見出し画像

警察人生 4章

交番勤務からパトカー乗務員になった
非番日は刑事課の手伝いに行った
交番勤務の時、鑑識に顔を出していたので前より慣れていた
当時は今のような研修システムはなく、刑事になりたければ刑事課に手伝いに行く
こいつは使えそうだとなると登用してくれた
現在は面接を受けて適性を判断された上で警察学校の刑事専科に3か月入校して研修を受け試験に合格しなければならない
私はどろぼう刑事になりたかった
盗犯係の刑事だ
当時は強行犯が人気だった
殺人や強盗などの事件を担当する
でも、現場でご遺体を見なければいけないし、人間の醜さがモロ見える
殺人を担当する強行犯は気が進まなかった
ある日、海岸で焼身自殺があった
車の運転席に乗ったまま、ガソリンをかぶり火をつけたらしい
周囲に異様な臭いが漂っていた
油の臭いと人が焼けた臭いが混ざっている
ご遺体は黒焦げだった
表面は黒焦げだが、中は生焼けなのだ
ステーキを焼いた時と同じ
ご遺体を車外に出さないといけない
ドアが開かない
消防署のレスキューも現場に来ていたので機械で開けてもらった
ご遺体を出すのは新米の仕事、ご遺体を掴んで出そうとしてもシートに張り付いて出せない
力を入れて引っ張る
そのとき、ご遺体の腕がべろんと剥け、生焼けの肉が目の前に
さすがにきつかった、
「うぇ」と昼食べた物を吐き出してしまった
先輩刑事が「バカ野郎」と叫んだ
車はレッカーで近くの交番へ運んだ
もう、陽が落ちかけていた
交番勤務員は休暇中だったので、先輩刑事から、
「明日朝、遺族が頼んだ業者が引き
 取りに来る
 お前は交番に一晩泊まって朝引き
 渡してくれ」
と言われた
明日は公休だったが、嫌とは言えなかった
焼身自殺した車と泊まる
ゾッとして布団に入っても眠れない
でも、疲れていたのか、眠ってしまった
クラクションの音が鳴っている、時計を見ると午前3時を回っている
うるさいなあと思いながら、ウトウトしたが、しばらくして正気になった
音はまだしていた
どこから?と頭が動き出した瞬間、
焼身自殺した車から?まさか!そんなことあり得ない
と震えが止まらない
「これは夢だ、夢に違いない」
と自分に言い聞かせて布団をかぶった
しばらくして、音は鳴り止んだが、それから一睡もできなかった
朝、車を見に外に出た
別に異常はない、
「ああ、やっぱり何かの幻聴だ、疲
 れているんだ」
と自分を納得させる理由をつぶやいていた
すると、近所の人が出て来て
「昨日、焼身自殺があったんだろう
 そのときの車だろう、一刻も早く
 片付けてくれ」
私がえっという顔をしていたら、
「クラクションの音が聞こえただろ 
 うが」
私は心臓の鼓動を抑えながら
「今朝、引き取りに来るから」
と答えるのが精一杯だった
業者は割と早く来た
その日はどっと疲れ、公休だったが独身寮で死んだようにしていた
それ以来
・山の中で首吊り自殺したおじいさ
 んを担架を持って来なかったとい
 う理由でおんぶして山を下りたり
・夜行の貨物列車の飛び込み自殺で
 首が見つからないと言われ、自分
 が探した線路のレールの上に首が
 乗っていたり
つらい日々を送ることとなった

当時、冬場は嫌な事件が多かった
放火である
愉快犯なので、あっちこっちに火を点け、警察や消防が右往左往するのを喜んでいる
ゴミ集積所に火を点けるのだ、収集日の前夜にゴミを捨てに来る人がいてゴミがあるのだ
ゴミ集積所はあちこちにたくさんあるので、1人ずつ張り込みについた
寒い夜、外で寝袋にくるまって、みの虫のようにジッとして何時間も張り込みをする
私の張り込み場所は、新幹線の側道の脇にあったゴミ集積所だった
何もない、ゴミ集積所が見渡せる草むらに身を隠した
当直明けの非番員が配置につけられる
パトカー乗務員だった私は前夜、交通事故の処理で徹夜だった
寝袋にくるまると、すぐ眠気に襲われた
当時、スマホがあればゲームでもして眠気を抑えたが、いつの間にか寝てしまった
パチパチという音で目が覚めた
真っ赤に燃えていた
やってしまった
すぐ無線を入れる
捜査本部から
犯人について報告を求められる
寝ていて何も見ていないとは言えない
もよおして現場を離れていたと言うしかなかった
犯人は2人組の兄弟だった
犯人が住む近所の人から警察へ情報が寄せられたのだ
女の子にふられたうっぷん晴らしだったらしい
自分が不甲斐ないと自己嫌悪になっていた
刑事には向いていない
そんな時、異動が出た
交通課へ
ーつづく






この記事が参加している募集

仕事のコツ

with 日本経済新聞

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?