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体感型ミュージカルFumiko #8

Scene22日本人街

指揮官
こちらは合衆国陸軍です。大統領令9066号により、みなさんは指定された居住区に移動していただきます。我々の指示に従い安全に移動をしてください・・・(連行の間、繰り返される)。

正一、追われながら登場。兵士たちに取り押さえられ、連行される。
州兵たちが登場。

兵士たちは観客を整列させ、グループに分けて誘導し、フェンスを設置し観客を整然と連行する。一部始終がカメラで撮影され、壁面に投影される。

照明変化。高見移動。

Scene23強制収容所

鐵三
大丈夫ですか?

正一
ああ、どうってことない。

鐵三
よかった。

正一
思いっきりぶん殴ってやったよ。ちっとはすっきりするかと思ったけど。・・・父ちゃんと母ちゃんは?

鐵三
わかりません。どこかの収容所に連行されたとは思いますが。

正一
無事だといいな。

鐵三
はい。

正一
まあ、殺したって死なないような親父とお袋だけど。

鐵三
店は大丈夫でしょうか。

正一
俺たち。資本家じゃなかった、労働者でもなかった。家畜だったんだ。きつい仕事をさせて、用が済んだらお払い箱さ。しょうがないよな。人間じゃないんだ。粗末な小屋に詰め込まれて、フェンスで囲って。豚や牛とおんなじだよ。俺たち、人間じゃなかった。笑えるよな。

鐵三
そんなこと言っちゃダメだ。そんなことない。そんなことないんだ。

正一
冗談だよ。

鐵三
大丈夫ですよ。こんなこと間違ってますから。続くわけないんだから。誰が考えたっておかしいし。すぐに元どおりになりますよ。家も、店も、何もかも。

正一
悪い夢だな。

鐵三
そうですよ。すぐに覚める。

正一
Fumikoは無事でいるかな。

鐵三
もちろんですよ。大丈夫に決まってます。

正一
なあ、テツ。

鐵三
はい。

正一
覚えてるか、初めて会った日。

鐵三
覚えてますよ。長い長い船旅で地面が揺れて。正一さんは遅刻してきて、一人で不安でした。
正一
アマチュアナイト行って。お前はFumikoに釘付けだったな。

鐵三
夏祭りでレモネード売りつけられたり。

正一
森で迷子になりかけて。

鐵三
変なとこ盗み聞きしてましたよね。

正一
わざとじゃないから。

鐵三
蚊に食われすぎてしばらく人相変わってましたよ。

正一

俺たち、人間だよな。

鐵三
・・・。

正一
試してみようか?

鐵三
何を?

正一
人間かどうか。

Scene24劇場前
ポスター貼りの男が壁のポスターのFumikoの名前をペンで塗りつぶし、消していく。
Fumiko、旅行鞄を手にその様子を眺めている。
Rachel、登場。

Rachel
もう平気なの?

Fumiko
ええ。

Rachel
大丈夫だった?みんなずっと心配してたのよ。

Fumiko
ええ。

Rachel
今日はどうしたの?

Fumiko
お別れを言いに。

Rachel
どういうこと?戻ってくるんじゃないの?

Fumiko
ここを離れることに決めたの。

Rachel
そう。そうなのね。どこへ行くの?

Fumiko
まだわからない。どこかいいところがあればいいけど。家族のこともあるし。

Rachel
そうね。

Fumiko
うん。

Rachel
きっと神様が見てるから。雨の日ばかりは続かないから。

Fumiko
だといいけど。

Rachel
諦めちゃダメよ。

Fumiko
うん。

Rachel
戦争なんてすぐ終わる。

Fumiko
そうだね。

Rachel
待ってるから。みんな待ってるから。

Fumiko
ありがとう。

Rachel
うん。

Fumiko
じゃあ。そろそろ。

Rachel
そうだね。彼には会った?

Fumiko
・・・。

Rachel
今日も待ってると思うよ。

Fumiko
さよなら。

Rachel
またね。

つづく 6月3日から7月29日まで毎週月曜に3シーンくらいずつ公開予定

劇作家。演劇、ミュージカル、オペラの台本作家です。