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山梔子と靴下と父と母〜手間暇は思いを馳せる時間を育む〜

父が庭で山梔子を摘んで、おもむろに「結構いい色に染まるらしいな」と言って僕に渡した。


ほう、そんなこと知ってるんだ、と意外だったけど、彼が庭でいろんな樹木を植えてきたのをずっと見てきてたから、そういう知識があっても不思議ではないな、とも思った。

その山梔子は工房に持ち帰って、何を染めようかと考えて、母のための靴下を染めることにした。
1月の父の誕生日に栄里と照晃が靴下をベンガラで染めたから、これで夫婦お揃いになるね、とも思ったりして。


山梔子はかなり少量だったので、かなり丁寧に煮出したし、かなり丁寧に染めた。
そして作業中、丁寧に取り扱うことの大事さを思った。
丁寧に作業していると、父への思いやり、母への思いやりが、勝手に増えてくる。
貴重な山梔子を心から有り難いものと思えるし、それを育てて摘んでくれた父への愛も増える。

思いや愛は水のようなもので、注げば増える、とよく言われる。
勝手に増えるのではなく、注いでこそ増えるものだと。
手間暇ってそういうことなんだなと思う。
所作に時間をかけることで、注ぐ愛の量を増やせる。

そういえば、母は編み物や縫い物が好きだった。
そういえば母は、僕を産む前日まで、生まれてくる僕のための部屋をセルフビルドで作っていたという。
そういえば、と思いをはせる猶予も、所作の時間がもたらしてくれる恩恵。
父母が、手間暇かけて家を、庭を、僕たちを、育ててくれた。

反抗期が長かった息子と根気強く付き合ってくれている父母とのやり取りはこれからも予想がつかないものになるだろう。
僕が染めと発酵と本格的に向き合い始めて10年。
そして父は山梔子を摘み、母は梅干しを漬け始めた。
自分たちが大切と思っているものを、押し付けると言うより、捧げるような感覚で、手渡していきたい。
言葉ではなく、行為によって、それが出来るなら嬉しい。

※山梔子=くちなし
※靴下=EMヘンプ五本指ソックス

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