドバイスも、あとはヘルプも、随時募集中です!

最後に。とある研究助成金に出した書類があるので、そちらを貼っておきます。noteの文章はわりかしラフに書いていますが、もっと端的にまとまったものになっていると思います。noteよりも早くに書いてあるので、内容のバージョンは古いですが。

参考
(1)環境省(2018年度) http://www.env.go.jp/press/106338.html
(2)環境省(2012年度)https://www.env.go.jp/recycle/build/index.html

研究対象として自邸の解体を扱いますが、それまでは普通に使い倒してあげたいので、みなさん遊びに来てくださいね〜

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