マンガ「ようこそ、FACTへ!」から学力が低い人の知的好奇心について考えた

著:魚豊「ようこそ、FACT(東京S区第二支部)へ!」というマンガを読みました。
「チ。」等の作品で有名な方ですが、私は今作で初めて著作を拝見しました。

このマンガについては語りたいことがあまりに多くて、長文を何度も書いては消ししています(笑)。

なので、今回は短めに。
ちょっと脱線気味な話を書きます。

※注意:主人公の学力について論じますが、陰謀論者全体でみると学力との相関関係はありません。なんならオウム真理教の例から「高学歴だと陰謀論にハマりやすいのではないか」という予想もされ、調査したら結果は全く関係なかった、という論文もあります。

そのうえで、以下は主人公の「勉強」への態度から私の得た気づきを書いています。


世の中には「学ぶべきもの」とされるものがありますよね。

しつけや義務教育や日常生活で学ぶ「一般常識」、人間関係で培われる「社会性」、職業に付随する「業務知識」「技術力」といったものが、一般に「学ぶべきもの」とイメージされるものでしょう。

また、目先の生活の需要と直接関係がなくとも、「人生を豊かにする何か」を、多くの人は履修しているものです。
例えば「スポーツ」や「芸術」「エンタメ」のようなものは、直接的に人生に関わるというのは一部の人に限られるものの、鑑賞者やアマチュアの広い支えがあって成り立つものです。

また、自分の持つ知識がより深い見識に繋がる側面もあります。
部活でスポーツ競技をやっていた人は、そのスポーツのオリンピックやプロの試合をよく見ていることが多いです。彼らはルールをよく知っていますし、選手達の凄いプレイが「どう凄いのか」まで理解できるので、そうではない人よりも好奇心を掻き立てられやすいのでしょう。
(もちろん選手達に興味のない人もいますので、あくまで傾向としての話です。)

こうして、人はそれぞれいろいろな知識を頭にいれて生きています。
最初に詰め込んだ知識の中から、興味のないもの、使わないものは忘れ、空いたところに新しい知識・深まった知識を配置し直します。
こうして自分の知的好奇心を満たしながら、人は生活しています。

知識は知識を呼ぶものですから、その基礎固めとして義務教育レベルの学習はできていた方が良いでしょう。
義務教育はすべてしっかり身につけるのは難しいいものです。だいたい、歳を取れば興味のないものから忘れていくものですし。それでも多くの人は、「春はあげもの」という一語で元ネタ「春はあけぼの」のフレーズくらいは思い出せるはずです。

ここで逆に考えてみます。
知識に穴の多い人は、知的好奇心を満たす経験が少なくなる、ということになることでしょう。
そもそもの話、彼らには知的好奇心そのものが欠けている可能性もあるのでしょうか?


「ようこそ、FACT(東京S区第二支部)へ!」の主人公である渡辺は「地方の高校を出た後、なんとなく東京に出て、現在は肉体労働に従事する派遣社員」です。

・高校まで勉強を苦手としていた(恐らく偏差値低めで資格も取れない高校の出)
・都会っ子は都会にいるというだけで沢山の情報に囲まれて育つが、そういう経験は彼にない
・人間関係も乏しいので、家族や友人関係からもたらされる経験値も少ない
・仕事内容が業務知識やスキルが身につくものではない

このことから、彼の知識には空隙が多いことがみて取れます。

そんな渡辺は陰謀論の「先生」に、勉強の仕方を学びます。
普通の人から見たら意味がわからない内容ではあるのですが、先生の「教え方」だけに限ればとても理にかなっているというのが恐ろしいところ。

先生の教え方は2段階になっています。

1.基礎知識を叩き込む
2.1の基礎をもとに、応用としてより深い学び方を教える

ここで先生が渡辺をやる気にさせるため「選ばれた者」だと持ち上げるようなこともやり、実際渡辺は勉強に没頭するようになります。(陰謀論の、ですが。)

彼は知的好奇心がないわけではなかった。ただ、自分の知的好奇心を動作させるための適切な勉強の仕方を知らなかっただけ。
ということなんですよね。

一般に言われるように、陰謀論者は「自分だけが知る真実を持つこと」で優越感を得ている、という側面もあるのですが、渡辺のケースでは学びの初期段階にはそうなっていません。
彼がノートを埋めるたび、脳内の知識の穴が塞がっていき、その知識から新しい/深い知識が指数関数的に増えていく経験をしてハイになっていきます。「好きな子を救う」という大義名分はあるものの、本質は学びたい心が満たされると嬉しいという、人間のサガのようなものといえます。

これが、私が今作を読んで唸らされたことの一つです。

「勉強嫌いの人」というのを、私は「全部の科目が苦手な人」や「頭を使うのを諦めた人」というふうにしか捉えていなかったんだなと。
学ぶきっかけを持ち、学んだことが繋がっていく楽しさを知る。こういうところで躓いている人たちにとって、ただただ「勉強しろ」といわれる学校は、確かに肌に合わないでしょう。

また、一つの陰謀論に引っかかるととことんいろんなものに引っかかりがちなメカニズムも、これで理解できました。

特定の陰謀論にハマッた全員が全てに引っかかるとは限りませんが、きっと渡辺のように複数の陰謀論のセット(DS陰謀論はまさに複数の陰謀論を纏めるような陰謀論なんですよね)を一度に吸収すると、こうなるのでしょうね。

…というわけで、渡辺のようなタイプの知的好奇心に関する感想は以上です。

それ以外の話はまた後日。

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