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ほんとうのにせもの(設問がある物語 10)

僕の祖父は、老人だというのになかなか寝ない。今日も深夜、14インチのテレビで、古い幻想映画を見る。

幻想映画には回転木馬が現れる。それは完璧な偽物である。

草原走る白馬、の偽物であるところの木馬、が走っているように見せるための嘘の大地、というレトロな仕組みのにふさわしく、わざと古く、使い込まれたかのように、あたかも愛されたかのように、いくらでも物語がありそうに作った、大道具たる映画のセット。

完璧な偽物にも、命は宿る。

木馬は言う。

「お嬢さん。貫く鉄心を抜かれたとしても、俺は飛べない。馬だから。ああもし俺が、鳥だったなら」「鳥だったならなんだというの、本当は、飛びたくなんかないんじゃないの?」「鳥だったなら飛ぶだろう」「そして走れなくなるわけね」「走るかわりに飛ぶだろう」「飛びながら、走りたかったと泣くのでしょう」

偽物の馬と、ブリキの少女の問答は続く。

「お馬さん。ミルクをたくさん飲んだとしても、わたしはおおきくなれないわ。せめて瞳が宝石ならば。」「宝石だったらなんだというのか、決して自分で見れもせぬのに」「見ることなんて、必要ないのよ。だって私は見られたいのよ。」「それなら俺が見てやろう。悪魔のように目を取り出して、飾ることもないだろう。さあ私に乗りなさい。」「あなたは優しいお馬さん。飛ばなくたってどこでもいける」

だがしかし、偽物の大地に立つ偽物の馬は、どこへもいけないのだった。くるくると偽の疾走をしながら、問答は続いていく。せめて、すこしだけでも本物にみえるようにと、だから祖父はテレビを買い換えない。今日も、14インチのテレビで見る。

✂︎

ここまでで物語は終わりです。

あなたへの設問

設問1
私たちを楽しませる目的でつくられる偽物の例をひとつあげなさい。(30字程度まで)

設問2
偽物とわかっているのに本物らしさを追求することで、どのような良いことまたは悪いことがあるか考察しなさい。(1500字程度)

高濱です。私の小さな物語を読んでくれて どうもありがとうございます。沁みます…。 読んでくれたことがうれしい。ありがとう!