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蛍と登山(23)synchronicity〜農鳥岳編


 先程、鮎に電話をかけた岩場までやって来た。

岩場と言っても、構造的には横に長い台形状の岩場だ。例えるなら、フィールドアスレチックの障害物のような感じだ。岩を登って降りて、を暫くの間繰り返す。沢登りや海岸の岩壁歩きに近いかもしれない。

最初、蛍の動きを見ていた。自分の身長以上の岩壁を越える事が出来ないようだった。岩の上部に手を掛けて、懸垂の要領で自分の体を持ち上げて行くのだが、それが出来なかった。仕方がないので、岩の上から蛍の手を引いて引きずり上げたり、腰を持ち上げたりしていた。

幅としては20m程度の岩塊だっただろうか、乗り越えた所で小休止した。

「私一人じゃ、ここは越えられなかったな・・」脱力感を滲ませていた。

「足腰だけじゃなくて、腕力もつけないといけないね。この岩場の事をすっかり忘れていたよ。盲点だったな・・」

「取り敢えず、腕立て伏せを筋トレメニューに追加します!」左手に水筒を持ったまま、右手で握り拳を作っていた。

「散歩に行く公園の鉄棒を使ったら?小学生の女子って、不思議と皆んな鉄棒得意だったよね?」

「逆上がり、今でも出来るかな?」 下を向いて、腰の辺りを叩いている。

「そうか、子供の頃よりも腰回りが発育したから、やって見ないと分からないか・・」

実際、腰を持ち上げると重かった。そのくせ、”あの時”は乗っけても軽く感じるのは何故なんだろう?

「重かった?」

「ちょっとね。でも仕方が無いよ、削って小さく出来るモノでもないし。だから、腕力とか背筋力でカバーするしかないのかもしれないね」

「そうか、背筋力ね。背筋も追加しよう!」また、握り拳をしていた。

「先の話だけど、北アルプスを考えたら、この位は最低でも越えられるようにしないとダメかもしれない」

「そうよ。二人の赤ちゃんを抱っこしなくちゃいけないんだから、これじゃダメだわ」

「2人?」

「そう、ホタルとアユム。大きくなればなるほど、重くなるし・・」

「そうか、もし2人もいたなら、別に筋トレしなくてもいいかもね。1人でも十分大変なんだろうけどさ。確かに、勝手にいろんな筋肉が強化されるかもね・・でも、なんで2人共、男の子って思ったの?」

蛍がアユムと言ったのが気になったので、触れた。

「昨日の夢なんだけど、母と2人で入浴していた夢を見たの。赤ちゃん2人と一緒にね。どっちにの子にもカワイイおちんちんがツイてるの」

「おちんちんって・・・」 ・・さっきも鮎が言ってたぞ。

「何を驚いてるの?」

「いや、ほら2人とも男の子っていうから驚いちゃって」 鮎に電話したことを伝えた方がいいのか、悩んでいた。

「そうよね、片方が女の子でもいいのにね」 珍しく、蛍の笑い方に含みがあった。 

時々、この母娘はシャーマンみたいな素質があるのではないか?と睨んでいた。母娘間では、会話もしていないのにお互いで作業が進んでいくことが多々あるからだ。家での事で例を挙げると、調理をしている時やマッサージをしている時にそう思う。話もせずに役割が分担されて、粛々と進んでいる事がある。それに2人共、卑弥呼や縄文時代に強い関心を持っているし・・

「実はさっき、ここで、お母さんに電話したんだ」

「そうだったの・・」

「蛍をお願いしますって言われて、目が覚めたんだ。戻らなきゃって」

「ああ、それでかぁ〜」

「なに?」 

「う〜んとね、ちょっと説明しづらいんだけど、あそこで泣いてたら、母の笑顔が浮かんだの。大丈夫よって、言われたような気がして」

「何、それ?」 とても驚いた。 体を蛍の方に向けた。

「今日みたいに困った時にね、時々あるの。そうね最近だと、母と渋谷で待合せだったんだけど、私が道に迷って知らない所に出ちゃって、今日と同じように「どうしよう〜」って悩んでいたの。コッチだよって、言われた気がしてズンズン歩いて行ったら、そこで母に遭遇したの。ニコニコ迎えてくれたから、やっぱりねって。まぁ、その程度の話なんだけど・・」

テレパシーのようなものなのだろうか?その程度と言われても、十分衝撃だった。

「あ、あのさ、料理中に2人の会話がほとんど無いじゃない?世間話は別として、なんで料理の役割分担が無言で出来るのさ?料理はいつも違うのに、だよ。僕と作ってる時は、ああして、次はこうしてって指示が出るじゃないか、2人共」

「そう、気づいてたのね・・・あのね、これは初めてお話するんだけど。ちょっと理解出来ないかもしれないけれど・・」

蛍が目を閉じて、話しだした。

「・・震災の時、揺れが終わった後で母と私で顔を見合わせて、抱き合って泣いていた。私達、2人共、直感的に父が亡くなった事を感じていたの」

「そんな・・」

「それが、一番不思議な体験だったかな・・・でも、渋谷の迷子みたいな事は結構あるの。子供の頃は一人で居ても、母と繋がってた感覚があったから、鍵っ子していても、実はあまり寂しくなかったのかもしれない。何かに包まれているような感じがしていて。
夕方は母がそこまで帰って来てるのが分かったら、玄関前で「おかえりなさい」って出迎えたりしてね・・

母からは、学校でお友達に言ってはイケマセンって言われてた。気味が悪いって思われるだけだから」

「そんな事って・・」 ・・一体なんなんだ、この母娘は。

「あなたとお会いしたときも私達はスムーズな連携が取れたのよ」

「連携?」 背筋が寒くなってきた

「とにかく捕まえなさい! 母上、分かりました!って」

「捕まっちゃった後は・・?」

「2人でガッツポーズよ。ミッションコンプリートって感じ」

「何それ・・ゲームじゃないんだからさ・・」

「黙っててごめんなさい。だから、母の事もお願いしますって言ったでしょう?母の気持ちも何となく分かっていたから。こんな母娘を相手に出来る人はあなたしか居ない・・」

「あのさ、この話を僕にしなさいって、お母さんに言われてたの?」兎に角、焦っていた。心臓が波打っていた。

「うん、出発前にね。きっと、あなたはきっと薄々分かってるだろうからって。ほら、2人で料理中とか、あなたに監視されてるような節があったから」

「お父さんも知ってたんだよね?」

「父は偶々だろうって、よく言ってたわ。半信半疑だったかもしれない。ほら、父はあなたみたいに料理もしなかったから。私達も敢えて説明をしなかったというのもあるけど・・」

「あのさ、・・僕が考えてる事って2人には分かるのかな?」

これは一番聞いておきたい話だ。場合によっては一緒に暮らすことなんて出来ないかもしれない・・

「そんなエスパーじゃないんだから、流石にそれは分からないわ。あ、そうか、話を聞いて心配になったのね。あのね、あなたは正直な人だから嘘をつく時は仕草で分かるの。気味悪く思わないでね、あくまでもこれは私と母だけのものだから安心して下さい・・」

「じゃあさ、八ヶ岳の時、お母さんと僕の関係が出来た事はどうして分からなかったの?」  素朴な疑問として思った。

「それは、母があなたに対する想いの部分を”開放”していなかったから。私達は”開放”って呼んでるけど、例えば、あなたと寝ました 的な話はね、お互いに分からないの」

「そういうプライバシーは保てるんだ・・じゃあさ、赤ちゃんが男の子って話は?」

「母も同じような夢を見たんじゃないかな・・・」

そんな目で見ないでくれ、怖い、怖すぎる!「もう勘弁してよ・・」と頭を抱えた。どうやら以心伝心だけじゃなさそうだ・・蛍が肩に手を当てたので、ビクッと一瞬身を引いた。それを察したのか、ポンポンと二度程、肩を叩かれた。

「うちの子は男の子ばかりになるわ。多分、私が一人だけ女の子を産むと思うけど、その子が私達と同じようになるかどうかは分からない。ただ、母と祖母もそうだったから、同じような関係になるかもしれない」

「同じような関係って・・」ずっと混乱したままだった。

「私は男の子の事がよく分からないんだけど、幼稚園や小学校で同級生を見ていて、男の子って大変だなって思ってたから・・そこはパパに、お願いね」

「ねぇ、君たち母娘には未来が分かるの?」 意を決して聞いた。

「いいえ、そんな事は無理。絶対に分からない。家族の近未来を夢で見る位ね。震災の前は、母と2人暮らしになる夢を見た。それがどんな意味なのか、震災当日まで全く分からなかった・・
それと、あなたと再会した前夜は、ほたるいかミュージアムに行く夢を見ていた。やっぱり何がそこで起きるかまでは分からなかったけど・・」

”開いた口が塞がらない”という言葉を実感したのは、生まれて初めての事だ。暫くの間ポカンと、笑顔を浮かべる蛍を見ていたら、もう一つ大事な事を思い出した。

「やっぱり、3人でするのは止めにしよう・・」 全く予想が出来なかったからだ。

「あら、男には二言はないものなんでしょう? きっと喜んでもらえると思うわよ」笑顔のまま 蛍が立ち上がり、私の手を取って引き起こした。

「お・た・の・し・み・に!」と、私の鼻を人差し指でプニュっと押した。

そんな事言われても、全く想像が出来ない。頭の中がパニック状態になっていた。  

・・そうだよ。AV でさえ、そんなの見た事無いぞ・・ 


(つづく)


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taizan

単なるサラリーマンです。 思いつくまま、日常の出来事を書いていこう、と思います。
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