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あの頃憧れていたオッサンに

小さい時から憧れていたこと。

それは仕事帰りに、カウンターしかない小さな居酒屋で
1人でお酒を呑むこと。
いわゆる「1人酒」というやつだ。

私はお酒が大好きだ。それだけでなくて、お酒のアテ、そして居酒屋の雰囲気が
堪らなく好きなのだ。

学生時代にお酒を覚えて、社会人になってからは健康診断の前日以外は
基本的に毎日のように、仕事が終わればお酒を呑んできた。

でも、どうしても中々出来なかった事が、1人で居酒屋に入るという事。
これまでに何度か1人で居酒屋に入った事はある。

でも、なんか落ち着かなくて、1人で飲んでいる自分が浮いているのが分かって
1人呑みがしっくりこなかった。

周りには40〜50代あたりのスーツを着た大人が1人でお酒を楽しんでいる。

ごく自然で、「ただ1人で酒を呑んでいる」だけなのに、やけにサマになっている姿をみて羨ましく感じていた。

どうやったら、あんな風に自然体にお酒を呑めるようになるんだろう。
そう、本気で考えていた時期もあったくらいだ。

話は少し変わるが、1年程前に社内の人事異動があり
私は約15年近くいた現場から本社への異動となった。

現場の時は制服が支給されていて、出勤時の服装は私服でOK。

これまで社会人として仕事でスーツを着る機会はほとんどなかった。

それが本社異動となり、毎日スーツを着用することになり、毎日スーツを着れるのが嬉しかったりもした。40代を目前にして、ようやく社会人らしくなったような新鮮な感覚だった。

職場も市街地にあって、仕事の帰り道には魅力ある呑み屋が山のように
存在している。

今の自分なら仕事帰りの1人呑みがしっくり来るかもしれない。

そう思って、ある日仕事帰りに気になっていた、カウンターだけの
小さな居酒屋に1人で入ってみることにした。

周りを見渡すと、私と同じようなスーツを着たサラリーマンが1人で
お酒を呑んでいる。

その中に自分が入って、周りからどう見えるのが凄く気になった。

注文は大瓶とどて焼き。

普段は生ビールを注文しているが、1人呑みといえば「大瓶」だろう。と
変な先入観を取り入れてみる。

キンキンに冷えたビールを小さなグラスに移し口に入れる。

堪らなくうまい。

値段を見ても、多分生ビールよりも大瓶の方がお得だ。

作り置きの「どて焼き」がレンジでチンされて出てきた。

それをちょっとずつ食べながら、ビールを呑む。

普通のことなんだけども、やけに嬉しい幸せな気分になった。

接客は抜群にいい!って訳じゃないんだけど、当たり障りがなく居心地がいい。
誰にも気にすることなく、1人のお酒の時間を楽しめる空間なのだ。

それからというもの、週に2日は仕事帰りに、そのお店を訪問するようになった。

そして、半年経った頃
「お、兄ちゃん。いらっしゃい」

「いつもありがとう、また来てな」

「今日はちょっと多めに入れといたわ」

そんな言葉を掛けられるようになった。

顔を覚えてもらえたのだ。

いわゆる「常連客」の仲間入りというやつか。

誰かに自慢出来る訳はないけども、なんか大人の仲間入りというか
昔から憧れていた「1人酒」が実現できたように感じた。

ようやく自分が「1人酒」にふさわしい年齢に達したのかな。

まぁ、見方を変えればただ歳をとったに過ぎないのだが。

歳を重ねるに連れて、確実に「死」へと近付いているんだけど
歳を重ねないとできないことも、たくさんあるんだと思う。

若い子と比べて、体力や肌の艶、吸収力など衰えを実感する毎日。

でも、実際に歳を重ねてようやく気付けることも多い。

小さい頃に大人を見ていて、羨ましいな。って思っていたことが
今の自分でも、できるようになっている。

大人ってかっこいいな。そう思っていた。

もう、私もオッサンだ。

どうせ何をしても歳は取っていく。

どうせなら、かっこいいオッサンになりたいな。
子供の頃に憧れていたようなオッサンに。

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