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カフェ経営者の視点で見た、地方創生本の感想

「凡人のための地域再生入門」を読んでみました。

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わたしはカフェを経営していたことがあるので、この話題は密接で、かつ、めんどくさいことでもありました。

人が集まる場である点で、地域の課題が真っ先に持ち込まれるのがカフェだよな、というのは実践者としての感想です。この本の主軸もカフェ経営・飲食店経営から地方立て直しの活動が始まっており、やっぱりカフェは地域のコミュニティを支える重要なハブになってきてしまっているんだな、という感慨を持ちました。

みんなが言わなかったことを開示した功績とうっすらと感じる他人感

ストーリー展開にあわせて、その都度出てくるキーワードを黄色い枠で囲まれたコラムで別に解説することを試みています。この部分ではかなりぶっちゃけた地域課題が提示されている、というか、うまく説明しています。

『事業をスタートするときにはうまくいかないと言われ、うまくいけばあそこだけ儲けていると言われ、少し業績が悪くなれば調子こいていたからだと言われるパターン。だが、結局何を言われようとも....』

こういった日常茶飯事のネタがてんこもりで、なんたらプランナーやなんたら診断士が制度面から解説する創業関連本とは全く違う、地に足の着いた本になっていることは確かです。

ただ、成果事例なども積み上げて紹介している分だけ、ひとつひとつの事業進展についての描写は薄くなってしまって残念。主役の実家のリノベーションひとつとっても、ネタが満載のはずですし(耐震基準クリアしたのかとか、実は修理が必要だったとか、融通の利く建築士を探す手間だとか、資金で金融機関のいじわる三昧とか←これはちょっと詳しかったけど)、あっという間に主役たちの事業が軌道に乗っていくのは納得できません(笑)。そんな簡単にいかないから地方での課題に取り組むいい人たちが発言権をなかなか得られないわけで。

助成金にぶらさがる人たちをうんたらかんたら

この本は、主役たちのカフェ事業のなりゆきというよりも、後半につれて国の助成金事業の問題点を伝える内容に急激にシフトしていっているように見えました。以下のくだりなどは秀逸でしたね。

『支援してもらわんのが一番の支援です。あんたらが適当な支援策をつくって、それをもらおうと地方のあほなやつがら躍起になって提案書を書いて補助金集めに時間を割いてる。役所の方を向いてあんたらが言う「支援」をもらうことにばかり時間を使っているから、本来向き合うべきお客さんはほったらかしだ。だから売り上げもまともに立たない。売り上げの立たない事業に、補助金が出たところで早晩ダメになる。だからこそ毎年自転車操業のように次から次へと補助金の申請に明け暮れているんだ。それで補助金もらわないでやってる俺らのようなやつらは、頭おかしい奴ら扱い。お客さんに喜んでもらって対価もらうやつらが頭おかしくて、役所にこびへつらって予算もらうやつが成功者扱いされる地域が、過去に栄えたことがあるんなら教えてくれや。結局、あんたらの支援のせいで、地方はさらに衰退している。支援はすっぱり打ち切ってもらったほうが、よっぽどまともなやつらが、地方で成果を上げおるわい。』
『個人では違和感を覚えているのに、それを口に出さないのがこの国の病なのだ。口に出さずに、ぐっとこらえて、みんながやることを同じようにやるのが大人の作法だとされているからこそ、間違いは繰り返されていく。』

私は一度、地域の後方支援ということで助成金を活用したり、予算を取って地方活性化につなげる系のコンサルタント会社への転職を試してみましたが、すべて門前払いの憂き目を味わっています。しかし、この実態を読むと、門前払いでよかったかな、とも思いつつも地方や地域で活躍しようと立ちはだかる問題の第一にこれ(助成金)がきてしまうような展開に違和感も感じたかも。

後半は事業が拡大してしまうので、大枠での助成金批判の描写がほとんどになってしまい、何を伝えるべきなのかがピンボケしてしまっているようにも思えました。前半の起業時の細かなことほどのおもしろさがないし、こういう系統の本にありがちな、起業後の大変さをどうやって解消していくのか、という解決策の提示に至っていない感を感じました

わたしの期待からはずれていったストーリー展開

地域の課題というのは具体的にどういうものなのか、という詳細解説が助成金のことだけで終わってしまっているような。いや、いっぱいあったはずなんですが、読後感は助成金を使ってるやつらVS新規事業で独立系でがんばる30代あんちゃん集団というような構図です。

この構図、どうしてなんでしょう。どこにでもあります。なぜか30代が頑張ってる感アリアリな。30代が世界を動かしているのか?みたいな?40代、50代、なにしてんだ?みたいな?20代、何やってんだ?みたいな?

この、安易な線引きにも強烈な違和感があって、プレイヤーとしてのマジョリティーはこうかもしれないけれど、結局何かが動くときって、次に続く人が誰か、ってことなはずなわけで、そこを書いてないことに対するイライラ感をどうおさえようか、と読みながら思ってたことでした。

現状の問題が何を発端に起こっていて、その解決策がどのあたりにあるのか、というような考察がないし。

読後感はシンプルに「助成金あさるやつサイテー」「既存のビジネススタイルに固執してるやつらダメダメ」になってしまう。

それで思考停止になりそうで、やばかったです。

もしかしたら結論は何も変わらないかもしれない

この本をもとに地方で起業しようとしても、結局たくさんの仲間が最初からいないかぎりここで羅列される問題はひとつも対策できないかも、と思いました。個人事業最大の問題は、「仲間を作ること」で、それはもしかしたら6,7年経ってもできないかもしれないのです(作り笑いの仲間はたくさんできますけどね)。当初の仲間がたくさんいないから個人事業ではじめるわけで、いろんな「こういう人がいるよ、こういうことがおこるよ」と言われても、「そういうことがあるんだ」と認識しているくらいで具体的な対処はほぼできません。本業に忙しくて自転車操業のはずなので。そうならないためにどうしたらいいか、という示唆がない。

プライベートであることの風当たりの強さは、この国特有の問題なのか、いろいろ言われる度合も個人事業と株式会社では大きな差を感じます。主役は結局(仲間がいるから当然ですが)法人化していくので風当たりもちょっと違うのです。そもそも物件を所有するオーナーである点で、一般の個人事業主・起業志向の人などよりよっぽど条件がよいので参考にならない(多くの人は、借りて始める)。このあたりも現実的でないんですよね。

根本課題に達していない

地域経済にとって、商店の活況は景気が良いか悪いかがが一目でわかる指標です。その商店主たちが助成金に漬かってしまっているのはなんともやるせないですし、事実です。商店街を中心に助成金という表層で上澄みを取る状態がまかり通ってしまっていて、本はその指摘と批判が中心になっていきます。この展開は、、正しいですが戦場にいたわたしにとっては表面的だよなと思いました。

やはり、地域課題を直接的にくらってしまったことがある人と、近いが間接的にふれあっている人の感覚の差でしょうか。

私はカフェ経営をやっていたことがあるので、この問題はぶっとばしたくなるヤツがごろごろいた課題としてとらえていました。

しかし、根本をたどると、地域住民の無気力・無関心・無行動という、経済を発生させない問題にたどりつくはずなんですが、本はこれについてまったく触れておらず、「その結果」押し出されてくる助成金漬けや足をひっぱりあう構図の批難に終始している感があります。まあ、ここに達成しただけでもすばらしいんですが、ここまで行けたならもう一歩、と思ってしまいました。

稼げなくなったのはどういう経緯だったのか

人がいなくなったのはどういう経緯だったのか

まさか「残念な人たちが助成金にたかる」ではないでしょうに。

たとえば都内でみるみるうちにさびれていく商店街が近くにあったんですが、ただひとつ日曜日にもあけているスーパーは、日曜日にとくに若い家族連れが買い物に来てにぎわっているわけです。働く人のサイクルを考えれば、平日10時から18時までしか営業せず、日曜日に閉めてる商店はまったく通えない店であるわけで、この人たちは結局夜遅くの時間帯や、河岸や青果市場が休みでも営業しているスーパーに行ってしまうわけで。行きたくなくてもイオンに行くわけです。こういうことの積み重ねでさびれてしまうし、人がいなくなってしまうわけですが、考えもしない。助成金の批判は、たしかに、と思いますが、根本課題はそこじゃねえだろ、と思う次第です、ハイ。

地方は天岩戸の向こう側

自発的に稼ぐように努力する、というのは、「お客さんのためにがんばる」だけではなく、アマテラスオオミカミを天岩戸からひっぱりだすような、地域の人たちがげらげら笑って動くように仕向けないとお金を使うマインドが起こらないはずなんですが、そういうことは書かれていなかったように思います。

コミュニティハブとしての大変さ
主役たちの事業があっという間に、本当にあっという間に拡大していってしまったので、足元のカフェでのことなどは触れていません。カフェなどの飲食業は、多くの人の憧れの裏で、地域の人たちが気軽に集まって話ができる場がいろいろと減ってきた現代コミュニティの中心で最前線にならざるをえない面があります。その矢面に立たされるめんどくささ、事業者としてほかにはけ口のない孤独の環境は、事業者を4,5年でドロップアウトさせるサイクルを生んでいるわけです。本の中にちょこっと出てきた、2人の共同経営のフラワーアレンジメントの店主の件なども典型的なケースですし、この課題にも触れてもらわなければ、地方創生が抱える真実には至らない、と思ったかな。

じゃあ、どうすんだよ

わたしのようにわかった風な人、そもそもこんな問題にすら直面していないけど、地元さびれてるよなーと思っている人、それぞれにひびく構成であるものの、じゃあ、どうするんだ、という具体策がわからなかったです。

冷静に見てみると、ないんだよなー、このコラムには。現実の指摘と、恵まれすぎている環境(そもそも実家だったり、土地を持っていたり、その土地の事情がすでにわかっていたりとか)とでは、裸一貫で起業する人や、移住して何かを新しく始める人にとってはまったく役に立つものはないわけで。「そういうことあるよな」程度の共感では、もはやだめだろってくらい地方の残念なところは疲弊しているはずなんですが、結局指摘だけで具体的な解決策が提示されていない。3歩目、4歩目での解決策はありますけどね。でも、その3歩目、4歩目に至るまでには、まず自分の店を軌道に乗せなければいけないし、同志がいなければいけないし。そこに至るまでが大変なんだよ、と思いました。そこに至らないから4,5年で個人商店はなくなっていく。これを食い止めるための施策は何?って思いますが、ここにはなかったかな。

第1ステップって、誰もがご教示したがるネタなんですよね

責任もたなくていいからね。経験者面して「これをそろえれば事業計画書は完ぺき」みたいな羅列が並ぶわけで。事実ですが、真実ではない。

この先、20年、30年と、そこでやっていくわけで、その間につまんない人や、おもしろすぎる人や、およびでない人と付き合っていかなければいけない地縛霊ライフをどう生きるかなんて、こいつらはご教示しないわけです。っていうか、できるわけがない。そこに住んだこともないし、20年じっくりやったこともないし。著者さまたちのご経歴のほとんどに20年以上やってみました!みたいなことはありません。地方創生でネタになるのは、地元でずっとやってきた重鎮たちと、新しい感覚でその地域に移住してきた、あるいは戻ってきた人たちの対立の構図なんですが、それは間違いだよな、と思うわけです。それぞれの立場を越えてひとつになる道をさぐらないと、地元だろうとよそ者だろうと、動く人と動かない人の区別ができてしまうわけで。結局地方創生も新しい区別を作る構図が進行していて、自称まちづくりたちはこの前提で事例を盾に地方を分断化してるよな、と、この本を読んで改めて思いました。

課題抽出という意味では傑出してますよ!

ボコボコに書いていますが、わたしはある意味「引っかかった人」ではないかと。つまり、「いいところついてるけどモヤモヤ」させてガヤガヤ言わせることで、新しい議論を創出し、新しいアイデアにつなげていくことが真の目的だとしたら、これはとんでもなくすばらしい本です。「言われることをただフォローしろよな」というマニュアル的構成は、こうやって騒がれるのはだめですが、火種をばらまいて煙をあげることを目的とする場合、これは話題にあふれている。

たとえば、主人公の境遇は、地方に実家があって商売をしていた。親の代にアパート経営もしていて、もうすでに自走モデルが整っている環境を示唆しています。ただし、このモデルをプレイするお父さんが亡くなったので、「当人が止まったらおしまい」という自営業モデルの課題点なども含まれていたりする。

残念な不動産やさんが、新しく借りる人の壁を作っている問題も、地元に通い続けてオーナーをつきとめ、その人と仲良くなって貸してもらうなんて裏ワザの言及に至ってないし(っていうかうまくやってる人の多くがこのパターンで開業しているわたしのまわりでは)。だいたい、貸したがらない理由は「なんとかうまくやっちゃってる」だけではなく「へんなやつに貸したら周りからボコられる」恐怖とか、「貸してもつまんないやつ多いし」みたいなこともあるわけで。貸す側の事情なんかもちょっと足らないしね。

コンサルタントが跋扈する構造は、たとえば都市計画系のソフト事業は、仕様書がこの人たちの手によるものなので、指名競争入札になっても前提が満たせる業者は筆者以外にいないから、へんな金額入れられなければ落札業者はそいつに行く、ということを逆手にとって対抗するとか。あ、これは話してはいけないのか?

地方でうまくいっている人たちの連携のくだりいついても、何をどう交流させるとおもしろいか、というところまでいってない。孤独な人たちがたまに集まっても課題は解決しないわけで(特に孤独感覚)。ファンドの話などもちらほら出たものの、その活用は結局あらゆる人に機会を提供する礎になっているのかな、ということもわからずじまい。

ひとつひとつは可能性があり、現実的な手を打っているのは確かで、研究するネタが満載です。小説の流れにした分だけ、もっと語ってほしいな、ということがその分抜け落ちているから、事情をまったくかじったことがない人にとっては、見落とすことが多すぎる。事情をかじったことがある人にとってはモヤモヤして声を上げたくなる(笑)。

続編というか、企画やライフスタイルごとにスピンアウトしたストーリーものが、何冊も出せるかな、と思いました。

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