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Welcome to The Land of SAGA #AKBDC

 BLAM!「ギャース!」BLAM!「ギャース!」BLAM!「ギャース!」

 発砲音、おぞましき悲鳴、それらを切り裂いて走る武装改造軽自動車! ここはご存知SAGA神話の地、佐賀。その乾いた台地の上を、二人の成人男性を載せた車が駆け抜けていく。そのうちの一人、灰色の豹頭人が狂ったような笑いを上げる!
「HAHAHA! アクズメさ―ん! ウェルカムドリンクならぬウェルカムオブザデッドは気に入ってくれましたか~!?」
「気にいるわけ」BLAM!「ねえだろうが!」BLAM!
 吐き捨てるように答えながら、アクズメと呼ばれた助手席の男が合法改造ショットガン(佐賀駅にて一泊二日2500円でレンタル可能。オプションは別料金)を連射、武装改造軽自動車に襲いかかるゾンビ共の頭部を吹き飛ばしていく。
「でんちゃんよお! たしかに俺は自分の小説で『佐賀にはゾンビがあふれています! 合法的に射殺可能!』みたいなことを書いたけど! それはあくまでもジョーク、ジョークなの!」BLAM!

 「佐賀県はいたって平和」BLAM!「ゾンビなんて」BLAM!「いるわけないって」BLAM!「思ってたのによお!」BLAM! 

 スムーズな動作でコッキングをおこなうと、アクズメは周囲を見回す。どうやら一段落ついたらしい。
「ふいー、このウェーブはなんとか乗り切ったぜ……」
「お疲れさまです」
 そういってアクズメをねぎらった男は、名をタイラダでんという。アクズメを自らの住む佐賀県に招待したのはこの男である。(なに? このご時世で海外旅行なんてできるわけないだろうだって? 何を言ってるんだ、SAGA神話の国にコロナウイルスなんて存在できるわけがないだろうが! 佐賀にはびこっているのはゾンビウイルスだけです)
「ていうか、佐賀ってマジでゾンビうろついているんだな」
「マジマジ。野良ゾンビなんて、掃いて捨てるほどいますよ」
「マジか。ゾンビがアイドルやってるようなとこは、やっぱ違うな」
 そんなやり取りを続ける間にも、タイラダの運転する武装改造軽自動車『キュアダイナマイト』号はひたすら走り続ける。アクズメは地図アプリを立ち上げて、現在地を確認してみた。どうやら車は一路、西へ向かって走っているようだ。
「で、ホストのタイラダさんは、このアクズメさんを一体どこへつれていってくれるわけ? こんなご時世にわざわざ呼びつけたんだから、それなりの場所じゃないと」
「ええ、任せてください。僕は今回、アクズメさんに”真実まことの佐賀”を見てもらうつもりなんです」
「まこと……?」
 豹頭の男タイラダはニヤリと笑う。
「アクズメさんの作品のせいで、われらが佐賀が、いわれなき風評被害を受けてしまうのを黙ってみているわけにはいきませんからね。あの作品、僕は面白く読ませてもらいましたけれども、残念なことに内容の三割ぐらいしか正しいことが書かれていない」
「おいおい、あれはあくまでフィクションだからな」
 アクズメが呆れ顔でそういった瞬間、車が大きく跳ねた。スイカが潰れたような音。どうやら寝そべっていたゾンビを踏んでしまったらしい。
「おっと、危ない」
 タイラダはハンドルを器用に操り、車の制御を取り戻す。
「……どこまで話しましたっけ? そうそう、たしかにあの作品はフィクションです。しかし、優れたフィクションというものには、現実を変えてしまうほどの力を秘めたものもある……」
 急カーブ。タイラダは勢いよくハンドルを切る。二人が乗る武装改造軽自動車は、いつの間にか曲がりくねった峠道を猛スピードで走っていた。
「そりゃあ、俺の作品がそれだけスゲエってことか? 照れるぜ」
「ええ、そのとおりです。ですがアクズメさん、あなたの作品が現実を改変したせいで、佐賀はいま、とんでもないことになってしまっています。県内に発生したゾンビの数は例年の数十倍、またマイティデビルワラスボ、ダークブラックムツゴロウなど、奇怪生物の発生件数も例年より多い……」
「ええ……それも俺のせいだっていうのかよ。知らねえよそんなこと」
 急カーブ。タイラダは勢いよくハンドルを切る。
「もちろん、アクズメさんが意図して現実改変をやったわけではないでしょう。まあとにかく、この自体を打開するためには、アクズメさんに”真実の佐賀”を見てもらい、その上でもう一度、真実ほんとうの佐賀をテーマにした作品を書いてもらうしかない……サガシティ上層部はそう結論づけました」
「なるほどなあ……」
 急カーブ。タイラダは勢いよくハンドルを切る。
「さて、そろそろカラツエリアに入りますよ」
「カラツ……エリア?」
 急カーブ。タイラダは勢いよくハンドルを切る。
「佐賀県はですねアクズメさん。中央のサガシティ、東部のトスシティ……この地区はお隣の修羅の国の属国に成り下がっていますが、一応佐賀県に属します……そして西部のカラツエリアの3つから成り立っているんですよ」
「そのカラツエリアに、”真実の佐賀”ってやつがあるんだな?」
「そのとおりです」
 急カーブ。タイラダは勢いよくハンドルを切る。
「しかし、”真実の佐賀”までの道のりは困難に満ちています。アクズメさん、カラツという名前を聞いて、なにか気づくことがありませんか?」
「はあ? 名前がなんだってんだよ……まてよ、カラツ……KARATU……カラトゥ……カラトゥ……カラトゥェ…………カ、カラテ・・・!?
 その言葉を聞き、タイラダは深刻そうな表情でうなずいた。
「そうです。カラツとはすなわちカラテ。このカラツエリアは古代よりカラテによって支配されてきた恐るべき土地なのです」
 そのとき、空を引き裂くような恐るべき叫びがあたりに響き渡った!
「うお!? なんだなんだ!?」
「チッ……早いな、もう嗅ぎつけてきたか」
 タイラダはアクセルを思い切り踏み込んだ。『キュアダイナマイト』号がすさまじい勢いで加速していく。強烈なGが二人に襲い掛かった。
「アイエエエエエエ!!!?」
「ちょっと我慢して……ください!」
 時速200㎞/hほどで走る『キュアダイナマイト』号。だがそれに並走する影があった。しかもその影は一つ、また一つと数を増やしていくではないか!
「くそ、振り切れないか!」
 恐るべき影の正体は……おお、神々もご照覧あれ! カラテウェアを身にまとい、ブラックベルトを腰に巻いたオオカミ、ヒグマ、イノシシ、モンキー、そして巨大ウサギどもであった! 
「こ、こいつらは、まさか……カラテアニマル!? 実在してやがったのか!」
「ゴアアアアア!!」
 恐るべき咆哮さけびとともに、カラテオオカミが『キュアダイナマイト』号に襲い掛かる!
「お、襲ってきたー!?」
「カラテアニマルたちは闘争本能の獣です。目に入ったものに片っ端からイクサを挑む、そういう生き物なんです!」
「なんだそれ、ヤバすぎんだろ!」
 アクズメはそう愚痴りながら、ショットガンを連射! カラテオオカミを細切れの肉片に変える!
「グワアアア!!」
 続けて恐るべき咆哮さけびとともに、カラテヒグマが『キュアダイナマイト』号に襲い掛かる!
「ファーーーーック! 勘弁しろよ!」
 アクズメはそう愚痴りながら、ショットガンを連射! カラテヒグマを細切れの肉片に変える!
「ブフーーーー!!」
 続けて恐るべき咆哮さけびとともに、カラテイノシシが『キュアダイナマイト』号に襲い掛かる!
「ファーーーーック! 勘弁しろよ!」
 アクズメはそう愚痴りながら、ショットガンを連射! カラテイノシシを細切れの肉片に変える!
「ウキャーーーー!!」
 続けて恐るべき咆哮さけびとともに、カラテモンキーが『キュアダイナマイト』号に襲い掛かる!
「ファーーーーック! 勘弁しろよ!」
 アクズメはそう愚痴りながら、ショットガンを連射! カラテモンキーを細切れの肉片に変える!
「おのれ、わが眷属をことごとく細切れの肉片にしてくれおって! 許せぬ!」
 カラテビッグウサギが両腕を複雑な軌道で動かし、ラビットカラテの構えをとった!
「うるせえ!」
 アクズメがショットガンを放つ! しかし!
「ウサーーーー!!!」
「なにー!?」
 恐るべきはラビットカラテ! アクズメが放った散弾は、そのすべてがカラテビッグウサギに受け止められてしまった!
「ウーサウサウサウサウサ(註:笑い声)! しょせんは牙も爪も持たぬ、か弱きヒト種よ! そんな道具に頼っているうちは、この俺様に傷の一つも付けられぬぞ!」
「では、これならどうですかね?」
 そう言ってタイラダが取り出したのは、漆黒の重心に禍々しいルーン文字が刻まれた一挺のショットガンだった。それを見たカラテビッグウサギの表情が、一瞬で凍り付く。
「ゲーッ!? そ、それはまさか、神話の時代に神のいかずちによって鍛えられたといわれる伝説のショットガン……『ヴスヒエフジニズョンダレェロ』では!?」
「へえ、たかが畜生の分際で、よく神器こいつを知っていましたね」
 タイラダはおもむろに『ヴスヒエフジニズョンダレェロ』をコッキングする。薬室に、神威を込めたスラグ弾が送り込まれる。
「や、やめ、ヤメロー!」
「やめません」
 引鉄がひかれる。カラテビッグウサギの眉間に吸い込まれるように命中した神威スラグ弾は、着弾の瞬間にすさまじいまでの熱と光を発し、巨大カラテ生物の肉体を分子レベルまで粉砕した。
「スゲエ……」
「やれやれ、とりあえずは一安心ですね……アクズメさん、そろそろ目的地、鏡山マウントミラー展望台に着きますよ」

「さあ、どうぞ。これが”真実の佐賀”です」
「おお……」

「青い海、青い空……なかなかいい眺めじゃねえか」
「そうでしょう。佐賀は確かに死と暴力と銃弾にまみれた土地ではありますが、決してそれだけではないということが分かってもらえましたか」
「おう、さっそく台湾に帰って、佐賀の本当の姿に基づいた小説を書くとするぜ」
「それは良かった」
 そう言って安堵の表情を浮かべたタイラダ。だが、海の向こうから漂ってきたおぞましき気配を感じ取り、その顔が一気に曇ってしまった。
「オイオイ……タイラダさん、この気配は一体何事だよ」
「なんてことだ……僕としたことがうっかりしていた……今日は星辰が恐るべきしるしを示す、10万年に一度の狂気の日じゃないか!」
 おお、おお! お読みの皆さんはどうか正気を保っていただきたい。どこまでも青く海の向こうより突如姿を現したのは、全高数十メートルはあろうかという巨体、汚らわしい粘液でぬらぬらと光るうろこ状の皮膚、そしてアンバランスなほど巨大な頭部、口にあたる部分からは無数の触手が……いや、よく見ればそれはおびただしい数のイール、イール、イールではないか!
 これぞSAGAの海にて眠りについていた恐るべき邪神「Cthu=eel=hu」! 星辰の導きにより、10万年ぶりに地上に姿を現したのである!
「ど、どうするんだよ」
「どうするって、それはもう……」
 タイラダは疲れた顔で『ヴスヒエフジニズョンダレェロ』をコッキングする。薬室に、神威を込めたスラグ弾が送り込まれる。
「やるしか、ないでしょう。アクズメさん、帰国する前に少しだけ手を貸してくれません?」
「しっかたねえなあ……高くつくぜ?」
「あのクソ邪神を討伐できたあかつきには、裏の外交ルートを通じて、プリキュア映画をみなみのくにでも日本と同じタイミングで上映するよう働きかけますんで、どうかそれで一つよろしくお願いします」
「お、マジか。じゃあアクズメさんがんばっちゃおうかなあ!」
 
 というわけで、アクズメさんお誕生日おめでとうございます。これからもどうぞよろしくお願いしますね。

【おわりです】

そんな…旦那悪いっすよアタシなんかに…え、「柄にもなく遠慮するな」ですって? エヘヘ、まあ、そうなんですがネェ…んじゃ、お言葉に甘えて遠慮なくっと…ヘヘ