団地の遊び 夜の川と借り

夜の川と借り

 団地内には、川があった。正確には、一部を横切っている、というものだが、それでも、目の前の川なので、愛着もあるし、遊び場でもあった。
 一応、一級河川だが、ショぼい川といえる。幅は、五メートルぐらい、汚いので、川で遊ぶことはなく、土手の草むらばかりで、あそんだ。
 土手の草むらには、カナヘビやバッタがたくさんいて、それなりに愉快だった。
 昼間の話である。子供だったので、遊ぶのは昼間なのだが、夜の川の記憶が、いくつかある。
 現在、川がどんな感じなのか、知らないが、当時、夜は真っ暗だった。
 車やバスが走る道は、明るいのに、川を見たら、真っ暗なのである。なんかすごいギャップみたいのを感じた。
 夜、土手道のど真ん中に、デカいカエルがいた時は、驚いた。もう我がモノ顔でいる。ここはオレの場所だぞ、なんだオマエ?いかにもそんな感じだった。
 外から見ると、真っ暗でも、実際、川沿いを歩くと、民家の明かりとかあるので、まあなんとか見えるのである。
 次は、ヘビだった。デカいヘビ、多分、アオダイショウと思うが、そいつがトグロを巻いて、土手道のど真ん中にいた。やはり、コイツも、なんだオマエ?という感じで、子供の自分を上から目線で眺めていた。
 これだけで、かなり焦った。
 自分は、子供の頃は相当な怖がりだった。でも、この川の夜は平気であった。安心できたのである。なんとなく、守られている、そういう感じが、周囲から感じられた。
 これは自分だけではなく、この川で遊んでる友達たちも言っていた。
 からかさ小僧を見た、という奴らがいた。隣のクラスの連中である。
 誰も本気では信じていないのだが、やはり子供なので、どこか期待してる部分がある。
 そんなわけで、夜、川に行った。小学校の横が川である。橋もすぐそばにある。
 川の土手上の道に入ろうとしたときは、やはり少しビビった。左は川、もちろん暗い。そして右は学校の校庭である。夜だから暗い。
 要するに、川横土手も川上土手道も真っ暗だった。対岸の民家の明かりなどまるで届いてない。これなら、妖怪がいでも、おかしくない気がした。
 ビビってる、とはいっても、やはりいつもの川の匂いがする、草たちの芳香が強く感じる。そして大丈夫だ、という気がする。
 暗闇の中を歩き出す。それにしても、いつも遊んでる所だから、暗くて見えなくても、どうなってるかがわかるので、土手の奥に行けば行く程、余裕が出てきた。見えなくてもまるでわかるのである。
 一応、説明しておくと、川の横に道がある。道といっても、草むらの中の土の細道である。その横に坂がある。長くはないが、結構、傾斜があり、凄い草むらである。遊ぶ所は、たいがいここだった。そして、その急坂の上にも、土の道がある。
 今いる所は、そこで、この横に小学校がある。
 土手道または土手上道とか言っていた。なので、その坂下は、相当真っ暗なのだが、民家が土手上道の横にあり、その灯のおかげで、かろうじて見えるのであった。なんかややこしい書き方で申し訳ない。
 土手上道も、要するに見通しは悪い。で、コッチ側は民家がないので、暗い。そんな所を日頃の記憶で歩いている。
「あたしは非科学的なものは信じないのよ」いつもこんなことを言っている女学級委員山岡だが、なぜか、肝試しとか、なんかこんな感じのがあると、必ず参加する。そして、みんなが怖がって泣き出したりしても、一人涼しい顔して平然としている。
 さすがに下に行く気にはならなかった。一番の理由はケガが怖いからである。腰近くまである超草むらの急坂を闇の中、下りるのは、危ない。
 ところがMM2(仮名)が、橋の下あたりじゃないか?と、からかさ小僧探索を的確に指摘する。橋の下は大真っ暗であった。
 次の橋の所まで来ていた。
 MM2が、土手を下り出した。結構、速く行っていると、案の定、あっ!と叫び、転がってるのが、薄明かりの中、かろうじて見えた。昼間でも、この急坂を走るなんてことは、危ないからやらない。
 おーい!声をかけても返事がない。MM2が川横の土手に倒れてる影が見える。山岡と一緒に用心して下に行く。MM2の横に来た。意識がなかった。
 山岡が残り、自分は土手を上がった。橋を渡った所に民家があったので、事情を説明し、お願いして救急車を呼んでもらった。
 MM2のケガはたいしたことなかった。脳震盪を起こし、コブができただけだった。
 親はもちろん、担任先生にまで連絡が行った。先生は病院にまで来た。
 後日、山岡が言った。「あの時、あたしが救急車を呼びに行こうと思った。でも、ここは怖いからいるのイヤだ、そう言うと思って、行かせた」自分はこう思った。「これは借りになるのだろうか?」
 そしてMM2が胸を張って言った。「俺が気絶したのは、土手から落ちたからじゃあない。からかさ小僧を見てビックリしたからだ」

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