からメシ 第86話 Runner

俺は中学の時ちょっとだけ陸上部に入っていたが、高校では結局入らなかった。

俺が一番好きなのは走ることではなく、高木さんだからだ。確かに走るのは好きだが、高木さんとの時間を差し置いて打ち込むほどのものでは無い。
高木さんとの時間と部活の時間を天秤にかけた時、すぐに高木さんを選べるくらいには高木さんが大好きだ。
別に陸上選手になりたい訳でも無いし、こんな意識で陸上選手になりたいなんて思ったらそれは陸上選手失礼なことである。

とはいえ走るのは好きだし、部活に入らなくても走ることは出来るので日々走り込みはしていた。(こう見えても)

そんな俺には1つ目標があった。
「オリーブマラソンで好成績を残す」
10kmコースとハーフマラソンコース(21kmくらい?)があるが、もちろん走るのはハーフマラソンコース
というかめざせ1位。無謀かもしれないけど…

高木さんにかっこいい所を見せるんだ。
そして「素敵!西片。もうからかわない!」
ってね!

ゴールデンウィークはバイト漬け。
その傍ら走り込みをする。

そして迎えた当日。5月下旬にさしかかるあたりの日曜日。スタート地点でありゴール地点でもある坂手港から

「頑張ってね。西片。」

「うん!1位取ってくるから」

「そっか。じゃあ1位取れなかったらなんかしてもらおうかな。」

「え、は、ハードル高くない?それ」

「うん、今度こそ私の初めて西片に貰ってもらおうかな」

「ええええええ」

「わたしとしたいからってわざと負けちゃダメだよ❤西片っ///」

相変わらずとんでもないことを言い出す。
というかここんとこ高木さんそういう意味で超積極的だよな…

高尾「おう西片。お前も出るのか」

西片「なんで高尾が…?陸上興味あったっけ?……あっ……」
そうか月本さんか

高尾「もし俺が月本さんに勝ったら…こ、今度こそこ、告…」
……難しいと思う

というわけで、スタート地点につく。
位置について~
よーい!
パーン
スタートの発砲音とともに

「西片がんばれー!」
どっから出したんだと言うくらいデカい声の高木さんの声援が聴こえた

これはがんばらないとな

しかし暑い。今日は5月としては記録的な猛暑にみたいで…
給水ポイントはあるみたいだけど、熱中症には気をつけよう…

高尾「おーい!西片!待ってくれよー!もうちょいゆっくり走ろうぜー。」
遠くの方で高尾の声が聞こえた

さて、まずは草壁港方面に走る。
とにかく先頭集団にくらいつこう。
先頭集団に見しった顔が…
月本さんだ…さすが女子ではトップみたいだ
なにしろ去年は全国大会出たみたいだからな

サナエ「部活入ってないのにやるわね…あんたも」

西片「た、高木さんに1位取ってくるっていっちゃったからね…」

サナエ「そう……この世界…そんなに甘くないわよ」

西片「わかってるよ」

とにかく走る。走る。

5km地点。草壁港折り返し。最初の給水ポイントが見えてきた。
ペットボトルを手に取る。ちょっと時間ロスってしまった。
喉がカラカラだ。先頭集団にはいるものの、1位の人が集団飛び出してる感じで差をつけられている。

しかし、しばらくすると
1位の人が膝をついて、バテている感じで佇んでいた。

サナエ(ほら、勝負の世界はこういうもの。かわいそうではあるけど、私にとってはチャンス。)

なんと月本さんが1位に躍り出る。

俺も、その人に追いつく……

でも……
このまま通り過ぎるのってさ…
たしかに救護班が見つけて助け出してくれるだろうけど
それでも…

西片「だ。大丈夫ですか。」

バテてる人「すまない。と、飛ばしすぎたのと……給水ポイントで受け取り失敗してしまい…バテてしまって」

西片「……俺の水、飲みかけですが……良かったら飲んでください」

バテてる人「そんな。君の大事な水分だろ?」

西片「俺はまだまだ大丈夫なので。あ、歩けますか?肩かしましょうか…」

バテてる人「大丈夫…すまない……迷惑かけて…君はいってくれ……残念だがリタイアするよ私は…」

西片「……ざ、残念だと思うなら……く、悔いの残らないようにしたらいいと思います。ご、ごめんなさい偉そうなこと言って……」

バテてる人「ありがとう。君はやさしいね。もう少し休んだら行けそうかもしれないから、それで判断するよ。き、君はいってくれ。お水ありがとう。」

西片「……す、すみません」

高尾「おーい、西片。こんなところで何やってんだ~」

西片「ば、バテてる人がいたから水をあげてきてて」

高尾「ほんとお人好しだなお前……俺のことは置いてったのに。」

なんだかんだ10分くらいは居たのか…しょうがないけど、トップとの差は相当離されてしまった。
現に体育正直苦手な高尾(保健は得意)に追いつかれてる。巻き返さないと。

しかし暑い
5km給水ポイントでろくに水分取ってないせいか頭もクラクラする…

次の給水ポイントまで遠い…
早く水分取るためにも早く走らなきゃ行けないのに…

次第に走りは歩きに変わっていく。高尾も先に行ってしまう

なんとか次の堀越バス停あたりの給水ポイントでペットボトルを受け取る。

それにしても暑い。映画村で折り返した1位の人が戻ってくる。月本さんではなかった。
何人かすれ違うが月本さんではない。
たしかにこの、勝負の世界は甘くない。

しばらく、十数人後にようやく月本さんが見えた

俺は映画村までもまだまだある。
こんなの高木さんに笑われてしまう…
せめて歩かずに走ろう…
せめて高尾に追いつこう!

映画村の折り返し地点。また給水を貰う。
どうやら1位の人はたった今ゴールしたようだ。
1位にはなれなかったか

しばらくすると高尾が見えてきた。よしこれなら追いつく。
追い抜いた。まだまだこっからだ。

しばらく海岸線を走っていると歩道の子供が走ってきた

子供「おにいちゃんがんばってー」

手を振る。するとその子供が転んでしまった。

子供「う、うぇーん!い、いだいよー!ママー!ママーどこー。」

…さっきも似たような感じで大幅にタイムロスしてしまったが
……やっぱこのままにはできない。

西片「すいませーん!どなたかこの子のお母さんお父さんはいらっしゃいませんかー!」

子供「ママー!」

西片「あと絆創膏と消毒液ある人いらっしゃいませんかー!」

観客「ば、絆創膏なら…」

おばちゃん「消毒液家になら…おばちゃん家近くだからちょっとまっててね」

高尾「おい、西片、何やってんだお前……」

西片「この子が転んじゃった上に迷子みたいで…」

高尾「……お、俺も残った方がいいのか…?」

西片「いや、大丈夫だから!高尾はそのまま走ってよ!」

高尾「わかった…」

しばらくしておばちゃんと母親が来た

おばちゃん「消毒液持ってきたわよ~」

子供の母「すみませんうちの娘が…コラッどこ行ってたのよ!」

西片「あ、あんまり怒らないであげてください」

手当をしてあげた

子供の母「ほんと申し訳ありませんでした。ありがとうございました。ほら、お兄ちゃんにお礼言いなさい」

子供「おにいちゃん。ありがと」

西片「どういたしまして」

さて、マラソンに復帰するが…もう相当後ろの方だ。ビリなんじゃないかこれ下手したら。

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西片がなかなか来ない。心配だ。
なんでだろう。あんなに走りこみしてたのに
サナエちゃんはもちろん高尾くんもとっくにゴールしてる
なんかあったのかな…いい成績なんて取らなくてもいい
ゴールできなくてもいいよ……無事でいてくれさえしたら……

そんな中高尾くんと木村くんが話しているのを聞いてしまった。

木村「西片も出てるって聞いたけどなんで高尾のが速いんだ?」

高尾「ああ、西片はなんか熱中症でバテてる選手に水あげて自分がばてちゃったり…途中で転んじゃった子供を助けたりしてだいぶ遅れてだな…」
高尾「無視して走ってたら結構いいとこまでいったんじゃねえの。勿体ないよなー。」

そっか…西片。
西片は本当にやさしくて…
例えビリでも。完走できなくても。
西片は最高にカッコいいよ!
だから、西片が見えたら私は全力で応援してあげなきゃ。

西片の姿が見えた。
声をはりあげて応援する。

高木さん「西片ぁぁぁあ!あとちょっとだよ西片!がんばれぇぇえ!」
高木さん「西片は最高にカッコいいよ!世界一、宇宙一カッコイイよ!だから自信もってー!」

西片「ちょっ…高木さん……///は、恥ずかしいから大声で!」

高木さん「西片ぁぁぁ!愛してるー!!!」

高尾「た、高木さ…ん?」

西片「は、恥ずかしいから!大声で言わないの!///」

無事ゴールする。
すると同時に高木さんが抱きついてくる。

「た、高木さんみんな見てるから!///汗臭いだろうし」

「汗臭くなんてないよ。全部が全部カッコよかったよ西片。」

「そんな……だって全然いい成績残せなかったし」

「西片のかっこ良さは、マラソンで1位になる事じゃないよ。高尾くんがなんで西片が遅れたか喋ってるの聞いちゃったんだけどね。
西片はそういうやさしい所が、とってもかっこいいんだよ。」

「……///」

「はい、スポーツドリンク。熱中症気味だろうと思っていっぱい買ってあるんだ。飲んで」

「ありがと…高木さん。」

「後で一緒にお弁当食べよ?西片お腹すいてるかと思っていっぱい作って来たんだよ」

「うん。ありがとう!」

その後表情とかあったが俺には全く関係ないので(ちなみに月本さんですら最終的には17位だったらしい)
その場を後にして、見晴らしのいい所で高木さんのお弁当を食べる。

「本日の主役、西片選手には私がお弁当を食べさせてしんぜよう」
高木さんノリノリである

「あーん」

「やっぱ高木さんの作る卵焼きはおいひい」

「えへへありがと。次はからあげね」

「からあげも最高だよ」

「……西片。今回の勝負西片の勝ちだね。」

「…なんで?俺全然1位じゃないけど」

「やさしさ部門ではダントツ1位だもん。みんなが放っておいた人を助けて遅れたんだから」

「いや、そんなの…」

「じゃあ取り消す?そうしたら1位じゃないから約束どおり、私の初めてを今日貰ってもらうことになるけど。」

「え…それは……///」

「そっかー。西片はそんなにわたしとえっちがしたいから、1位を取り消したいのかー。男の子だねー。西片も。怪人エロエロえっちまんだね。」

「そうじゃないから!やさしさ1位取り消さない方向でお願いします。///」

「あはははは、相変わらずこういうの弱いね。西片。」

第86話完

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