かんざしの如く

 私の地方ではようやく桜が満開を迎え、昨日は同期の人たちと公園でお花見をしながらお昼ご飯を食べた。公園のベンチに座って食べるのかなと思って公園に行ったら、ブルーシートを敷いて待っており、その気合の入り方に驚いた次第。

 桜吹雪の中、お昼ご飯を食べていると、おばあさんに声をかけられた。あまり人のいない公園で、ブルーシートを広げてお花見をしている私たちが珍しかったのだろう。他愛のない話をしながら、一緒に公園の桜を見る。公園の桜はソメイヨシノであり、また、桜以外に何種類かの花が咲いていた。ふと、おばあさんが一層ピンクの柳桜に気がつく。

 「かんざしのようだね」

 なんとも素敵な表現である。私から絶対に出てこない表現だ。当然私はかんざしを使わないし、まわりの同世代もかんざしはあまり使わない。かんざしは、私よりも上の世代の女性が、ちょっと特別なときに自らを彩るために使ってきたものだ。柳桜を「かんざし」と表現する妙に、その女性の人生の幾許かが窺える。

 5分もせずにその女性は去っていき、しばしのまどろみの後、私たちも午後の仕事に向かった。

 桜舞う季節は短い。次は、鯉が空を泳ぐ季節がやってくる。 

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