【中薬を故事で学ぶ】 紫蘇の故事 〜カワウソが教えてくれたこと〜
このnoteでは中薬の故事(由来となった話)を書いています。
ただただ中薬の名前を覚えるのは大変です。
でもストーリーで覚えると記憶に定着しやすくなります。
今回ご紹介する中薬は「紫蘇(しそ)」です!
紫蘇は、香蘇散(こうそさん)を始め、
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
藿香正気散(かっこうしょうきさん)
などの漢方薬に含まれています。
そんな紫蘇ですが、「カワウソ」と深い関係があるのをご存知ですか?
「紫蘇とカワウソはどうゆう関係があるの?」
その謎は、故事を最後まで読むと解決します。
どうぞ、お楽しみください!
紫蘇の故事
昔々、九月九日の重陽節、とある店で裕福な若者たちが誰が一番多く蟹を食べられるか食べ比べをしていました。
※重陽節:9が月と日に重なる日。中国では奇数のことを陽数といい、縁起がよいとされてきた。 なかでも最も大きな陽数「9」が重なる9月9日を「重陽の節句」と制定。
蟹は黄色く大きく油っこくて、食べれば食べるほど美味しさが溢れてきました。
食べ終わった蟹の殻は、テーブルの上に小さな塔のように積み重ねられていました。
華佗は弟子を連れて、酒を飲みに来ました。
華佗は若者たちが蟹を食べ比べているのを見ると、若者たちのテーブルへ行き助言をしました。
「蟹は寒性なので、多く食べてはいけません。食べ比べることには何の利益もありませんよ。」
それを聞いた若者たちは不機嫌になりました。
「自分たちのお金で買ったものを食べているんだ!あんたにとやかく言われる筋合いはない!」
華佗は言いました。
「食べすぎるとお腹をこわしますよ!そのときは命にかかわるかもしれません!」
若者たちはとても怒った様子で、「ふざけるな!脅すような真似しやがって!我々が死んでもお前には関係ないだろう!」と怒鳴りました。
酔っ払った若者たちは華佗の忠告を全く聞き入れず、飲み食いを続けました。
若者の一人が華佗を馬鹿にするように笑いながら言いました。
「蟹を食べて死ぬなんて馬鹿げた話し聞いたことあるか?我々は好きに食べる。あんただけ食べすぎで死ねばいいさ!」
華佗は非常識な彼らにはこれ以上何を言っても無駄だと思いました。
そして店の主人に言いました。
「もう彼らに蟹を売ってはいけません!これは命に関わります!」
店の主人は若者たちからまだ儲けたかったので、華佗の言葉を聞き入れる気はありませんでした。
むしろ、華佗に向かって怒鳴り声をあげました。
「余計なお世話を焼くな!あんたが口を出すことではない!俺の商売に口出しするな!」
華佗は「はぁ」と大きなため息をつくと、弟子たちのテーブルに戻り酒を飲み始めました。
数時間が経ち夜中になりました。
突然、若者たちは「おなかが痛い!」と叫びだしました。
中には汗をかく者や、テーブルの下で転がる者もいました。
店の主人は驚き、急いで若者たちに駆け寄りましたた。
「どうしたんだ!?」
若者たちは苦悶の表情を浮かべながら「お腹が痛いんだ、早く医者を呼んでくれ!」と言いました。
「こんな深夜に、どこで医者を呼べというんだ?」
主人はどうしていいか分からずあたふたするしかありませんでした。
「頼む!死にそうだ!」
その時、華佗が若者たちの元へ来て言いました。
「私は医者です。」
「え!」
蟹を食べすぎないようと忠告してきた老人が医者だと知り、若者たちはとても驚きました。
華佗に無礼を働いた若者らでしたが、もはや面子を気にしている余裕はなく、お腹を抱えながら頼みました。
「先生、どうか治してください!お願いします!命を助けてください!お金ならいくらでも払います!」
華佗は「お金はいりません。」と答えました。
「それならお望みを何でも言ってください。」
華佗は若者たちを見つめ「君たちに一つ約束してもらいたいことがある。」と言いました。
若者はこの痛みが消えるなら何でもいいと思いました。
「一つじゃなくて、百個でも千個でもいいです!先生、早く言ってください!」
華佗は真剣な眼差しで「これからは、老人の忠告に従い、むやみに暴れないことを約束してくれるか?」と若者たちに問いました。
「約束します!必ず!先生、助けてください!」
華佗は弟子を連れて外に出ると紫色の草の茎葉を摘んできて、若者たちに食べさせました。
しばらくすると、彼らのおなかの痛みは嘘のようになくなりました。
「どうですか?」
若者たちは「楽になりました。」と安堵の声をあげました。
その時、華佗は心の中でふと思いました。
「この薬草にはまだ名前がなかったな。どうやら患者は本当に楽になったようだ。そうだ、これからこの薬草は「紫舒」(しじょ)と呼ぶことにしよう。」
若者たちは感謝の意を示し、華佗に別れを告げ家に帰りました。
華佗は店の主人に言いました。
「危ないところでしたね。これからは金儲けばかりに気をかけず、人の命も気にかけなさい。」
店の主人は何度も何度も頷きました。
華佗は店を出てたところで弟子に尋ねられました。
「先ほどの紫色の植物は蟹の毒を消しました。どの書物に載っているのですか?」
華佗は答えました。
「本には載っていない。これはある動物から学んだんだ。」
ある夏の日、華佗は江南の川辺で薬草を摘んでいました。
その時、彼はカワウソが大きな魚を捕まえているのを目撃しました。
魚を食べたカワウソのお腹は太鼓のように膨れていました。
少し時間が経った後、カワウソは動きを止めて急に横たわりました。
そして、もがき苦しみだしたのです。
カワウソは非常に苦しんでいるようでした。
すると、カワウソはゆっくりと川岸へ向かい移動を始めました。
その先には紫色の茎葉を持つ植物がありました。
カワウソは葉を食べ始めました。
食べ終わってしばらく横になると、何もなかったかのように川に入り泳いで去ってしまったのです。
それを見ていた華佗は驚き、そして考えました。
「魚は寒性。ということは、あの紫色の茎葉は温性で、魚の毒を解いたのだろう。」
それ以来、華佗はその出来事を心に留めていました。
その後、華佗は紫色の薬草を薬に使用するようになりました。
この薬草は補脾、利肺、理気、寛胃、止咳、化痰の効果があり、さまざまな病気を治療できることが分かりました。
華佗は、この薬草が紫色であり、お腹をすっきり気持ち良くする効果があるため、「紫舒(舒は中国語で「伸びる、心地よい」)」と名付けたのです。
それが何故か後に「紫蘇」と呼ばれるようになりました。
これはおそらく両者の発音が似ていたため、間違えられたと考えられています。
紫舒(zishu:ズーシュー)
紫蘇(zisu:ズースー)
おしまい
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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