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馬場さんが教えてくれた「手入れをすること」


七月末で会社が期末を迎える。八月からは、第九期。

「25で始めれば10年経っても35、まだ若手でしょ」

漠然と感じていた“自分たちの若さ”に対する不安をそんな無茶苦茶な開き直りで作った会社も、ようやく十期目が見える位置までやってこれたぞ、という気持ちでいます。

期末の方が先にやってくるので実際に創業十年目を迎えるのはまだ二年以上先ですが、「未熟ではあれどどうやら案外若手というわけでもなさそうだぞ」と言いたい気持ちです。


「手入れをする」ということについて考えている。

四年前の七月、栃木県益子町のギャラリー・カフェ「starnet」の主宰、馬場浩史さんが亡くなられた。

馬場さんと親交があったわけではない。スターネットは有名だったし、地元から近かったので何度か足を運んだことはあったけれど、直接お会いしたことがあるのはたったの一度だけ。

その一回も、1166バックパッカーズの飯室さんが声を掛けてくれて何人かで訪れた時で、みんなで馬場さんに話を聞かせてもらうようなかたちだった。

そんなほんの少しの接点しかなかったはずなのに、四年前の訃報の際、僕はどうしようもなく胸を衝かれてしまって、その日のうちにインターネットで馬場さんの記事を読み漁って、できる限りの言葉を集めた。馬場さんがどんな風に考えて生きたのかを知りたかったのだ。


「より快適にすることは大事だと思うのです。ストレスに思うことについて、全部手入れしていく。日々、手入れし続けることが大事。」
「常に“手入れ”をすることが必要です。部屋が汚れていて嫌だなと思ったら、きれいにして快適にしていく。人に対する接し方に違和感を感じたら、きちんと手入れをしていく。食べるものも身につけるものもそう。からだをアンテナにしながら、これは気持ちいい、これは気持ちよくないからこうしよう、と考えていくと、食べものも暮らしも、おのずと決まってきますよ」


それぞれ違うインタビューだけど、ほとんど同じことについて話をしている。その時見つけたこれらの言葉に、僕はこれまで救われてきた。

「手入れをする」という言葉は「手を入れる」「手を加える」とはニュアンスが違う。なにかを変える力というよりは、元に戻す、立ち返らせる力。

つまり、手入れをするには、違和感を感じたときに戻ってくるための指針となる、自分にとっての正しい状態を認識しておく必要がある。

だからこの言葉は、ただ自分の周りを良い状態にする、保つということだけじゃなく、自分が思う心地がよいもの、正しいと感じること、美しいと思う光景を根気強く明らかにしていく作業なのだと解釈した。


僕がこの言葉に救われたというのは、「手入れをする」というアクションを持ち得たというよりも、この「自分の心地の良いものを明らかにしていくべきなんだ」と感じられたということのほうが大きい。

自分の価値観をはっきりさせていこうとする気持ちって、意外と後回しにしてしまう。みんなの価値観の総意に合わせる方が楽だし、普通はそれが求められるとされているから。

些細な違和感を感じることがあっても、我慢をしたり、誤魔化したり、周囲に合わせて遠慮したりしまう。なんでだか、全体を乱さないために自分がストレスを負う方がいいと思い込んでしまうときさえ、ある。それぐらい「自分の違和感に常にきちんと敏感でいる」というのは難しい。

だからこそ、「自分の周りを快適にしていくのは、大事なことですよ」と改めて明示してくれたことに安心したのである。そしてこれは、生活だけではなく仕事にも言える。


以前、僕とは倍近く年齢が離れている、books+コトバノイエの加藤さんが、「この年になってくると、もう好きなことしかしたくなくなる。他のことをしている時間はもったいない。じゃあ好きなことってなんだ、と思うと、自然と20代30代の頃していたことに戻ってくる。好きなことをしなさいよ」と言っていて、これにもすごく痺れた。

誰かの価値観を追ったり、人に合わせたりするんじゃなくて、自分が良いと思うものを見定めて、そこにむかって手入れをし続けていけるのがいい。そうやって見つけた好きなものに、年を重ねてから戻れるならなお最高。


30歳を越えて、自分たちの会社もちょっとずつ大きくなって、積み上げてきたものも少しずつ増えて来た。けれど、年月の重みを感じれば感じるほど、ただ続けるんじゃいけないぞということを、同時に心に刻んでいます。違和感に敏感に。心地のいい場所を探して。



引用元:

特別対談 自分の居場所をつくる 馬場浩史×西村佳哲 http://www.cokes.jp/pf/shobun/html/tyosya/tyosya-2k5-06.html
colocal Innovators インタビュー vol.4 http://colocal.jp/topics/think-japan/innovators-intaview/20120801_8962.html


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