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日経からスマートニュースに転職して立ちあげた「SlowNews」の話

2021年2月24日「SlowNews」というサービスをリリースしました。リリースから1ヶ月が経ち、おかげさまで様々な反響をいただいています。

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私自身、日経新聞社からスマートニュースに転職して、プロダクトマネージャーとしてこのプロジェクトに1年間どっぷりつかりました。

とりあえず少しだけ転職の話をします。今でも思いますが、日経はとてもいい会社で、レガシー企業でありながら新しい技術や手法をボトムアップで貪欲に取り込んでいく文化があります。私の知る限り、デジタル部隊には優秀で魅力的なメンバーが揃っていますし、編集局の熱い面々ともとても有意義な仕事をさせてもらいました。

一方で、プロダクトマネージャーとしての自分を考えた時に、異なるプロダクトで、異なる人たちとの仕事というものがもっと必要ではないかと感じていました。日経の中で生まれる課題を解決する手段、それに通じる経験やスキルを、自分は持っていないのではないかと感じることもありました。

スマートニュースには、国内外の企業で様々な経験を積んできた人が集まっていて、一人一人と話す中で、この人たちと一緒に仕事をすれば自分は大きく成長できるのではないかと思いました。

そして、もう一つ大きかったのは、ボスとなる瀬尾さんが感じていた社会的な課題感に強く共感できたことです。この課題解決に自分のスキルや経験が生かせるとも思いました。そして取り組んだのが、この度リリースした「SlowNews」でした。

今日はSlowNewsというサービスが何を解決するために作られ、どんな体験を提供しようとしているのかをご説明したいと思います。

"スローニュース"とは

スローニュースという言葉を聴き慣れない方も多いかと思います。ファストニュースの対極にあるもので、取材や制作に時間もコストもかかるニュースのことです。

今起きた事象に対して速報性を重視して、短く一方的な取材をもって作られるファストニュースに対し、過去に起こった事象、もしくは起こったことが知られていない事象について、長い時間とコストをかけて取材し、ユニークな視点をもって深く掘り下げて作られるスローニュース。

古くは、ベトナム戦争時のアメリカの機密文書を暴いたペンタゴンペーパーズや、日本では田中角栄の金脈問題、最近では森友問題などもスローニュースにあたるでしょう。

こういった国家の闇を暴くような調査報道コンテンツの他にも、もう少し身近というか等身大なスローニュースもあります。これがノンフィクションと呼ばれるジャンルです。

1冊だけご紹介させていただくとすれば、松本創さんの「軌道」という本があります。107名が亡くなったJR福知山線脱線事故。その本当の原因は運転手のミスなどではなく、JR西日本という組織が抱える欠陥なのではないかと考えた被害者遺族。その思いに呼応し動いたのは、なんと加害者であるJR西日本の新社長。事故後13年もの間、その戦いを取材して描かれるノンフィクションです。

事故が起きた時、もちろんニュースはたくさん流れ、事故の悲惨さや原因について伝える記事があふれていたと思います。しかしその後、被害者と加害者の間でどんなやりとりが起きていて、当事者たちがどのような思いで過ごしていたのかを伝える記事は多くありません。

個人的にも、あまりにもリアルな事故についての描写もですが、長らく成功してきた組織の風土を変えるという試みや、逆に組織側の意見や思いに触れて、大変学びが多かったです。

ノンフィクションというジャンルは、実はとても幅広く、こういった事故・事件だけでなく、経済やビジネス、科学、教育、歴史、スポーツ、エンターテイメントといった様々なカテゴリのノンフィクションが存在します。私の大好きな野球ものもあります。

私はこういった作品たちに触れるにつれ、「おもしろい。これはいける!」と思うようになりました。

"スローニュース"が抱える課題

さて、そんなスローニュースというコンテンツには今大きな課題があります。それはスローニュースが減ってきているということです。

スローニュースの担い手である紙の新聞や雑誌がどんどん読まれなくなり、取材や制作にコストがかかるスローニュースは作りづらくなりました。

せっかく作ったとしても長いコンテンツはあまり読まれません。日本人の約半分は月に1冊も本を読まないというデータもあります。一方で、ネット上には無料で読めるファストニュースで溢れかえっています。

スマートニュースが掲げるミッションは「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」です。もちろんファストニュースも必要な情報です。しかしスローニュースもれっきとした「良質な情報」なのです。

"スローニュース"が継続的に生まれるエコシステムを作る

私たちのゴールは、こういったスローニュースが継続的に生み出され続けるエコシステムを作ることです。

良質なスローニュースがたくさんのユーザーに消費され、収益の一部がジャーナリストや編集者にわたり、そこからまた新しいスローニュースが生まれる。このエコシステムを実現するためのサービスを作ろうと始まったのが、今回のプロジェクトでした。

"スローニュース"読み放題のサブスクサービス

私たちが作ったのは、一言でいえば、"スローニュース"が読み放題のサブスクサービスです。大きく二つのポイントがあります。

- ノンフィクションや調査報道コンテンツ”だけ”が集まっている。
- 広告モデルではなく、コンテンツに課金してもらう。

スローはどうしてもファストに埋もれてしまいます。数も多く、見出しだけサッと流し見するようなファストニュースとは、そもそもの体験が異なることもあり、スローはスローだけでまとまっている必要があると考えました。

そのかわり、本だろうが記事だろうが、出版社のものだろうが海外メディアのものなだろうが、あらゆる壁を越えて良質なコンテンツを集めるというのが大きな特徴です。その中には、SlowNewsが取材などの費用を支援して生まれたオリジナル連載もあります。

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また、広告モデルではなく、ユーザーにちゃんとコンテンツに価値を感じてもらい、ちゃんとコンテンツに課金してもらえる状態を作ることで、広告主の状況に影響されない独立したエコシステムが作れると考えました。独立性という意味では、スマートニュースからも独立した子会社として動いています。

読めばおもしろい。気づいてもらうにはどうしたらいいか

ノンフィクションがおもしろい!ということを私はよく知りませんでした。ボスに勧められるがまま読んでいってやっと知るようになりました。このおもしろさにどうやったら気づいてもらえるのか。どうやったら興味を持ってもらえるのか。

短い抜粋でひきつける

本の帯や書店のポップ、もしくは映画の予告篇などにヒントをもらいながら、いくつかの手段を検証した結果、辿り着いたのが「短い抜粋」でした。

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ノンフィクションには必ずといっていいほどインパクトを持つフレーズが出てきます。サマリーでも書評でもなく、このフレーズを抜粋した短文一発でリアリティが伝わり、興味を持ってもらえるのではないかと考えました。

作品のタイトルよりも抜粋を目立たせるような形で押し出したクリエイティブを作り、リリース前にFacebook広告やTwitter広告で配信してテストマーケティングをしたところ、クリック率もクリック単価も好成績をおさめました。

この結果を受けて、サービス内やOGImageに至るまで、抜粋を基本とした短いフレーズを押し出すようにしています。(テストマーケティングはターゲティング検証なども面白かったので詳しくはまたいつか)

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1日2つだけ作品をおすすめ

一方で、今まで触れてこなかった類のコンテンツをジャブジャブ浴びせられても疲れてしまいますよね。SlowNewsのトップページやメールマガジン、公式SNSでは、1日2つだけ、本当におすすめの作品だけを紹介しています。

スローニュースはコンテンツの特性上、時間が経っても色あせない、価値が減らないという性質があるので、あれもこれもと慌てずに、読めるときにゆっくり読んでもらいたいという思いもあります。

興味を持ってくれたら、読むハードルをとにかく下げる

興味を持って中に入ってくれたら、あとは読むためのハードルを可能な限り下げることを意識しています。

ブラウザさえあればすぐ読める

例えばSNSで本がシェアされた場合、普通ならamazonに遷移して、紙の本を買って届くのを待つか、Kindle版を買った後にKindleアプリを開いてコンテンツをダウンロードして...という操作が必要になります。

SlowNewsはアプリのインストールが不要で、ブラウザさえあれば、リンクをタップするだけですぐに本文を読み始めることができます。もちろんURLがあるので、気に入ったページをそのままシェアすることもできます。

本も記事と同じように横書きで読める

日本語の場合、本は縦書きであることが多いですが、横書き・ゴシック体で表示することをデフォルトとしました。普段Webの記事を読むのと同じ感覚で気軽に本も読んでもらいたいという狙いです。

もともと人間の視野角は横長であり、スマホなどの縦長の画面で縦書きのものを読むのは、視線の移動という意味でいうと効率が悪いという説もあります。もちろん好みによって縦書きや明朝で読むことも可能になっています。

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書籍のデータからこれらを実現するにはたくさんの壁がありましたが、コンテンツプロバイダーや著者の皆様のご理解とご尽力、そしてエンジニアの工夫や努力によって実現できました。

読み切りやすいサイズに分割

本などの長いコンテンツを、もとの本のページとは異なる単位で、1回で読み切りやすいサイズに分割しています。ものにもよりますが、時間にして10〜15分程度で読めるサイズにしています。

これにより、ブラウザでサクッと読めるという点と合わせて、長尺コンテンツのつまみ読みという体験が可能になっています。

この他にも、異なる作品でも見出しや引用のデザインスタイルを揃えてなるべく統一された読書体験ができるようにしたり、スマホでリズムよく読めるように、元の書籍にはない段落ごとの隙間を設けたりする工夫を行っています。

最後に

前職時代から常々感じていることは、私が触れ合ってきたコンテンツを作る人々はいつも"真っ直ぐ"だということです。価値のある情報、正しい情報を入手して分析し、形にするということに対して、プロとして極めて誠実に向き合い、時には激しく意見をぶつけ合い、毎日努力されています。

こうして作られたコンテンツには、必ず人を惹きつける力があり、価値があると思っています。縁あってメディア業界で生きているプロダクトマネージャーとして、コンテンツをプロダクトに載せてきちんとユーザーに届けることは使命だと思うようになりました。

動画や音声のコンテンツがネットを席巻する中で、これはテキストコンテンツのあくなき挑戦です。文字だからこそ体験できる世界を、ぜひSlowNewsで味わってみてください。30日間無料でお試しできますよっ!

最後の最後に

SlowNewsを作っているのは、スマートニュース創業期からのエンジニアだったりします。SlowNewsの開発に興味のあるエンジニアの方、ぜひご連絡ください!


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