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警察人生 11章

強盗事件のあと、
山間部の住宅に空き巣狙いが発生、幹線道路沿いに連続発生した
連日、聞き込み捜査に従事した
犯人に関する情報は得られなかった
最初、在宅している人に聞き込みしたが、外にいる人にも聞き込みした方が良いと考え、農作業などに従事している人にも聞き込みをした
畑仕事をしていたおばあさんに声をかけた
空き巣のことは知らなかった
おばあさんに
「最近、地元の人ではない人を見ま
 せんでしたか?」
と聞いた
怪しい人とか不審者を見なかったか?という質問はしない
なぜなら、人それぞれ怪しい・不審の基準が違うから、つまり何をもって怪しいのか、不審なのかがよくわからない
先輩刑事から、具体的に示して質問をしないと望む答えは得られないと聞き込みの要領を教わっていた
おばあさんは、あっさり
「見たよ、若い衆を」
「この辺の人じゃないね」
車のことを聞くと、
「名古屋ナンバーだったよ」
「ひらがなが『わ』だったよ」
「『わ』なんてあるんだね」
と答えた
レンタカーだ
「さすがに数字まではわからないよ
 ね」
と尋ねると、
「ゴロの数字だったよ、テレビのコ
 マーシャルでやってる『ハトヤホ
 テル』の4126(よい風呂)」
と答えた
捜査員どうし顔を見合わせた
バレバレのナンバー
神様はよく見ている
悪いことはできないと
すぐ様、不完全ナンバーで照会した
レンタカー会社が判明した
名古屋へ飛んだ
レンタカー会社の人は、
「よく覚えていますよ、支払いはい
 つも現金、財布が万札で膨らんで
 いた、若いのによく金持っている
 なぁと思っていた」
と答えた
車を借りに来た人物が判明、内偵捜査に入った
暴力団事務所に出入りしているチンピラだった
今風に言うと、半グレグループ
ヤクザの盃をもらってはいなかったが、上納金を納めていた
代わりに、覚醒剤や代紋入りの特攻服をもらっていた
いいように利用されていた
暴力団がバックにいることや覚醒剤の話が出てきたので、捜査三課のほか暴対や銃薬の捜査員がやってきて捜査本部ができた
また、慌ただしくなった
妻の機嫌が悪くなった
駐在所を任せきりだ
ろくでもない父親だった
家庭をあまり顧みなかった
授業参観、運動会など行ったことがなかった
いつも、しかめっ面をしていた
子供達は、
「おとうさんは怖い」
と言った
家でも警察官を演じていた
半グレグループは10人近くいた
3人組の3グループを作って、近畿、中部、東海の7府県で空き巣狙いを繰り返し、余罪は200件を超えた
カーナビを使い、警察署の近くは犯行を避けていた
被疑者を順番に逮捕した
次に、毎日のように引き当て捜査に出かけた
遠いところは、兵庫県まで行った
事件解決に半年以上かかった

今度こそ、平和になると思っていた
ところが、また事件が起きた
午前3時、警察電話が鳴った
私はパジャマで寝ない
いつも、ジャージだ
すぐ、飛び出して行けるからだ

帰宅した家人が裏の縁側の戸が開いているのに気がつき、見知らぬ運動靴を見つけた
家人は深夜帰宅するので裏から入っていた
家の中に泥棒が入っていると直感した家人が携帯で110番したのだ
私はバイクにまたがり、急行した
駐在所の近くだった
連絡を受けた家をよく知っていた
屋敷が広い、母屋のほかに離れや農機具小屋、作業小屋があった
庭も広く、裏庭まであった
出入り口は表側にも裏側にもあった
夜入る泥棒は表から来ない
先に裏側へ向かった
すると、飛び出して来た人影を見つけた
追いかけて捕まえた
裸足だったので足の遅い自分でも捕まえることができた
ちょうど、パトカーが到着した
少年だった
もう1人はパトカーの勤務員が確保した
少年らは夜な夜な民家に泥棒に入りゲーム機やソフトを盗んでいた
隣接の警察署管内でも発生があり、
余罪は150件に及んだ
2人とも県立高校生で同級生の女の子の家に忍び込んで下着も盗んでいた
隣接の警察署の生安係が主導して事件を担当することになった
また、捜査に呼ばれると思っていた
が、警部補試験に合格した駐在所員が捜査研修の一環で呼び上げられて私は免れた

良かったと思っていたら、刑事課長から呼ばれた
課長は
「鑑識競技会に出てくれ、署長から
 成果を出せと言われている」
と言った
強盗事件以来、捜査本部が次々に立ち上がり、とてつもなく忙しかった
しかし、署長はご機嫌だった
田舎の警察署がこれほど忙しくなることはない
普段は1年間に犯罪発生数が50件程度、平和なのだ
大規模警察署は、1年間に犯罪発生数が3000件を超える
解決率は発生件数が分母、解決数が分子
普通は解決数が発生件数を超えることはない
強盗事件以後の事件は余罪の件数が数百件にも及んだので解決数がぐんと伸びた
わが署は解決数が飛び抜けて多い、県警本部からの評価も高いというわけだ
だから、署長はご機嫌なのだ
にもかかわらず、署長は更なる成果を求めている

県下の警察署は規模により、Aクラス、Bクラス、Cクラスに分かれる
うちの署は署員30名のCクラス
競技会は柔剣道大会、逮捕術大会、無線競技会、職務質問競技会、鑑識競技会と盛りたくさん
人員が少ないCクラス署ではかなりの負担なのだ
当然、いい成績は残せない
いい成績を残せと言われてもムリ
こうして鑑識競技会の練習が始まった
ーつづく


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