Research29〜最後の滞在〜

調査時間:2019.1.24(木) 23:00〜
     〜 2019.1.27(日) 17:00
場所:狛江市+多摩川河川敷
天気:晴れ(-1〜10°C)

撤去前最後の滞在は3泊の連泊にチャレンジする。資材を集め、まだ完成していないリビングの完成を目指す。最終日となる27日はプロジェクトに興味を持ってくれた人たちを招待して内覧会を行い、意見交換をしようと企んでいる。基本的には日没〜就寝の時間は実家に戻り、パソコンで作業などをしていたが、それ以外の時間は河川敷での作業をしていた。

25日のログ

26日のログ

1泊目(1/24の夜)

大学での作業もあり、土曜日の夜ぶりの中4日開けての滞在となった。久しぶりに夜の河川敷に戻ると、川が流れる音や草木が風になびく音が大きく感じる。初めて滞在した時はこの音が怖く感じて眠れなかったことを思い出した。

Research28で張力を活かして立てた壁は、4日たってもまだ何事もなかったかのように立ち続けていた。張力という考え方はかなり有用だということを身を持って知ることができた。この結果からもう1枚壁を張力で立てることを決めた。2枚の壁を張力で立て、それによってリビングの空間をデザインすることにした。

さらに今晩は100円ショップで買ってきた温度計を室内と室外に設置して、明け方の温度の差を測ってみようと思う。(しかし、温度計が壊れていた。朝なのに17度とかを指していたので、おそらく不良品だ。)

この日、現場に行く前にとある工事現場を訪れた。そこは仮囲いがない場所で、結構公道に資材をはみ出しているテキトーな業者さんがやっている現場だ。釘が大量に手に入る前にも来たことがあり、この現場の周辺には何本か釘が落ちていて、それを調達したことがあった。今回ももしかしたら何かが落ちているかもしれない、と思い行ってみると、近くのコンクリートブロックの上に電動釘打ち機用の釘が置いてある。置いてある場所的に窃盗にはならないが、間違いなくここの大工さんのものだ。それを取るかどうか迷ったが、釘がもう少しないと家が建たないので、いただくことにした。

マクドナルドに関するミニ考察

朝起きて、朝ごはんを求めに街に出た。前回はモスバーガーだったので、今回はどこか違うところに行ってみようと思い自転車を走らせていると、マクドナルドに「コーヒー0円」のポスターが貼ってあった。0円と聞いて行かないわけにはいかない。ハンバーガーも注文したが、もちろんコーヒーはタダでいただいた。

マクドナルドの中は暖かかった。ソファ席に座ると、河川敷の固い布団との違いに驚く。カウンター席にはコンセントまである。
マクドナルドは0円でコーヒーを提供していることもすごいが、暖かくて休めて充電もできる空間を0円で提供しているとも言える。これは普段の生活では普通のことかもしれないが、このような路上生活をしていると気づかされることである。

行きつけの現場へ

マクドナルドで一息ついたあとは、Research25で知り合ってから仲良くしてくれている現場に向かった。この前ちょうど壁を貼り始めていたので、おそらく面材が手に入るのではないかという期待を込めた。

今回の収穫はこんな感じだ。目当ての面材に加えて、太くて長さのある角材、そしてたくさんの釘が刺さった面材が手に入った。
今日も職人さんはとてもよく接してくれて、他の職人さんにぼくのことを面白いことを考えているやつとして紹介してくれた。

現場に帰ったあとは、面材に刺さっていた釘をひたすら抜く作業をしていた。裏から石で打てば、それなりにスムーズに釘を抜くことができる。曲がっているものが多いが、合計で30本くらいの釘が一度に手に入った。こっちの釘が50mmで、昨晩ゲットした釘が75mmなのでうまく使い分けることができそうだ。

壁の施工

壁はまだフレームしかできていないため、ここに板材を貼って、ルーバーのような機能を持たせたい。そうすることでリビングのプライバシーがある程度は保たれるだろうと考えた。

Research25でゲットした石膏ボードの端材と、先ほど釘が刺さっていた面材(構造用のボード)を等間隔にリズムよく配置して壁としてデザインした。ルーバーを意識したのはもちろんのこと、下段の構造用ボードには、先ほど石で打つだけでは抜けなかった釘がそのままフックとして活用されているのがポイントだ。

しかしこの壁はボードをたくさんつけすぎたがために、かなり重くなってしまった。今まで支えていたコンクリートブロックでは壁の重さを支えることができずに壁が倒れてしまった。その結果として、Research21で頑張って制作したキャンチレバーの上に壁が崩落して、ぶっ壊れてしまった。制作当時はかなり苦労して釘を打ったり、のこぎりで45度にカットしたりとしたためかなり悲しかった。

結局翌日にここはデザインを変えて治し、壁を支える重りには川岸で拾った魚釣り用のバケツに石をたっぷりと詰めて使用した。

2泊目(1/25の夜)

2連泊自体が初めてなので、体に疲れが残ることが心配だが、それこそ経験してみないとわからないことなので今晩も河川敷に向かう。
河川敷のぼくの家のちょっと手前の場所に釣りをしている人がいた。深夜の河川敷で人とすれ違うと想像以上にびっくりする。顔も見えないので、もし何かあったらどうしよう、という不安に襲われる。

しかし、睡眠はとてもよかった。深夜に-1℃に達していたらしいが、9時頃まで全く目が覚めずに過ごすことができた。この日は前日の壊れた温度計を見捨て、自宅にあった温度計付きの目覚まし時計を持ち込んだ。室内は7.2℃、この時間の室外もそこまで変わらなかった。このことからわかることは、ブルーシートの壁は対して保温性がないということかもしれない。
しかし、体感は外より室内の方が暖かい。これはおそらく風を完璧に防ぐことに成功しているからと言えるだろう。

最後に現場をまわる

明日は内覧会の準備等で何もできないと思ったため、この日の午前中に、今まで資材をもらった現場を写真を撮ることも含めて、再び回ろうと考えた。(ログは一番前を確認してほしい。)

端材をくれた建設現場:7ヶ所
廃材をくれた解体屋さん:1ヶ所
ダンボールをくれたお店:2ヶ所

これらの方々のおかげで、今回の狛江の家は着々と完成に近づいている。中には複数回お世話になっている場所もあるので、本当に感謝しなくてはならない。また、このプロジェクが終わった後でも来なよと言われているため、是非とも端材・廃材を再資源化する挑戦もしていきたいと思う。

一つの参考として、昨日も訪れた贔屓にしてくれる現場を挙げる。

玄関の壁

昨日作った壁に加えて2枚目の壁(玄関の壁)を制作したいと思う。こちらは玄関なので人が歩いて通過できるようなつくりで、門型のものをにしようと思う。

まずは短い角材を繋げていって、1800くらいある柱を作る。文章にしてしまえば簡単だが、相変わらず石で釘を打っているので、かなり時間がかかる。角材の場合、つなぎ目に垂直な面は合計で4面ある。この4面のうち、対角同士ではない2面に当て木をして釘を打てば強固に接続される。

このように接合した柱の上にツーバイフォー材を上から打ち付け、短い斜めの材で補強することによって、門型で強固な構築物を作った。この門型の玄関と、昨日制作した壁を垂直に結びつけると、リビングルームの全貌が見えてくる。

アルミで風景を切り取る窓

リビングには一番最初に作ったテーブルがある。このテーブルからの眺めを重視して、窓をつくりたいと思った。とはいえガラスのような透明の資材は持っていないので、フレームで風景を切り取るような窓を目指す。

ここまで木材をよく使っていたので、今回はアルミでパキッとしたフレームを作って、人工物で切り取られる自然の風景のコントラストを楽しみたいと思う。木と木の接合は釘さえあれば可能だが、アルミとアルミの接合はそうはいかない。石でアルミ同士を打ち付けて、ある程度接合したのち、紐で90度になるように結んだ。水平方向のアルミは長さが足りないので、もらってきた麻紐を巻きつけながら、水平と垂直がしっかりと出るように長さを調節して壁に結びつけた。

リビングルーム

以上に加えて余ったサイディングのテクスチャから連想して、リビングの前にレンガの玄関のようなものを設けた。

こうしてリビングルームが完成し、寝室と繋がりながらも、寝室の眺めを邪魔せずに違う風景が楽しめるリビングが完成した。フックが導入されたり、梁を何かを掛けるために利用できたりなど、空間として立ち上がるとイメージを超えた使い方が思いついたりする。

以上の制作をもって、ぼくの狛江の家の施工は終了、すなわち竣工となった。

3泊目(1/26の夜)

いよいよ河川敷で寝泊まりする最後の夜となった。
実はこの日の日中も国土交通省のパトロールがやってきて注意を受けたのだ。Research28の時にタケウチさんが本部にしっかりと伝えたのだろう。おそらくこの場所に不法占拠している若者がいるとパトロールの人たち全員が知ることとなったのだ。もういよいよ退去しなくてはならない。そういう意味で、本当に河川敷のこの場所で寝るのは最後になるだろう。

家のベッドがなくなったとしても、別になんとも思わないだろう。しかし、自分が資材を集めるところからつくり、ここが良い・悪いと自分でフィードバックしてブリコラージュしてきた作品がなくなると思うととても悲しい。

ぼくはいつも以上に多摩川の水や草木の音、集めてきた資材の匂い、ゴミを重ねて作ったベッドの柔らかさ、を感じながら眠りについた。一から資材を集めるのも、長い距離運搬するのもごめんだけど、またいつかこんな生活がしたいと心の底から思ってしまった。本当にこの場所には感謝しかない。

内覧会

翌日のお昼過ぎに内覧会を行なった。このプロジェクトに興味をもってくれている人たちがなんと11人も来てくれた。内覧会ではぼくが加藤さんからいただいた、いいちこの十六茶割を振る舞った。自分で作ってみて思ったが、ぼくが飲んだ時のこれはとっても濃かったのだ。
その後にぼくの活動についての話をしたり、家そのものの建築的な話をしたり、みんなと一緒に研究に関しての議論をしたりなど、充実した時間だった。

今日もまたパトロールの人が来た。本当にマークされているんだな、と思うと同時に、こういう国で安全だなと心の底から思う。もしホームレスになっても、こうやって生き延びる方法は自分で見つけることができるし、誰かが見守ってくれているのだ。
このまま嘘をつき続けるのも嫌だったので、自分の身分と何をやっているかをパトロールの人にお伝えして、今日中にちゃんと撤去するということを伝えた。パトロールの人はぼくが大学生で建築の勉強をしていて、その制作物だというと驚いていたが、それ以上にぼくに帰る家があることにホッとしてくれているようだった。

路上生活の終わり

というわけで、ぼくの路上生活が幕を閉じた。最後は内覧会に来てくれた人たちで狛江の家を解体して、軽トラックに積み込んだ。軽トラが1台満杯になるくらいの資材があった。これらの資材を人力でここまで運び込んで来たのだと考えると、自分の努力に驚くと共に、ふと加藤さんだったらどうなっているのだろうと考える。多分2tトラック数台分の荷物があるだろう。

路上生活は都市空間との対話だ。
ホームセンターに行ってお金を払い、規格化された資材を購入する。産業主義的社会の儀礼的行為はもはやぼくらの世界では当たり前だが、路上生活者にとっては違う。何があるかわからない都市に出ていき、その時その時の目利きで材料を入手する。自分が直接必要なものでなくとも、間接的な使い方を瞬時に発想する力がある。彼らはそうやって、ぼくらの裏側の都市の恩恵を受けて生き抜いている。そして、ぼくはこの裏側の世界にデザインの余地があると確信するようになった。

路上生活を終えるにあたって、ぼくが話しかけて快くコミュニケーションを取ってくださった全ての路上生活者のみなさまに感謝したい。特に加藤さんは、ぼくを自分の息子か孫のように可愛がってくれ、自分が知らないことをたくさん教えてくれた。加藤さんがいなかったら、このプロジェクトはもっと平凡なものだったかもしれないし、自分が家を本当に建てようなんて思えなかったかもしれない。加藤さん、本当にありがとうございました。
そして、ぼくを指導してくださった小林さん。親身に相談に乗ってくださり、そしてどんどん現場に行くように後押しをしてくださったことは、自分がプロジェクトを進める上で大切なギアのような存在でした。河川敷まで遊びに来てくださり、本当に嬉しかったです。ありがとうございました。
そして両親。狛江生まれ狛江育ちで実家暮らしのぼくが、突然狛江のホームレスになるなんて、びっくりしたに違いないです。このプロジェクトのことをうまく伝わるように説明できなかったけど、全力でサポートしてくれてありがとう。
そして関わってくれた友人たちにも感謝したい。高校時代からの友人が現場に遊びに来てくれたことはとても嬉しかった。大学の人たちとも日々議論をしたり、お互いに刺激を与え合えたことは貴重な経験でした。そして特に、寺内さんと佐野くん。このふたりはぼくの良き理解者であり、優秀なサポーターであり、刺激的なライバルのような存在です。プロジェクトに一番近い目線でこのように手伝ってくれたこと、心から感謝しています。ありがとう。


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