私を支えるわたしの手は冷たい

しめちゃんへ

地獄の業火の中、茶をすすりながら自己肯定感について考えている。
自己肯定感を上げるには自身を認めてあげることが一番の近道らしいことはもう何度も聞いてきた。そして聞くたびにその近い道はそれはもう険しく人生が終わるまでにたどり着けるかわからないかもしれないじゃないかと私は酷く憤慨する。毎回毎度飽きずにアスファルトを蹴り飛ばす。
私は物事を上手くショートカットすることが苦手だ。つまり近道ができない。よくガスコンロが隣にありながら石を叩き火をつけようとしてしまう。便利を自ら発明できないのだ。
そんなわかりやすく無鉄砲でトンチンカンな私はある目印を道や行程に最近つけることにしている。
それは〇〇フェアと名付けていて、たまに訪れる季節ものみたいなものだ。毎日何かをすることは簡単に思えて重い枷のついた契約だ。だけどフェアだったら名前も妖精のようだし、作った側もそこまで考えていなさそうだしと気負いしないだろう。私に先週訪れていたフェアは朝ごはんしっかり食べようフェアとアイシャドウたくさん使ってみようフェアだ。フェアは何個でも訪れるしいつのまにか忘れられている。スーパーの端の空きスペースでタオルが山積みになっているそんな感じ。そのタオルフェアはタオルが必要な人やお得が好きな人にしか目に入らなかったりする。私が必要なくなった時にはもう意識すら向かない何処かへ行っている。
こう考えていると自分自身をあまり私と認識していないのかもしれないと思う。進む道の先々に目印を置いてあげなければ気づけないことが多い。
常にどこか私に対して私は他人事で、自分の荒れた肌を触るにしてもこうしてやれば良くなるからそうしなよと思っているし、今日疲れたのは私が弱いせいだから私が一番悪いと確かに思っている。
少し危険な思考回路だ。してあげようという意識があまりに強い。
そんな私が自分の為にしているはず、のことは似合う色をつけることだ。服や靴 髪色、メイクにおいて全て。
ちなみに私のファーストリップはナーズの暗いプラムカラーのリップ。
(マツキヨで好きなのはアルジェランの色付きリップ)
私は高校卒業するまでほとんどメイクをしなかった。そして高校卒業して浪人するとなった時に何も見えないということと戦う為に大人にならなくちゃと焦って化粧品を少しずつ集めだしたのだ。武器としてメイク用品に手を出したのが果たして良かったのかはまだわかっていないが18の私は百貨店に行って、モードでカッコいいイメージの憧れのナーズへそのまま直行した。そして開口一番「私に似合うリップをください」と言ったのだ。母はデパートで化粧品を買ったりする人ではなかったので私にとって百貨店コスメ売り場はもはやファンタジーな世界だった。いつも通り過ぎるあの売り場に高いお金を払って武器を買いに行ったのだ。罪悪感があった。そう言われたお兄さんは一瞬キョトンとしていたが思った以上に戦士で真面目な顔付きの私をみて彼はキュッと顔を締め指先を反らせて一本の色を選んでくれた。当時 暗い紫のおかっぱヘアだった私にお兄さんはプラムカラーのリップを選んで塗ってくれた。コシノジュンコみたいなアジアンな雰囲気が出て嬉しかったのかチークも入れてくれた。確実にその辺を歩く顔じゃないチークの量を施されそれは似合ってるのか似合ってないのかわからなかったが、リップを塗った私はとても強く見えたのでそのまま「ください!」と買った。今もまだ大事に使っている初めて(デパコスと呼ばれるもの)を買った記念のその色はもうすぐなくなってしまう。
"わたし"という存在の外壁は厚くそして硬い。
その頑丈な外壁を登ってしまえば中は普通のワンルームのアパートの一部屋が現れるだろう。
私にとってナーズのリップや服は最初は武器だったが今は呪符にきっと近い。装飾やルールにやたら固執して無くなると不安でどうしようもなくなってしまう。私が出した答えはわたしに否定されてしまうんだろうなと常に怯えていて私が私が怖いのだ。全然許せない私に 強いわたしに私自身が私を一番恐れている。私は大丈夫だろうか?と先にあるわたしが置いた目印を頼りに歩んでいる。何かに頼ることはとても難しいよね。本当に難しい。

わたしへ 私は少し最近辛いです。

私より
凜より