恵みの使途(2)

イナセと僕がこの計画をたて始めたのは、一週間前。ただ互いに高校が同じとしか認識してなかった僕とイナセに、意外な共通点があると分かったことに端を発している。

一週間前のその日も、僕は日課である瞑想をするために《壁打ち裏》に来ていた。

《壁打ち裏》とは、その名の通り野球部が投球練習をしたりバッティングフォームを確認したりするために設えられた古いコンクリート壁の裏である。壁の高さは1メートル20センチほどだが、その10メートル上まで伸びてネズミ返しに終わる金網があるので、壁打ちスペースと壁裏とでは気持ち的に隔てられてると言っていい。

そこは事務のおじさんが四角い所を丸く掃く仕事をした結果、掃かれずにいる手つかずな場所でもある。そのため秋になると落ち葉が溜まって潜れるほどになるが、今は初夏の手前なので少し苔むしている程度だ。

壁裏のさらに奥にはフェンスに囲われた受水槽がある。瞑想の定位置はまさに壁の真裏で、壁に背をもたれる形で行うルールだ。受水槽を正面に見据えながら胡坐をかき、野球部の誰かが壁にボールぶつける衝撃を背中に感じる。独特なリズムが刻まれるその環境で、瞑想はじっくりと深度を上げていく。

自分のヘソの緒と引き換えに、中国4000年の歴史の中でタピオカがどれだけ重要な役割を担ったか喋るフタコブラクダから教わっていたその時、突然話しかけてきたのがイナセだった。

第一声はこうである。「いやどんな夢だよ」

彼の言葉で僕は死ぬほど驚いた。正直、声も出なかった。

見覚えのある顔だった。ハッキリした二重瞼を台無しにするほど眠そうな目と、印象的な明るい茶髪。よく知っていた。ただ、彼と会話をするのはこれが初めてだった。

僕はなるべく驚きを悟られないよう、声色に気を遣った。

「やややぁ。きききき奇遇ぅだだだっだだねねっねねねね」
「内容にも気を遣え」

鮮やかに突っ込まれた。シューベルトのようだ。

「お前、適当に比喩をする癖があるだろ」
直接話したことが無いとは思えない息の合い方だ、素晴らしい。ところで本題だけど、どうして彼はここにいるんだろう。

「片寄ナギサを知ってるか?」
「……」

それもまた、知っている名だ。

イナセは続けて言う。


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惚れました
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ニノ口(にのくち)

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恵みの使途

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