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コミュニケーション

「友達の〇〇が上場企業に転職してさ〜〜」

また始まったな、と思う。彼女はよく僕の知らない人の話をする。知らない人の仕事の話、恋愛の話、何気なく言った一言から、性の不一致の話まで。どう聞いて良いものか分からなくなる内容ばかりだ。優しく聞いているフリをしているが、実はほとんど頭に入っていない。というよりは、耳にも入れていない。そうでなくては付き合ってられないのだ。彼女のことが嫌いなわけではないが、こういう時はうんざりしてしまう。知らない奴の話なんかもう聞きたくもないわ!とでも言ってしまえればどんなにいいか。

また話半分で聞いてるな、と気付きながらも話すことを止められないでいる。こんな風に相手が知らない人の話をしてしまう癖は、なかなか直らない。話すことがなくなるよりは何かを話していたい、という自分なりの気遣いから始まった気もするし、ただ単に自分の話がつまらないからなのかもしれない。ある日彼が仲の良い友達の話をしてくれたことが嬉しくて、それなら私も、と思い話し始めたこともきっかけとなり、拍車がかかっている気もする。いずれにしても、もう私は話したくない。本当は。

あ、しまった。
またこの話の流れを作ってしまった、と僕は思う。もう何年前の話だよ、と思うくらい昔の大学受験の話が始まった。やれ実家の経済状況から国立しか行けなかっただの、当時倍率が何倍もあっただの、遠慮気味に話してはいるが、要は自慢だ。言っておくが、僕の方が遥かに良い大学を出ている。それを彼女ももちろん知っている。なのにもう何回も聞いたこの話は、強気な彼女の弱さを表しているようで、無下にはできない。

あー。後で後悔決定。
また同じ話しちゃってるなあ。30も過ぎて何を大学受験の話なんてする必要があるんだ。高校生の時、自分は優秀だと思っていた。でも大学や社会に出て、自分は平々凡々なのだということに嫌でも気付かされた。その度に複雑な感情と戦ってきたじゃないか。なのに何故、こんなにも処理できないのか。承認欲求が高すぎるのか、本気で気に病んでいることを彼は知っているだろうか。表面だけで私のことを見ないで欲しい。そうじゃなきゃ嫌われてしまうだろう。もうとっくに、自分の能力は見積もっている。すごく高くはないけど、社会に適応できる程度には教養がある。でも、全く特別なことはなくて、その他大勢の中の1人だ。高い給料をもらえるわけではないが、自分なりに向いている職業に就けたと思っている。ちゃんと自分で認められるようになったつもりなのに。反吐が出る。

もっと自信を持てばいいのに。こんなつまらない話をするんじゃなくて。今の君の話が聞きたいよ。お互いの好きなものの話をしようよ。

もっと自信を持ちたいのに。こんなつまらない話をするんじゃなくて。あなたの話が聞きたい。あなたがどうしてそれを好きなのか、どんな風に育ってきたのかを知りたい。

次は君(あなた)に聞いてみよう。今まで見てきたものの話を聞かせてもらおう。

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