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市場ワーキンググループ議事録を読む

昨日、金融庁ホームページにおいて、金融審議会「市場ワーキンググループ(以下、市場WG)」(第23、24回)の議事録が公表されました。

この2回の市場WGにおいては、「2000万円問題」で広く知られることになった報告書「高齢社会における資産形成・管理」について討議されました。

世間では、この報告書に関するマスコミの誤った報道によって、「年金では生活できないことを政府が認めた」などと騒ぎになり、年金問題として参院選の争点になるなど、報告書の趣旨が正しく伝わっていませんでした。

その点については、私もnoteで以下のような記事を書かせて頂きました。

私の記事の中では、報告書の趣旨が歪められて報道されていた問題について指摘をしつつ、以下の2点については、報告書の内容に足らない部分があったのではないかと述べさせて頂きました。

1.老後の生活設計においては公的年金が柱となるにも関わらず、それに関する情報提供が不十分ではなかったのか。

2.投資というのは、老後の生活のために行うのではなく、社会的な活動として求められているものではないか。

今回公表された議事録を読んでいくと、この点について報告書だけでは分からなかった、市場WGの考え方が見えてきました。

まず、公的年金に関する情報提供が不十分ではなかったのか、という点については、第24回市場WGの議事録における以下の発言を見ると、高齢期における生活設計を考える上では様々な事柄がある中で、本報告書が自助に関わる部分に着目したものであるということが分ります。

【林田委員】 
 ありがとうございます。大変手短に申し上げます。 私なりに本報告書の性格みたいなものを確認しておきたいなと思っておりまして、本報告書は人生100年時代を迎えるに当たって、人々を支えている公助、共助、自助のうち、とりわけ資金面での自助の努力が尽くされているのだろうかという問題意識のもとに議論を重ねて、まとめられたものだと理解しています。  むろん、公助や共助を軽視する意図というのはもともとないということでありまして、公的年金のマクロスライドでありますとか、厳しい財政状況でありますとか、そうしたものを前提にして、国民が老後をできるだけ豊かに暮らすにはどうしたらいいのだろうかということについて、知恵を出し合って処方箋としてまとめたものだと思っています。 金融庁におきましては、池尾先生もご指摘されたように、いろいろな省庁とも連携していますので、そちらとも連携しながらですね、報告書の狙いが国民に広く周知、広報されるように努力していただきたいというお願いでございます。

 【竹川委員】 
 ほんとうに多様な意見が出ましたが、このようにまとめていただきまして、ありがとうございます。手短に申し上げたいと思います。このワーキングに関しては、先ほど林田委員からもありましたが、公助、共助、自助の中で自助をどうしていくかという話を中心に議論してきたものと認識しております。人生を通して、1人ひとりがお金をマネジメントしていく必要性があるということ、そして、若い頃からきちんと資産形成をし、リタイア後には運用しながら取り崩していくという一連の流れを示したことは大きかったと思います。

つまり、この報告書だけで共助である公的年金制度も含めた高齢期全体の生活像を語るものではないということです。この点を踏まえていれば、家計調査の平均値から算出した「2000万円不足」という結果は、あまり意味のないもので、それを記事の見出しにして不安を煽るような報道をしたマスコミの責任の重さに、改めて憤りを感じてしまいます。

次に、投資は老後の生活のためにやるのではない、という点については、第23回市場WGにおける以下の発言が参考になります。

【島田委員】
 それから、若い方たちへの運用の楽しさ、将来に備えるということについて、もう少し積極的に伝えていただければなと思います。どうしても文面からは、将来が不安だから早くから運用しましょうねという雰囲気がひしひしと伝わってくるのですけれども、これを具体的にこれからパンフレットやいろいろな場所で広げていくに当たっては、ぜひ、将来に向けてこつこつ備えていくことは、将来自由にお金を使えるようになるためにも必要なことなのだと、安心してお金を使えるようになるために今から準備しておきましょうねという、楽しさをお伝えいただければと思いますし、私たちも実際の仕事の中でそのように伝えていきたいなと思います。 

【竹川委員】
 3点目は、先ほど島田委員からもご指摘がありましたが、現役世代の資産形成、投資は必ずしも進んでいません。「不安だから」だけではなく、例えば、投資は社会を支える上で必要なことなのだという本質的な、ポジティブな面も今後は伝えていく必要があるのではないでしょうか。

このお二人が発言されていることに関して理解することが、投資教育として一番重要なことではないかと思います。私も、最近のnoteで投資教育に関する記事を書きました。金融庁と金融業界の方には、ここら辺をもっと考えて欲しいところです。

そして、最後に第24回市場WGにおける以下の発言をご覧ください。

【永沢委員】 
 本日はマスコミの方も多く傍聴席にいらっしゃっていますので、マスコミの方にこの機会にぜひお願いしたいことがございます。それは、前半の部分は現状の整理というに過ぎず、その前半部分が世間的には衝撃的だった部分もあったのかもしれないということで、皆様の関心を呼んでいるとは思いますけど、私としては、25ページからの「考えられる対応」の部分を読んでいただきたいということをお願いさせてください。この部分こそが、この市場ワーキンググループの場でみんなで知恵を寄せ合って取りまとめた部分です。参加したメンバーが、自分自身や自分の周囲の人の人生がよりよいものとなることを願い、そのためには、お金との付き合いについてどうあったらいいのかということを考えて意見を出し合い、知恵を寄せ集めて、その考え方をまとめたつもりでおります。前半を読んで終わりにせず、25ページ以降の後半のところをぜひ読んでください。その上で、ご自分の立場でいろいろなことを考えてください。別の違う考え方もあるのではないかとか、このように取り組んだらいいのではないかということを、これから一緒に考えていただけたらと思っております。本報告書はそうした議論の端緒であってほしいと願っております。

このように、委員からは報告書の1部を切り取って報道することについて苦言を呈する発言があったにもかかわらず、翌日の新聞に報道された内容は、「老後に2000万円が不足」が強調されたものでした。

これが、2流週刊誌であればまだしも、日本を代表する新聞社の記事ですから、そのレベルの低さには驚きというか、あきれてしまいます。

市場WGの報告書について記事を書くならば、少なくとも、まず報告書の全体を読む、WGを傍聴して報告書の裏にある討議の内容について理解する、ということが求められるのではないでしょうか。

ところで私が懸念しているのは、今回の市場WGの報告書と同じようなことが、間もなく公表されるであろう「公的年金の財政検証」についても起こり得るのではないかということです。マスコミ関係者は、同じ間違いを繰り返さぬようにして欲しいと思います。

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