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2023年4月上半月の体操ニュース

4月に入りました。
国内ではいよいよ今週から全日本選手権・そして世界選手権の代表選考が始まります。
日本選手がパリ五輪に向けてどのように演技を作ってきているのかを楽しみに待つこの間にも、世界では大きな大会・大きなニュースが目白押しでした。
そこで若き日本代表が歴史的快挙を成し遂げています。
4月上半月のニュースです。


▼世界ジュニア 日本が団体アベック優勝

トルコのアンタルヤにて第2回ジュニア世界選手権が開催されました。
前回大会は2019年にハンガリーのギヨルで開催。日本からは北園丈琉選手や土井陵輔選手、宮田笙子選手などが参加していました。
本来は2年に一度開催という事で始まったのですが、2021年は五輪の延期やコロナの影響で開催されず。今年2023年が第2回という事になりました。

日本代表は、男子は谷田雅治、角皆友晴、神山遥人
女子は山口幸空、水野壬華、中村遥香

個人総合・種目別の予選として出場者全員が演技を行い、団体決勝を兼ねていました。
団体はチーム3人が全員演技をし、うち各種目上位2人の得点が団体の得点に反映される仕組み。
その団体では日本がアベック優勝の快挙!男子は前回大会から2連覇達成です!

FIGも団体の結果を称えています。

FIG:アジア勢が支配 日本男子が世界ジュニアのチームチャンピオンに返り咲く
FIG:日本女子が世界ジュニアの団体チャンピオンに!


個人総合決勝では日本女子がワンツーフィニッシュという快挙!

FIGによるライブ配信のアーカイブが残っています。
しばらくすると消されるかもしれないので見たい方はお早めに。

男女個人総合の結果についてもFIGが記事を投稿しています。

FIG:秦と中村がアンタルヤで世界総合のタイトルを獲得


男子種目別決勝では、日本の角皆友晴選手が平行棒と鉄棒で金メダル。2冠に輝きました。谷田雅治選手は4種目で決勝に残り、つり輪で銀メダルを獲得しています。
ほか、個人総合銀メダリストのコロンビア アンヘル・バラハスがゆかと平行棒で2冠(平行棒はバラハスと角皆が同率1位)。
アルメニアの15歳ハムレット・マヌキアンがあん馬とつり輪で2冠と、種目別だけで3人の選手が2冠達成という興味深い結果となりました。

女子種目別決勝は全体的に大過失が目立ちましたがイタリアが強さを見せました。イタリア女子は種目別平均台以外すべての競技でメダル獲得。種目別では2種目で記念樽を獲得しています。
男子で南米からアンヘル・バラハスが活躍する一方、女子も南米から種目別跳馬でアルゼンチンのマイナルディが金メダルを獲得するサプライズも。
日本勢は種目別ゆかで中村遥香選手が銅メダルを獲得しています。

種目別は2日に分けて行われ、両日ともFIGのライブのアーカイブが残っています。
こちらもしばらくすると消されるかもしれないので見たい方はお早めに。

1日目:男子ゆか、女子跳馬、男子あん馬、女子段違い平行棒、男子つり輪

2日目:男子跳馬、女子平均台、男子平行棒、女子ゆか、男子鉄棒

種目別の結果についてもFIGが記事を投稿しています。
FIG:マヌキアンが2つの金メダルを獲得(1日目)
FIG:日本、イタリアが2冠達成!(2日目)


また、今大会の予選の全選手の演技がFIG公式チャンネルで再生リストとして作られています。全部で1500本ほどありますが、見たい選手がいれば名前を検索するとこの中の動画がヒットします。

個人的に素晴らしいと思った演技をひとつ。
谷田雅治選手の鉄棒です。
コールマン・コバチの雄大さに加え、着地もピタリ。

種目別鉄棒では落下があり、メダル獲得はなりませんでしたが、団体金メダルに大きく貢献した演技でした。

▼G7サミットに先駆けて各国体操選手を広島に招待

2023年5月19日~21日にかけて、広島県広島市でG7サミットが開催されます。今年は日本がG7議長国を務め、国際社会の諸問題について意見交換をする予定です。
それに先駆け、4月26日~30日に広島県内で「G7 Gymnastics Hiroshima」なるイベントを開催するそうです。

FIG:G7各国の体操選手が広島に平和のメッセージを届ける

日本体操協会:G7 Gymnastics Hiroshima開催について

このイベントでは、G7各国の体操選手を広島に招待し、平和記念公園での献花、地元の子供たちとの交流、演技披露の場もあるそうです。
FIGの記事と体操協会のページ内にある事業概要を見ると、各国からの参加者の名前を確認できます。

※体操協会HP「G7 Gymnastics Hiroshima開催について」事業内容から

日本からは内村航平さんと村上茉愛さん。先日引退したばかりのドイツのニューエンや、現役世界チャンピオン、イギリスのジャーニー・レジニ・モランも参加する予定です。
体操だけでなく、新体操からも参加予定。華やかなイベントになりそうです。


▼渡辺会長がウクライナ訪問

FIG渡辺守成会長がウクライナを訪問し、ウクライナの大統領府長官やスポーツ大臣と会談しました。

FIG:渡辺会長のウクライナ訪問に関する声明

inside the games:渡辺氏はウクライナ訪問後、ゼレンスキー氏に「会長としての立場を理解してほしい」と要請

今回の渡辺会長のウクライナ訪問は新体操選手だったアルビナ・デリウギナ氏の逝去に伴うの葬儀のためでした。
IOC委員でもある渡辺会長のウクライナ訪問を機に、緊急で会談が催されることになり、そこにはウクライナの大統領府長官アンドリィ・イェルマク氏とスポーツ大臣のヴァディム・グツァイト氏も出席しました。

ウクライナ側は渡辺会長に対し、ウクライナの侵略にためにロシアとベラルーシのアスリートがパリ五輪での競技を禁止されることを確実にするために渡辺会長の影響力を利用するよう求めたといいます。

以下はそれに対する渡辺会長の言葉です。

ゼレンスキー大統領は、ウクライナの人々を家族のように守っている。私は世界中の体操選手を家族のように守っています。だからこそ、私はウクライナの体操選手を応援し、戦争に巻き込まれていないロシアやベラルーシの体操選手が大会に参加する権利を守っているのです。

私はゼレンスキー会長の立場を理解し尊重し、ウクライナ政府にも国際連盟会長としての私の立場を同じように理解してもらうようお願いします。

FIG:渡辺会長のウクライナ訪問に関する声明

渡辺会長はロシア勢が国際大会から排除され始めた時から選手に罪はないと復帰する案を模索していました。

一方、ウクライナのスポーツ大臣グツァイト氏は、ロシアとベラルーシがパリオリンピック・パラリンピックへの出場を禁止を信念として戦い続けている一人です。


▼渡辺会長が5月にロシア選手の復帰を決定へ

FIG渡辺会長が5月の理事会でロシア選手の復帰を決定するとの報道です。

時事ドットコム:渡辺会長 ロシア勢復帰 5月決定へ

条件として「中立」であることを挙げ、侵略を支持する旨の意思を示さないことで国際大会への参加を認める方針だそうです。
IOCは同じく中立の選手の大会出場を認める方針を検討中ですが、軍所属の選手の出場は認めていません。しかし、渡辺会長もといFIGは、「クラブが軍関係だったとして、侵攻に関わっていない選手に罪はあるのか」と、IOCの主張とは切り離されたものだと考えているようです。


わざわざ証拠を載せることはしませんが、すでにロシア選手のほとんどはSNSで侵略を支持しています。さらに軍に連名でドローンを寄付するなどしています。
仮にこの処置が施されたとしてもそれを理由に国際大会に参加する(できる)選手はいないのではないでしょうか。仮に出場が認められた選手がいたとして、侵略を支持していないとする証明はどのように行うのでしょうか。

疑問が残りますが、ひとまず5月の決定を待ちます。


▼ヨーロッパ選手権 イタリア男子が団体優勝!

4月11日~16日にかけてトルコ・アンタルヤでヨーロッパ選手権が行われました。
ジュニア世界選手権と同じ都市ですね。

来年2024年にはパリ五輪が開催されます。
今年ベルギー・アントワープで開催される世界選手権は、パリ五輪に出場するための予選も兼ねています。世界選手権で中国・日本・イギリスを除く団体上位9位以内に入れば、その国はパリ五輪団体出場権を獲得することが出来ます。
このヨーロッパ選手権は、その世界選手権に団体で出場する権利を得るためのさらに予選という扱いになっています。

ヨーロッパ地域ではこの大会がそれに該当しますが、アジア地域はアジア選手権、南北アメリカ地域はパンアメリカ選手権、オセアニア地域はオセアニア選手権、アフリカ地域はアフリカ選手権がそれぞれ該当するわけです。
それらに先駆けて開催されたのがこのヨーロッパ選手権。

今回のヨーロッパ選手権の試合運びはジュニア世界選手権と同様、個人総合・種目別の予選が団体決勝を兼ねるというシステムで、大会初日の4月11日には男子の、翌日の12日には女子の団体の順位が出ています。

大会のすべての結果はこちらから見ることが出来ます。

【団体】

また、ヨーロッパから世界選手権への団体出場権を得られる枠は男女ともに13カ国という事で、既に決まっていた国も含め男子はイタリア、トルコ、イギリス、スイス、ドイツ、スペイン、フランス、ベルギー、ウクライナ、ハンガリー、ルーマニア、オランダ、イスラエル

女子はイギリス、イタリア、オランダ、ハンガリー、ルーマニア、フランス、ベルギー、スペイン、ドイツ、スウェーデン、フィンランド、オーストリア、チェコ

以上の国が世界選手権の団体出場権を得られたことになります。
ほかの地域に割り当てられた団体枠は、男子はアジア5枠、オセアニア1枠、南北アメリカ4枠、アフリカ1枠。
女子はアジア4枠、オセアニア1枠、南北アメリカ5枠、アフリカ1枠となっています。
男女とも、世界選手権には24カ国の団体が出場でき、その中から最終的にオリンピックに団体で出られるのは12カ国というわけです。
このヨーロッパ選手権は予選のまた予選だったという事になりますね。

イタリア男子は史上初のヨーロッパ選手権優勝らしいです。去年のヨーロッパ選手権・世界選手権と強国イギリスのひとつ下の順位に甘んじていましたが、見事イギリスを上回っての優勝という事になりました。
イタリアは東京オリンピックの団体出場をあと1歩のところで逃した悔しさがあるので、今回こそは団体権を獲得してほしいものです。


【個人総合】

男子はトルコのアデム・アジルが初の個人総合制覇。自国開催のヨーロッパ選手権で歴史的な優勝を勝ち取りました。
3位のコフトゥンはあん馬・跳馬でミスがありましたが、平行棒・鉄棒で怒涛の追い上げを見せて見事表彰台に乗りました。

女子は団体に続いてイギリスの若手ジェシカ・ガディロワがチャンピオンになりました。
ガディロワは双子の姉妹ジェニファー・ガディロワがおり、東京オリンピック、2022年の世界選手権ともに双子で出場しており、団体メダルを勝ち取っています。

3位のアリス・ダマートもまた双子の片葉です。双子の姉妹アジア・ダマートはイタリア女子のエースで、昨年のヨーロッパ選手権個人総合チャンピオン。しかし、その後の種目別跳馬決勝で怪我をして世界選手権を欠場せざるを得ませんでした。
こちらも東京オリンピックに双子で出場しており、こちらも双子で出場した2019年の世界選手権では団体銅メダルを獲得しています。


【種目別】
《男子》

男子はイギリスのホワイトハウスがゆかで初優勝。ここ最近のイギリスはゆかと跳馬の強さが際立ちますが、そのゆか職人のひとりであるホワイトハウスが初のヨーロッパチャンピオンに。イギリスのゆかといえば、昨年ジェイク・ジャーマンが大ブレイクしましたが、まだまだ強い選手がいることを知らしめました。

あん馬は昨年の世界チャンピオンであるリース・マクレナガンが優勝。前半に小さなミスはあれど、高いDスコアと後半の立て直しで見事高得点をキープして勝ち抜きました。
2位にはベルギーのマキシム・ゲンゲスがサプライズ表彰台。1位のリースと0.100差という歴史に残る結果を残しました。

個人総合を制覇したアデム・アジルがつり輪でも制覇。長らくヨーロッパチャンピオンだったギリシャのペトロウニアスを下しました。
昨年、世界チャンピオンになったアデムですが、その時はペトロウニアスは出場しておらず。昨年のヨーロッパ選手権ではアデムはペトロウニアスにわずかな差で負けていました。アデムは今回初めてペトロウニアスに勝った形になります。

跳馬は現役世界チャンピオン、アルメニアのアルトゥール・ダフチャンが圧巻の優勝。前回大会で優勝を許したイギリスのジェイク・ジャーマンにリベンジを果たしました。

平行棒はウクライナのイリア・コフトゥンが優勝。
W杯では無類の強さを誇っているコフトゥンですが、これまで大陸規模・世界規模の大会での優勝経験はありませんでした。
3位にはスペインの若手、ティエルノ・ディアロが入っています。近頃スペイン勢の個人での活躍が目立ち始めています。ティエルノはあん馬も得意なのであん馬でのあん馬での活躍も期待したいです。

鉄棒は東京五輪銀メダリスト、クロアチアのテン・スルビッチが予選トップのカルロ・マッキーニをわずかに上回り優勝。カッシーナを入れて難度を上げ、大きく攻めたカルロを、堅実な演技のスルビッチが下した形になりました。

《女子》

女子跳馬ではフランスのコリーヌが優勝。華麗なチュソビチナを見事に決めました。
2位にはイタリアのダマート姉妹の片葉、アジア・ダマートが入りました。昨年のヨーロッパ選手権の種目別跳馬で怪我を負って、長期離脱せざるを得なかったのですが、見事メダル獲得。

段違い平行棒ではアリス・ダマートが優勝。ダマート姉妹、強い。
2位に入ったのはイギリスのレベッカ・ダウニー。長らく代表および競技から離れていましたが、華々しく帰ってきました。

平均台ではリオ五輪金メダリストのサネ・ウィーバーズが久々の表舞台で見事優勝!
実はサネも双子の姉妹がおり、リオ五輪では共にオランダチームとして戦いました。
今大会3組目の双子です。リーケは今大会には出場していません。

ゆかはジェシカ・ガディロワとアリス・キンセラのイギリス勢ワンツーフィニッシュで締めくくりました。今大会イギリス女子の強さを最終種目で見せつける形になりましたね。


▼新技認定

FIGからの通達で、ジュニア世界選手権で未発表技が実施され、それらに新しく名前が付けられた事が発表されました。

FIG:「ナカムラ」「ドリゼ」 新技に命名

新しく名前が付いたのは、女子段違い平行棒の「懸垂前振り1/2ひねり前方屈身宙返り高棒懸垂」というD難度で認定された技。いわば「屈身デルチェフ」です。
こちらは日本の中村遥香選手が実施し、「ナカムラ」の名がつけられました。
「ギンガー」と動きが似ている技ですが、ギンガーは「後方屈身宙返り1/2ひねり懸垂」なのに対し、「ナカムラ」は「前振り1/2ひねり前方屈身宙返り懸垂」になります。

ナカムラは宙返りを仕掛ける前にすでに1/2ひねって前方宙返りをしています。

こちらがギンガー。
ギンガーは宙返りをしながら1/2ひねっています。
ひねるタイミングの違いですね。

そういえば、男子の鉄棒では屈身デルチェフは難度表に載っていませんね。
もし男子で実施例が出たら名前が付くのでしょうか。


もうひとつ名前が付いたのは男子あん馬の「両把手支持から、一把手上で270°ロシアン転向を経て90°転向倒立おり」とでも言いましょうか。日本語訳が曖昧で申し訳ございません。それくらい複雑な技です。

こちらはジョージアのダチ・ドリゼという選手が実施し、「ドリゼ」の名前が付けられました。

実際の実施は270°ひねり3/3部分移動を伴うものでしたが、倒立への上げ方に対してのみ名前が付けられました。
なので実際に彼が行った技は「ドリゼ倒立270°ひねり3/3部分移動おり」というE難度の技になります。

下向き転向(ロシアン転向)から倒立へ持ち込む技は「ペレリン」という技がありますが、そこから着想を得たのでしょうか。そもそもこの技を新技と意識して実施していたのかも分かりません。

こちらが「ペレリン」


【画像出典】
https://www.oasport.it/2023/04/ginnastica-artistica-la-leggenda-dei-cinque-moschettieri-italia-in-paradiso-campioni-deuropa-per-leternita/
https://www.insidethegames.biz/articles/1135627/watanabe-zelenskyy-gymnastics
https://www.europeangymnastics.com/news/adem-asil-secures-historic-home-victory-antalya2023
https://www.europeangymnastics.com/news/new-queen-europe-jessica-gadirova
https://www.instagram.com/p/CqYmhBbIK4n/?utm_source=ig_web_copy_link
https://www.instagram.com/p/CqbRILaoL6_/?utm_source=ig_web_copy_link
https://youtu.be/r0RMbiF3bFA

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