団地の遊び 緑のピクニック

緑のピクニック

 団地は植物だらけだった。よって緑が多かった。
 夏の芝生を思い出した。芝が高い。密生している。ここを自転車で走ると、タイヤが重く、大変走りづらかった。ときにはタイヤが芝生にからむ。
 しかし、歩くのは、楽しかった。芝生の緑の中に足が埋まり、なんとなくそれが愉快だった。
 昔も今も、なぜか、緑を見ると安らぐ。その中で生活できないか?とこの歳になっても思う。
 そういうことを言ってる奴は、ほかにもいて、よってピクニックをしよう、ということになった。小五か小六の時である。もっとも女子たちの間からは、アリがはってくるとか、カマキリが威嚇してくるとか、そんな意見も出た。
 カマキリというヤツは、今でも時々見かけるが、コイツはなんでこう好戦的なのかと思う。道を歩いている、すると目の前にカマキリがいる。カマキリは文字通りカマ手を持ち上げ構え、あきらかに「なんだコラァ!やるってのか?かかってこい!」という態度をする。コッチが靴で踏んづければアッという間に勝ち、というのがわからないのか?と思うが、分かってないのだろう。そういうヤローなんだと思うしかない。
 カマキリの話ではなかった。
 緑の中で楽しいピクニック計画であった。
 場所はどこにするか?という問題があった。確かにその気になれば、団地の号棟の前は芝生だし、公園はあるし、木もあるし、その気になれば、どこでもできた。
 ただ、そうは言っても、横の道を人がよく通ったり、なんとなくヤバそうだったり、そういうのがあって、なかなか決まらなかった。
 で、結局、はじめから、そこだろ、と言っていた所に決まった。自分の住む号棟の西側のはしっこは、芝生の広場みたいになっている。そこに大きな木が三本あり、その根元、という、いつも遊んでるといっていい場所になった。
 ところで、号棟会議というものがあった。これは号棟の芝生で、主婦たちがお茶でも飲みながら、なんか話すというもので、その日になると、芝生側から「号棟会議が始まりますよーー」との声が聞こえる。
 考えてみたら、団地の主婦たちは、ピクニックみたいなことを毎月やってるのである。
 まあ、それにあやかって、という意味もあった。
 確か季節は暖かい時だった。真冬にはやらないと思う。
 女子たちが、三本の木の下に、なんか敷く。なんて名称なのか忘れたが、ゴザ代わりのなんだか妙にカラフルなモノを敷いた。別に芝に座ってもいいと言うと、アリが来ると言って譲らないーーーどっちでもいいけど。バスケットの中にはサンドイッチやらなんやらを用意している。自分はスナック菓子を持っていった。
 みんなで木陰で、食べる。実に平和である。何人ぐらいで誰がいたのかよく覚えていない。なんとなく女子が多かったような気がする。
 自分は木に頭を置いて寝転がる。女学級委員山岡に、「このハムサンド大丈夫なのか?変なにおいする」と言ったら、自分の口に無理矢理ハムサンドをつっこみ食べさせる。みんなが笑う。実に平和である。
 自治会長高橋さんが現れる。「酒盛りやってるって聞いたから、来てみたら」「ピクニックですよ」学級委員Rが答える。「どうですか?お茶でも」誰かが言った。「そうね」自治会長が座り、ゆったりお茶でも飲み始める。
 空は青だった。雲一つなかった。暖かい微風が時おり吹く。緑の香りが漂う。実に平和である。
 片目の白犬シロが現れた。山岡と良美ちゃんが、用意していた干し肉みたいなものをあげる。
「このコがシロね、おとなしいコなんでしょ」自治会長が言った。
「会長さん!片目なんですか?」MM2(仮名)が大声を出す。日頃、MM2はシロの姿を見えるのは子供だけ、大人で見えるのは片目の人だけだ、というたわけたことをほざいている。
「見えるに決まってるでしょ。あんた、あたしの目のこと知ってんの?」自治会長高橋さんは、片目が弱視なのだそうだ。つまり、少しは見えている。MM2の説は、なんだか微妙なラインを漂っている。
 青空をセスナ機か飛んでる音が聞こえた。自分は木にもたれ、畑の上の空を眺める。UFOがよく現れる大きな楕円形の雲の中に、セスナ機は飛んでるようである。緑の爽やかな芳香。実に平和である。
 すると、すぐ近くにカマキリがいた。団地の芝はカマキリが多いのだった。
 誰か忘れたが、捕まえたカマキリを、そのカマキリの前に置いた。緑鮮やかなカマキリ二匹が、戦うのかと思いきや、戸惑ったように互いを見ていた。
 カマキリまでが、平和な午後のピクニックだった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?