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南の島、ある少女のお話


いつの事でしょう、
南の小さな島に一人の少女が生まれました。
肌の色や顔立ちから、
どうやらミクロネシアかポリネシアのどこかの島のようです。
少女の父はこの島の実力者で、彼女はこの島のお姫様。
この家に子供は一人きり、彼女はとても大切に育てられました。
父はこの少女に守役の青年を一人付けます。
その青年はこの島一番の力持ち。
太っちょで小山のような体格に、顔は人なつっこい童顔。
どんぐりのような真ん丸な瞳で、いつも少しだけ微笑んでいます。

彼は寡黙で、いつもあの
どんぐりのような瞳でまっすぐに彼女を見つめてきます。

少女が小さな船で海に出て
船がひっくり返っておぼれかけた時も、
彼がいの一番に駆け付け彼女を助けました。
そうして、彼はどんな時も彼女を守り続けました。

少女もやがて年頃になり恋をします。
あの、どんぐりのような瞳の逞しい青年にです。
いいえ、少女はずっと以前から青年に恋をしていたのです。

彼女の気持ちは彼にも伝わっていたと思います。
でも、彼はそれにこたえることなく
いつもあのまっすぐな瞳で微笑み返すだけです。

そのうち、この少女に縁談話が持ち上がります。
相手はこの付近一帯で、一番大きな島の族長の息子です。
彼女に拒否する自由はありません。
彼女は大きな島へと嫁いでいきました。

彼女は夫となった男を愛し、
子宝にも恵まれ、沢山の子を儲けます。

年を取り、最愛の夫は先立ちましたが
沢山の子や孫に囲まれ、
愛に満ちたとても素晴らしい人生を送りました。
彼女はこの人生に一片の悔いもありません。

彼女の寿命ももう間もなく。
死の間際、彼女の脳裏に浮かびます。

あの、
どんぐりのような、まっすぐな瞳。

微かに微笑んでいる。

あの、
星をちりばめた様な
あまりにも美しい瞳が、

まっすぐに、

少女をみつめて。

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