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ひきこもりおじいさん#72 発想

その光景を写真を撮ったようにはっきりと瞼の裏に焼き付けた私は踵を返し走り出しました。そして家に帰り部屋に戻ると、天井を見上げるようにして寝転んだのです。目を閉じて深呼吸を何回かした後に、客観的にこの状況を把握しようとしましたが、二人の重なる姿どうしても目に浮かんで、上手く頭が回りません。私は正ちゃんからも幸恵からも嘘をつかれ、その二人は今も一緒に楽しい時間を過ごしているのです。そんな事実を考えるだけで、私の身体はまるで重い鉛のように深い海の底へずぶずぶと沈んでいくような気持ちになり、思わず涙が溢れました。どうして二人に嘘をつかれた挙げ句、こんなやるせない暗澹たる気持ちに自分だけがならないといけないのか全く理解できません。私は二人に非などないのに、正ちゃんも幸恵も許せない!そう心の奥から沸々と強く思ったのです。しかし今振り返ると、その時の私は本当に子供で、自分の事しか考えていませんでした。そんな私に二人を見守ろう、応援しようなどという発想が思い浮かぶ筈がありませんでした。

#小説 #おじいさん #光景 #天井 #暗澹 #発想

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