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まさか、こんなクレームに発展するとは思いませんでした。

私は、近所のスーパーで主にレジ打ちのアルバイトをしている。

毎夕方、必ず串無しの黄な粉餅を買う品の良いお婆さんが居て、いつも笑顔で「ありがとうございます」と返してくれる。

無言の人、機嫌悪そうな人、些細な事で八つ当たりする人、そういうお客さんに当たると心消耗するけど、このお婆さんの笑顔で、いつもちょっと元気になる。

でも……。

ある日、たまたま串無しの黄な粉の餅が切れていた事があった。お婆さんが残念そうな顔をしていた。

私はお婆さんに、「少々お待ち頂けますか?」と伝え、バックヤードから、品だし前の串無しの黄な粉の餅を手に取ると、どうぞと言って足し、「いつも、ありがとうございます」と笑顔で返した。

ちょっと恩返し出来たみたいで嬉しかった。

だが、翌週から、3日連続でおばあさんが来なかった。いつも欠かさず通ってくれていたので、「何かあったのだろうか?」、ちょっと心配した。

いつも通り仕事を終え更衣室へ戻る途中、「ねえねえAさん」、店長に呼び止められた。「何ですか?」と聞くと、「ちょっと事務室に来てくれる」と言われ、指示通りに移動した。

促されるままに事務室の椅子に座り、「えーとね~、あ~、えーとね~」と言い出し難そうにしている店長に、「どうぞ正直に仰ってください」と伝えると、店長は頭を掻きながら、静かな声でしゃべり出した。

「あのね……、Aさん。あ~、まあ、向こうが言うにはね。僕は勘違いか何かだと思うんだけど……。あのね、Aっていう店員がお客さんを監視していて気味が悪いから辞めさせて欲しい」ってクレームがさ、3日連続で入ったんだけど、何か心当たりある?」

……。

寂しい気持ちになった。

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【題】善意のつもりが……。
この物語はフィクションです。


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