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Yコンビネーター参加してみた (振り返り)

こんにちは。テイラー代表の柴田です!

テイラーが参加したYコンビネーター Summer 2022の約4ヶ月間にわたるプログラムが先週土曜日をもって閉幕したので、今後Yコンビネーター参加を検討している起業家を想定読者として総括エントリーをしようと思います。

プログラムの概要については過去エントリーやPodcastを参照していただくとして、ここでは、Yコンビネーター参加前に想像していたことと異なっていた点を中心に、良かったこと、悪かったこと、反省(もっとこうすればよかった)を記載したいと思います。

Summer 2022バッチまとめ

まずは、Summer2022バッチの過去バッチと比較した場合の特徴です。

  • 出資額が500,000 USD(約7,000万円)に増額されてから2つ目のバッチ(それまでは125,000)

  • Yコンビネーター初の「ハイブリッド」バッチ。過去4回のバッチはCOVIDによりフルリモートだったが、今回から最初の1週間と最後の1週間はIn-person。かつ、週1回SFで飲み会(任意参加)が開催された

  • 採択会社数は前回バッチより60%減って約240社。採択率(書類応募÷採択企業数)は1.3%と過去最低

なお、出資額の引き上げについて、公式の説明としては、2021年頃にスタートアップバリエーションが過大になっているという議論がYコンビネーター内であり、来たるべき「冬の時代」に備えてYコンビネーター採択企業の生存率を高めるために出資額を増額したとのこと。理由はあと付けかどうかわかりませんが、施策は見事的中したと評価されています。

ちなみに、今回バッチの参加者やパートナーの話を総合すると、例えば昨年に比べて調達できないスタートアップが増えているかというとそうではなく、ほとんどのYコンビネーター参加企業が中央値で$2M程度の調達ができている印象です。

良かったこと

Yコンビネーター企業の1社としてノイズの少ないフィードバックが得られる

プロダクトマーケットフィット(PMF)前のスタートアップにとっては、顧客や見込み顧客からのフィードバックを受け取り、改善サイクルをいかに高速に回すかということが何よりも重要です。

一方で、日本発のスタートアップが米国に展開することの難しさの一つに、得られるフィードバックの精度の問題があると常々感じてきました。

断片的な情報で経営判断をする場面では、その情報が「誰から」もたらされたかは非常に重要な手がかりです。読者の皆さんも、人生のアドバイスや経営のアドバイスを受け取ったときに、アドバイスの提供者と自分との距離感や、その人の経験、知識、その人が得ているであろう情報、その人のインセンティブなどを考慮に入れた上で、アドバイスをどの程度真剣に受け止めるべきかを考えると思います。

日本から米国に進出した状態でフィードバックを受けようとすると、どうしてもアドバイスの提供者が、自分の持っているネットワークを辿って得られるものに限定されるため、自分が米国に長く住んでいた等でない場合は、かなりバイアスのかかったデータポイントになっていると考えるのが自然です。

具体的に言うと「シリコンバレーで成功した日本人」セグメントには彼ら/彼女ら特有の生存者バイアスがあると思いますし、「日本好き/日本駐在経験のある米国人」にも特有のバイアスがあると想像できます。また、典型的な日本発のネットワークではリーチしづらい層(WASPエリートや、米国の内陸の方の企業)もあります。また、アドバイス提供者のインセンティブにも、米国人 to 米国人とは異なる動機が働くこともありえます。

個人的には、上記の存在も手伝って、米国市場はまるで暗黒大陸という印象がありました。インターネットや友人との会話から情報は入ってくるが、ノイズとシグナルの見分けがつけられないために、情報のカリブレーションができないという感覚です。

その点、Yコンビネーターに採択されたことで、「日本から来たスタートアップ」ではなく、「Yコンビネーターの1社」としてファーストコンタクトできることは、フィードバックのバイアスやノイズを低減し、純度の高いフィードバックを得るという点でとても効果的でした。

このポイントは、Yコンビネーターを実際にやるまで全く予想していなかったポイントな上に、よく考えると日本のスタートアップが米国市場をやるうえでものすごく重要なので、期待を上回ったポイントの筆頭です。

YCネットワーク

Yコンビネーターをやってよかったことの2つ目は、Yコンビネーターのネットワークに参加できたことです。これは、よく言われることなのであまりサプライズは無いと思いますが、Yコンビネーター参加前に想像していたことと、参加してみて感じたことの違いを中心に書きたいと思います。

1つは、想像よりも結束が強い点です。

日本のビジネス界でも観察できる類似ケースで一番近いように思えるのは、海外ビジネススクール等の卒業生コミュニティです。「元HBS(ハーバードビジネススクール)」や「元GSB(スタンフォードビジネススクール)」などのくくりであれば、仮に在籍していた時期が重複していなくても、親近感を感じる心理があると思います。

この卒業生コミュニティ好きは概ね米国的な価値観だと思いますが、その国民性に加えて、起業家という孤独な職種に固有の「助け合い精神」が醸成されており、ビジネススクールよりさらに強い紐帯のあるコミュニティだなと感じました。

2つ目は、待ちの姿勢では利益を受けられないネットワークだということです。

これは欧米的な社会に共通の特徴かもしれませんが、積極的につながりを開拓すれば効率よくたくさんの仲間を作れる一方で、単にプログラムに参加し、公式コンテンツをこなすだけでは、おそらく友達は1人もできないと思われます。

必修じゃない大学の授業で、単に授業だけに出席し、授業が終わったらすぐに帰宅するようなムーブを想像していただければ近いかもしれませんが、「彼も誘ってあげようよ」みたいに手を差し伸べてくれる人は居ないので、集団で目立つなり積極的に話しかけるなりしなければモブキャラまっしぐらです。陰キャにはなかなかつらい社会ですね・・・。

ちなみに、テイラーが参加したバッチ(Summer 2022)の打ち上げのタイミングに合わせて行われた、過去のYC参加者も参加できるAlumni Partyには、目測1,000名ほどが参加していました!

目指すべきベースラインが上がる

Yコンビネーターにとどまらず、米国スタートアップは非常に競争の激しい産業です。単なる肌感覚ですが、日本なら1社しか居ない程度のサイズのバーティカルに、10社〜20社がしのぎを削っている感覚です(いつか機会があったら書きますが、VC等の投資家側も同様です)。

一方で、成功した場合の規模感も桁違いです。Yコンビネーターは1バッチあたり、平均して2~4%の会社がユニコーン($1B = 1400億円以上の時価総額)になります。

Yコンビネーターに参加していると、例えばTuesday Talkのような卒業生がスピーカーとして話してくれるプログラムにおいても、またYコンビネーターコミュニティーの日常会話(こないだXXに会ってさ〜)においても、大きな成功を収めた起業家を間近で見聞きする機会が多いため、「刷り込み効果」によって「成功」を定義する閾値がどんどん切り上がっていきます。

特に、数年前のバッチの人と話すと、必ずと言っていいほどそのバッチメイト(同期)に、有名ユニコーンの会社があるので、数十億円での売却が恥ずかしく思えてきます。

仮に確率×規模で表される期待値が日本と米国で同じ程度だとしても、米国のほうがよりハイリスク・ハイリターン側に基準値があるイメージです。まったくの適当な数字ですが、日本であれば10%の確率で300億円の会社を目指そうというのがスタートアップの目線の中央値だとすると、米国では1%の確率で3,000億円の会社を目指すのが普通、という意味合いです。

課題・反省

チームとのSync

Yコンビネーターは、「創業者のための」プログラムを標榜しており、この創業者の定義は「株式を10%以上持っている個人」と定義されています。そして、プログラムには創業者以外の参加は認められていません。

多くのYコンビネーター参加企業は、フェーズ的に創業者以外のメンバーが居ない状態ですが、中には創業者以外の従業員を抱えている企業もあり、テイラーもその1社です。

ハイブリッドプログラムのため、日本に居ながらにしてYコンビネーターのプログラムに参加できる点は長所なのですが、プログラムに出席していない創業者以外のメンバーにとっては、プログラムとあまり関係のない日常になってしまいがちです。

時差もあるので難しいことは承知の上で、Yコンビネーターの熱気もっとを創業者以外のメンバーにも伝えられる手段を設定できればなと思いました。メンバーの業務の邪魔や気が散るもとにならないようにバランスを取ろうと思った結果、その点が難しかったなと思います。

より戦略的なネットワーク開拓

「自ら動かないとネットワークを活用しきれない」と先述しましたが、自分自身の反省としても、無理やりネタを作ってでも色んな人とアポが取ったら良かったなと思いました。

顔と名前が一致し、カジュアルな会話をしたことがある参加者は100人以上できましたが、実際の事業の話などを含めて密度のある会話をしたのは、同じグループ(Section)になった20名ほど+たまたま接点があった数社くらいになってしまいました。

これも、「事業進捗に直接関係ないからいいや」と思ってしまいがちなのですが、プロフィール(Yコンビネーターメンバー向けサイトに掲載されている)などを見た上で狙いすましてアプローチすればよかったなと思います。

"Y-Combinator Never Ends"

Yコンビネーターはプログラムが終了しても、会社が解散しない限りいつまでもパートナーとの1on1を設定することが可能です。実際、1〜2ヶ月に1回の1on1を設定することが推奨されており、うまく行っている会社はそのようにしているようです。

また最近は、シリーズAステージの企業へ向けたプログラム、シリーズA以降(Post-A)プログラム、グロースステージ向けのプログラム(YC Continuity)というプログラムも、Yコンビネーター卒業生向けに用意されており、会社が成長すると再度プログラムが用意されています。

これを指して、「YC Never Ends」が、Yコンビネーターのコンセプトになっています。

上記の反省を取り返すチャンスはあるので、チームへの熱量の伝播と、積極的なネットワークの活用は今後の宿題にしたいと思います。

We're hiring!

というわけで、”Never Ending"なYコンビネータースタートアップで働いてみたい、という方はぜひお話させてください。

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