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留置場ってどんなところ【警察の仕事】

留置場って、どんなところか?知っていますか
何らかの罪を犯した人が逮捕され収容されるところ、
まあ、そのとおりですが、様々な物語があるのです

留置場の扉は鋼鉄製、頑丈だ
扉の向こう側には何らかの罪を犯し収監された人たちがいる
彼らは普通の人間だった
むしろ、普通の人間よりも人間らしかった
生まれつき悪い人間はいない
人生の歯車が狂って、悪い方に転がってしまったと言える
誰でもそうなる可能性がある
そして、奈落の底に落ちた
留置された人(留置人)は名前では呼ばない、番号で呼ぶ
プライバシー保護である、他の留置人に名前を知られないために

殺人犯の男が新規入場した
同性愛者だった、同居中の若い彼を金づちでめった打ちにしたのだ
顔の原形がなくなるほどに、
動機は若い彼の浮気だった
殺人を犯した人間は、異常な興奮状態にある、殺気がにじみ出て今にも噛みつきそうな狂犬と言っていい、顔つきは瞳孔を見開き、目が吊り上がり、眉間にシワを寄せているのだ
彼もそうだった
どう対応していいのか?わからなかった
数日間、様子を見ることにした
殺人犯の場合は単独で監房に入れる
事件のことは全く触れず、静かに過ごした
1日の生活は規則正しい
起床は午前6時30分、就寝は午後8時、食事の時間や運動の時間も決められている
規則正しい生活を静かに送ると、人間穏やかになっていくのを知った
1週間が過ぎて、お経を差し入れてほしいと要望を初めて口にした
般若心経しかないが、差し入れたものが読めないと言うので、母を亡くした時、檀家の寺からいただいた読みがなをふった般若心経を渡した
それから、男は毎日お経を唱えるようになった
すると、顔つきが穏やかになった
人間らしさを取り戻したのだ
男と色々話した、般若心経の意味を知りたいと言うので調べて渡した
男はそれを見て涙を流し、悔いていた、一生懺悔の日々を送ると言った
殺人罪で起訴され拘置所へ移送される日が来た
男は
「お世話になりました、ありがとう
 ございました」
と深々と頭を下げた
別人に生まれ変わっていた、この世に本当の悪人はいない

解離性同一性障害の留置人が新規入場した
覚醒剤使用の女性被疑者だ
いわゆる多重人格だが、人格は2人ぐらいだと思っていた
しかし、違った、毎日、人格が違うのだ
月曜日は、お淑やかな女性
火曜日は、ノリの良いヤンキー娘
水曜日は、どSの攻撃的な女
木曜日は、色っぽい売春婦
金曜日は、無口で病的な女性
という風に最低5人の人格があった
特に水曜日は最悪だった
唾を吐きかけられ、罵られた
こうも毎日、人格が違うのには本当に驚かされた
名女優よりも、さらに女優だった
刑事も取り調べが大変だったようで
まともな調書が取れなかった
精神疾患により不起訴になり、医療施設に措置入院になったのだ
父親からの虐待が原因で薬にのめり込んだ
薬が救いだったのに違いない
薬に手を出した彼女を責めることはできない

職業的窃盗犯という者がいる
60歳過ぎの男性
その人生大半は泥棒稼業と刑務所暮らしの繰り返し
窃盗の前科前歴が十数件あった
彼の専門分野は鳶師、屋外から8階建てのマンションベランダまで簡単に昇ることができる
高層階の住人はベランダの窓を施錠していない
屋内に入って主に現金を盗むのだ
マンション玄関で間取り図から部屋の位置やインターフォンで不在を確認してから標的を選ぶそうだ
しかも、財布から現金を抜き取るが全部を盗まない
住人が犯行に気付かないのだ
最も驚いたのは、キャッシュカードを盗み、何らかの方法で暗証番号を調べてATMで現金を引き出し、キャッシュカードを元に戻しておくというのだ
まさしく、プロフェッショナルだ
ただ近年はATMコーナーの防犯カメラの性能が格段に進歩したのとATM周辺の街頭に防犯カメラが普及したため、面が割れることをおそれて、あまりやらなくなったと聞く
職業的窃盗犯はプロ意識が高い
自分の技術に絶対の自信を持っている
取り調べの刑事には話さないが、留置担当者には自慢げに手口を披露した
彼は
「これが最後だ、体力がない」 
と言った
私が
「これからどうするんだ」
と聞くと、
「もうやめるよ、刑務所で最後を迎
 えるかもな、生まれ変わったら真
 人間になる」 
と言って、拘置所へ移送となった
しばらくして、拘置所で亡くなったと聞いた
彼は生まれもっての泥棒ではなかったはずだ
どこでどうなったのか、わからないが、泥棒稼業の人生を歩むことになった
彼の死を聞いて、せつなくなった

暴力団の鉄砲玉が新規入場した
まだ若い
すごく、イキがっていた
反抗的な態度を示し、言うことを聞かない
母親が面会に来ないことに苛立っていた
母ひとり子ひとりの母子家庭で育ち母親が男を代わる代わる家に連れ込み、何日も放置された
母親が憎い、だけど母親の愛を欲している
女性の留置担当者がうまく対応した
彼女は母親に連絡を取り、衣類などの差し入れをお願いしたのだ
彼女の言うことを聞くようになった
ほどなくして、母親が面会に来た
笑うようになった
話かけてくるようになったのだ
出所したら、ヤクザと縁を切って母親と母親の故郷に帰り、再出発すると言って拘置所へ向かった

様々な人生模様がある
人生奈落の底に落ちたかもしれないが、もう落ちようがないのだ、底にいるのだから
あとは、這い上がるだけ
頑張れ!


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