見出し画像

警察人生 7章

巡査部長に昇任すると、管区警察学校に入校して主に座学の勉強をする
ことになる
私は東京の学校に入校することとなった
他県の警察官と触れ合うことができる
40日の研修期間を終え、帰郷した

次に、待っているのが捜査研修で実地の研修だ
巡査部長になると刑事訴訟法上、司法警察員になり、様々な権限が与えられる
現場で捜査主任となり、中心となって動かなければならない
私は当時、連続放火事件が起きていた県西部の警察署に派遣された
ところが、殺人事件が立て続きに発生したため、その1つに派遣されることになった
捜査本部が置かれ、慌ただしい日々が始まった
私の研修先の事件は、17歳の少女が首を絞められて殺され、中学校の焼却炉に遺棄された事件であった
しかも、遺体に火を点けた形跡があり、焼却炉で焼こうとした残忍極まる事件だった
遺棄現場に本部鑑識課長以下、鑑識課員らと臨場した
現場の見分結果から、遺体はバイクに載せられ運ばれたことがわかった
バイクのタイヤ痕が現場に残っており、バイクの車名も判明した
交友関係を捜査していた班から同じ車名のバイクに乗っている男が判明した
被害者とトラブルを抱えていることがわかり、男の関係者から男が「殺してやる」と言っていたこともわかった
捜査は急展開した
本部捜査一課は、その男を容疑者に断定、任意で呼んで取り調べにかかろうとしていた
事件発生から2日目、スピード捜査だった
捜査会議が開かれた
夕方おこなわれた
刑事ドラマで見る光景だ
捜査一課長から容疑者の取り調べに入るとの話が出た
本部がそのような意向ならば、所轄の警察署は従わなければならない
ところが、所轄署の刑事課長は異議を唱えたのだ

会議場がざわついた

刑事課長は時期尚早だと言うのだ

まさに、「踊る大捜査線の一場面」
警視庁本部(管理官)と所轄(現場の刑事)が揉めるやつの先を行っていた

捜査一課長の顔色がサッと変わった
明らかに気に入らないという感じだった
会議場は険悪なムードになった
刑事課長はたたき上げの典型的な昭和の刑事、刑事一筋30年
間に入ったのは本部鑑識課長だった
鑑識課長は
「仏さんの司法解剖の結果、手と足
 の指の両方に擦過痕が認められ
 た」
「これはバイクの後ろにシートをま
 たがるように載せられて運ばれた
 ことを意味している」
「擦過痕はバイクに乗せられ移動し
 た時に出来た傷だ」
「ルミノール反応を試してみたい」
「それからでも良いのではないか」
と意見した
私は意味がわからなかった
ルミノール反応は血液に反応すると青く光る
それは知っているが、事件と何の関係があるのだ
本部の鑑識課員は私に
「夜になればわかるさ」
と言った
深夜、集められた
大人数だ、会議場はあふれた
招集がかけられたようだ
被害者の遺棄現場に集合した
鑑識課長は
「今から、ルミノール液を散布して
 いく、目を凝らして青い反応を追
 ってくれ」
と言った
横1列になって、青い反応を追った
真夜中に異様な光景である
十字路の交差点は厄介だ
どちらの方向か?見極めるのに大変だった
明け方近くなった
陽が昇るとアウトだ
光は見えない、時間との勝負だ
1.5キロメートルくらい進んだ
ある1軒の家にたどり着いた
静まり返っている
数名の捜査員で家の周りを調べた
タイヤ痕と同じ車名のバイクが敷地内にあった
バイクのナンバー照会の結果、持ち主の人定が割れた
容疑者と別の男だった
所轄の刑事課長は正しかった
コイツが犯人だと皆思った
午前中至急、交友関係を当たった
被害者の少女と接点があった
同じくトラブルを抱えていたのだ
被害者の少女には付き合っている男がたくさんいた
金銭トラブルで数人とトラブルになっていたのだ
本部鑑識課長の手腕はすごいと思った
現場の状況を見てルミノール反応で痕跡をたどるとは、
発想力が素晴らしいと思った
こんなに捜査が面白いと感じたことはない
私はワクワクした
たくさん事件を抱え、捜査一課は焦っていたのだ
誤認逮捕するところだった
後に刑事課長と話す機会があった
「課長、あの時、なぜ時期尚早だと
 言ったんですか?」
課長は
「一課の連中の顔見たか?」
「焦ってますという顔してたんだ」
「捜査に焦りは禁物、腰を据えて
 ドンと構えていないとな」
と言った
かっこよすぎる
研修期間を終えた
人事異動が発令された
山奥の駐在所から1日の乗降客10万人の大規模警察署の駅前交番に赴任することになった
ーつづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?