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2017年11月24日の青木真也。あるいはおれたちに明日はある。

『おれたちはみんなドブの中にいる。だけどそこから星を見上げてるやつもいるんだ』オスカー・ワイルド

シンガポールに行って来ました。盟友の総合格闘家、青木真也選手の応援に。同じく友人の編集者、箕輪さんと。

同い年で、同じ早稲田大学に通っていた青木選手。今年のはじめに、中川淳一郎師匠の紹介で仲良くなって、友人付き合いをさせてもらってる。対談もした。だけどぼくは大学生の頃から、ずっと青木真也のファンだった。クリエイティブな寝技。試合を通じて世間をザワつかせる気構え。10年以上、一方的に彼から勇気をもらい続けてきた。背中を押してもらってきた。無鉄砲で、生意気で、繊細でメンヘラ気味な、同い年のヒーロー。今回、青木選手がシンガポールの総合格闘技イベントONE FCで、一階級上の無敗のチャンピオンとのタイトルマッチに挑む。笑っちゃうくらい無謀で真剣な挑戦。見届けないといけないと思った。

シンガポールで試合前日に合流。青木選手は思っていたよりずっと落ち着いていて、みんなでシンガポールご飯を食べた。カニのスープ春雨やコーヒーポークなど。応援に来たぼくの方が緊張しているくらい。それでも青木選手よりもセコンドの宇野さんよりも、ぼくの方がたくさんお代わりした。申し訳ない。ただのファンなのに1人だけヘビー級だもんな。

高田や桜庭、田村、藤田といったレジェンドのエピソードを宇野さんと青木選手からたくさん聞いてたくさん笑った。プロレスラーはやっぱりすごい。

翌日、青木選手が試合会場入りする前に軽く挨拶した。握手は力強く、目線は鋭い。何かを成し遂げる男の顔をしていた。「青木真也のことだけ、見ていてください」そう言ってぼくの友達は格闘家だけしか乗れない、会場へ向かうバスに乗り込んでいった。

3.4時間ほど時間をつぶして(箕輪さんは公園で髪を切り、ぼくはホテルのエステでマッサージ)アジア最大の格闘技プロモーションONEの会場へ。思っていたよりも広く、熱が満ちていた。演出はめちゃめちゃPRIDEに似ている。

青木選手のタイトルマッチはメインイベント。煽り映像で『生きることは辛いこと。だけど、自分にしかできないことを成し遂げて、自分の物語を完成させる』と、しゃがれた声で語っていた。もう、それだけで涙腺がゆるむよ、クソッ。

そして、シンガポールのナショナルスタジアムに名曲バカサバイバーが流れる。「生き残れ!勝ち残れ!」よく知ってる日本語が響き渡るなか、花道に青木選手が現れる。パンツのケツにはGOの二文字。険しいのに、何か泣きそうに見える。青木真也の試合前のいつもの表情。早足で金網に向かう。ぼくは青木真也の名前を何度も叫び、バカサバイバーのサビをがなりたてる。青木選手がリングに上がる頃には、ぼくの声はかれていた。

そして、青木選手よりもはるかに厚みのある身体のチャンピオンが、現れる。データでは体重は10kg違うということだったけど、もっともっと差がある感じがした。余裕の笑顔でゆっくりと入場する。

試合はそんなに長い時間はかからなかった。瞬きしたら終わってしまうんじゃないかと思うくらい。青木選手が跳びついて寝技に引き込んだところを、チャンピオンのパウンドで地面に押し付けられた。何度も何度も拳が青木選手の側頭部に叩きつけられた。重い。ゴツゴツと音が聞こえそうなほど。果たしてゴングは鳴った。

青木選手の完敗。ただのファンだった時のぼくなら試合を止めるのが早すぎると、レフェリーにブーイングの一つもしただろう。でも、青木真也の友人でもあるぼくは少しだけ安心していた。彼が無事に自分の足で立ち上がったから。チャンピオンの勝ち名乗りを涙目で見上げている青木選手に手が痛くなるほどの拍手を送った。

試合後、箕輪さんと『これからどうする?』なんて、今夜のことか、明日以降のことか、人生のことか、何についてかわからないような話をしながらシンガポールのスタジアムから歩いて歩いて遠ざかっていった。目的地はなかった。『編集者とかクリエイターとか、お互い楽な仕事だよな』なんてことをそれぞれ言い合った。

青木選手からLINEがきて、ご飯を食べることになった。彼はサッパリした顔で『ありがとう。やられちゃったよ。』と言った。そのあとは、通りすがりの韓国料理屋で、試合の話を少しだけ。ほかには早稲田大学の話とか、シンガポールのグランドハイアットホテルの地下のバーの秘密とか、シンガポールのマッサージ店の裏のシステムとか、ぼくが結婚できない理由とか、なんかもう本当にくだらない話をした。ぼくは韓国弁当と辛いラーメンとサムギョプサルを食べて、青木さんと箕輪さんから食べ過ぎだと言われた。楽しかったな。

かつて矢沢永吉が『ライブってのはね、音楽を聴きにくるだけじゃないんです。ミュージシャンという、命を賭けてる男を見届けに来るんです』とか、そんなことを言っていた。

格闘技も同じだ。ぼくたちファンは残酷で、格闘家という、選ばれた人間たちが、運命に立ち向かうところが見たいのだ。リスクを背負っている姿を見たいのだ。みじめに敗れ去り、それでも立ち上がる生き様が見たいのだ。自分ができないことをやってほしいのだ。

青木真也は、たしかにこの試合には負けた。だが、その夜、彼は薄汚い韓国料理屋で、しょうもない友達を前に『これからどうしようかね』と笑顔でつぶやいた。生きている限り立ち向かう。物語は続いていく。その結末が勝利か敗北か、決めるのは誰でもないだろう。人生山あり谷ありモハメドアリ。うるせえ外野はうんこ食ってろ。

遠く離れたシンガポールの土地で、青木真也は責任を果たした。バカサバイバーを叫び、はるかに大きな王者に命を賭けて立ち向かった。次はぼくたちが責任を果たす番だ。命は賭けられない。だけど、覚悟のバトンを引き継いで、自分の生きる金網に向かっていく。それくらいしかできないんだから、それくらいは、やらなくちゃ。

さぁ、生き残っていこーぜ。

よじ登って。金使って。金稼いで。

バカサバイバー、成り上がれ。

青木選手、お疲れ様でした。がんばる理由をくれて、ありがとうございます。

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